第2話:ただの防獣柵が国レベルの防衛システムだった場合〜魔物の大量解体と露天風呂〜
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神聖ロザリア王国から遥か遠く離れた、不毛の地『デスバレー』。 その漆黒の暗闇の中で、無数の赤く濁った瞳が光っていた。
『ギルルルル……!』
彼らはAランクに指定される広域災害級の魔物、『デス・ベア(死喰い熊)』の群れだった。
一頭の体長が軽く五メートルを超え、その腕力は強固な城壁をも一撃で粉砕する。 さらに、彼らの体を覆う黒い体毛は『鋼線』よりも硬く、並の騎士の剣や中級魔法などすべて弾き返してしまう恐るべき防御力を持っている。
過去、彼らの討伐に向かわせた王国騎士団の精鋭中隊が、たった三頭のデス・ベアによって半日で全滅させられた記録が残っているほどだ。
そんなデス・ベアたちが、今夜は異常に群れを成していた。
彼らの視線の先にあるのは、この不毛の大地に突如として出現した『異常なマナの塊』。 ――つまり、レオンが先ほど錬金術と建築魔法で数秒で建ててしまった、豪華な真っ白のログハウスである。
デス・ベアたちは、その不快な光を放つ箱と、その中に眠る脆弱な獲物を引き裂くため、一斉に突撃を開始した。
地鳴りのような足音が響き、数十頭が猛烈なスピードで家へと殺到する。
だが。
彼らが家の周囲の境界線を越え、その細い木枠に触れた瞬間だった。 レオンが夕方に「野犬でも来たら怖いから」と、適当な木の枝などで立てた『腰の高さ程度の低い柵』だ。
「ギャギュッ!?」
パァン! という無機質で乾いた音が響いた。
直後、鋼の防御線を誇るはずのデス・ベアの巨体が、まるで目に見えない巨大な刃のミキサーにかけられたかのように、空中で一瞬にしてバラバラに「解体」され、絶命した。
それは戦闘ですらなかった。 圧倒的な、ただの「処理」だった。
群れは次々に柵へ突撃しては、瞬時に綺麗に解体され、素材となって地に伏していく。 ものの数分で、デスバレーの死の象徴たちは完全に全滅していた。
▽ ▽ ▽
「んーっ、よく寝た!」
翌朝。太陽が高く登ってから、俺はフカフカのベッドで気持ちよく目覚めた。
王都の雑用係時代は、早朝から王子たちの装備点検で叩き起こされていたが、今日は違う。 誰かに急かされない朝の、なんて素晴らしいことか。
大きく伸びをして、俺はデスバレーの新鮮な空気を吸い込むためにエントランスの扉を開けた。
そして。
「うおっと……なんだこれ?」
庭に出てみると、そこには驚くべき光景が広がっていた。
昨日作った木製の低い柵の前に、大量の肉、真っ黒な毛皮、そして質の高い大きな魔石が、部位ごとに綺麗に切り分けられて山積みになっていたのだ。
「ああ、なるほど。昨日『野犬除け』として作った防獣柵のエンチャントが作動したのか」
俺は腕を組んで納得する。
あの柵には、俺の『建築魔法』のオマケとして【因果律歪曲の絶対反射】や【オート迎撃(解体)機能】を付与しておいたのだ。
王宮の魔導士たちが聞けば、泡を吹いて倒れるかもしれない。
なぜなら彼らの常識では、【因果律歪曲の絶対反射】は「国家の結界石を百個消費し、数十人の宮廷魔導士が一ヶ月がかりで詠唱してようやく王都の一部に展開できる究極防衛魔法」だからだ。
しかし俺のエンチャントは、大気中のマナを勝手に吸い上げて、神話級の術式に自動変換して定着させてしまうらしい。 もちろん俺自身は「ちょっと頑丈になるおまじない」程度の認識でかけている。
「害虫駆除機みたいなもんだな。しかし、こんなに大量のお肉が手に入るとはラッキーだ」
山積みの素材をストレージ用の魔法袋に収納しながら、俺はほくほく顔になった。
さっそく、手に入れた極上の肉を、家の備え付けの魔導キッチンでこんがりと焼いてみる。 あとで知ったが、これが数十万ゴールドで取引されるAランク魔物の肉だった。
ジュワァァァ……!
滴る肉汁の香ばしい匂いが空間に広がる。
岩塩を軽く振って口に運ぶと――。 上質な脂の甘みが舌の上にとろけ、噛むほどにマナを豊富に含んだ細胞が弾け、体の底から活力が湧いてくるのを感じた。
「……美味すぎる。王宮の晩餐会に出た幻の獣肉より美味いぞ、これ」
大満足の朝食(時間的には昼食だが)を終えた俺は、庭に残された素材の山に目を向けた。
肉の他には、弾力のある丈夫な黒い毛皮と、野球ボールほどもある高純度の魔石が大量にある。
「この毛皮、触り心地がいいな。形を整えて、お風呂の脱衣所の『バスマット』にでもするか」
国宝級の防具にすらなるAランク魔物の毛皮を、惜しげもなく脱衣所の足拭きマットとして配置する。
そして、残った大量の魔石を見つめて、俺は閃いた。
「これだけ上質な魔石があるなら……庭に大きな『露天風呂』でも作るか!」
家の中の風呂だけでは味気ない。 デスバレーならではの荒野の絶景を見ながら浸かれる露天風呂が欲しい。
俺は再び、スキル【等価交換(錬金)】と【建築魔法】を発動させた。
「深さは……そうだな、お湯が豊富な三〇キロメートル下あたりから引っ張るか」
デスバレーの地下深く、数十キロ下に流れる高純度の温泉脈をごっそりと魔力で強引に引き上げ、先ほどの魔石の山を大容量の「浄化フィルター」として回路に組み込む。
さらに周囲の岩を錬成して巨大な岩風呂を組み上げ、湯温を下げることなく永遠に循環し続ける自動調節の術式を石に定着させた。
わずか数分の出来事である。
庭には、王族専用の高級保養施設も顔負けの、巨大で豪華な露天風呂が完成していた。
「サイッコォー……」
真昼間から青空を見上げ、俺は広々とした湯船で思い切り手足を伸ばした。
最高の家、美味しいご飯、そして広大な露天風呂。
誰にも支配されない、俺のやりたい放題の極上スローライフが、完璧にスタートを切った――かに見えた。
ザッ、ザッ。ズサッ。
不意に、遠くの荒野をよろめきながら歩く足音が聞こえた。
目を細めると、そこには血まみれになってボロボロの衣服を纏った、銀色の犬の耳が生えた小さな少女が倒れ込むのが見えたのだった。




