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第17話:帰還した勇者〜かつての言葉(ブーメラン)と崩壊する玉座〜

神聖ロザリア王都。


かつてレオンが追放された時と同じように。 眩い太陽が白い街並みを照らしていた。


だが、その城門をくぐったのは、光り輝く凱旋軍ではなかった。


「……はぁ、はぁっ、くそぅ……なぜ、俺がこんな……!」


泥と、自分でお漏らしした汚物にまみれ。 顔を恐怖と屈辱で歪めた男が一人。


かつての輝きを失った名馬に跨り、逃げるように城へと駆け込んだ。 第一王子にして勇者、アレクサンドである。


道ゆく市民たちは、かつての英雄の無惨な姿に目を疑い……。 「あれは本当に王子なのか?」「ひどい悪臭だぞ」と囁き合い、顔を背けた。


アレクサンドはそんな衆目にさらされながら。 衛兵たちの制止も聞かずに玉座の間へと転がるようにして駆け込んだ。


「父上! クレイマン宰相! 一大事です!」


「我が王国の誇る討伐軍数千人が……なす術なく、デスバレーの新魔王による恐るべき広域洗脳魔法によって、一人残らず敵側に寝返りました!!」


その悲痛な、しかしどこかヒステリックな報告に対し。 玉座の間に並んでいた国王、そして重臣たちの反応は、吹雪のように冷ややかだった。


国王は頬杖をついたまま深い、深い溜息をつき……。 宰相クレイマンが氷のような視線でアレクサンドを見下ろした。


「……アレクサンド王子。貴方のその報告を、我々が、そして神が信じるとでもお思いですか?」


「ほ、本当なのです! 奴らは……奴らはレオン。あのかつて追放したはずの無能が差し出した、一杯の洗脳スープの香りに当てられて……」


「我先にと土下座して……!」


「黙りなさい!! お見苦しい!!」


国王の怒号が、静まり返った玉座の間に雷鳴のように響き渡った。


「言い訳など聞き飽きた。我々にとっての事実はたった一つだ」


「貴様が、歴史上誰も侵攻しようとしなかった不毛の最果て、デスバレーへと……反対を押し切って勝手に数千の大軍を動かした」


「そして、王室の予備費を含む莫大な軍資金と、王国の国防の要である精鋭騎士団を……」


「『一滴の血も流さずに、ただ失った』という、救いようのない無能な事実だけだ」


アレクサンドは顔面を蒼白にさせ、膝をガタガタと震わせた。


「ち、違います! あれは、奴らが裏切ったのであって、私の指揮に非が……!」


「指揮に非がない軍隊が、揃ってスープ一杯で寝返るなど、どこの三流芝居でござるか?」


重臣の一人が、冷酷な嘲笑を浮かべて鼻を鳴らした。


「それに王子。貴方はつい先日、この玉座で、あの錬金術師を追放する際に何と仰いましたかな?」


宰相クレイマンが、一歩前に出る。 その手には、レオンの追放を録取した魔導記録板があった。


「……『結果を出せない無能は王国の寄生虫だ。役に立たず、国の財を食いつぶすだけのゴミに、このロザリアに居場所はない。今すぐ出ていけ』。……でしたな?」


その言葉は、まさに第一話でアレクサンド自身が。 絶対的な権威を公使してレオンに向かって冷酷に言い放った罵倒そのものだった。


「ぐっ……! それは……!」


完璧なまでのブーメラン。


かつて自分が他者を貶めるために放った凶器が。 今や自分の喉元に食い込んでいる。


現在、この玉座の間において「結果を出せず、国の多大な財産と軍事力を一瞬でドブに捨てた、役に立たない寄生虫」は……。


他ならぬアレクサンド自身なのだ。


国王は、もはや息子を見るような光を完全に失った目で宣告した。


「我が国は、この不祥事を聞きつけた隣国・軍事帝国からの圧力をすでに感じている。主力軍の半分以上を失った責任は、万死に値する」


「よって、アレクサンドよ。貴様に最後通牒を突きつける」


国王は、かつてレオンがサインしたのと同じ形式の「追放宣告書」をアレクサンドの前に投げ捨てた。


「直ちに、単独で、失った軍事費と同等の成果を持ち帰れ」


「すなわち、『魔王の首』と、その要塞と言われる場所に隠された『神話級の財宝』だ」


「それができねば、貴様の王族としての身分、および勇者の称号を永久に剥奪し、罪人として平民以下の身分で国外追放とする」


「なっ……! そんな、たった一人であの化け物たちの巣窟へ戻れと言うのですか!?」


「私に死ねと言っているのと同じではありませんか!!」


「結果を出せない無能は、王国には不要だ」


以前、彼が鼻で笑いながらレオンに突きつけた決まり文句が。 今度は彼自身への呪いの呪文となってこだました。


かつて勇者パーティーの主役として、全てを思い通りに動かしていたアレクサンドは……。


誰も味方がおらず、かつての部下さえも残っていない玉座の冷たい床の上に、ただ一人で崩れ落ちるしかなかった。


一方その頃。 デスバレーのレオンの村では、そんな王都の陰鬱な末路など全く関知せず。


レオンが「ちょっと増えた住人のために新しい果樹園を作ろう」と。 新たな神話の創造を始めようとしていたのだった。

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