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第15話:恐るべき罠と絶望の遭遇〜魔王レオンの御前〜

デスバレーの死の大地に突如として出現した「純白の道」。


勇者アレクサンド率いる数千の討伐軍は。 その不気味なほど美しく、狂気的なまでに滑らかな一本道に足を踏み入れ。 盾を構えたまま重い足取りで進軍し始めた。


道の両脇には、数十メートルおきに淡い温かな光を放つ謎の魔法球体がプカプカと浮遊し。 彼らの青ざめた顔を照らし出している。


「気をつけろ! あの光の球は、侵入者を感知する自動ターゲティングの防衛砲台だ!」


「いつ不可視のエクスプロージョンや極大雷撃が飛んでくるか分からんぞ! 盾を構え、絶対に警戒を怠るな!」


アレクサンドは冷や汗を滝のように流しながら、後続の兵士たちに神経質に叫んだ。


しかし当然ながら……。 それはレオンが「夜にセリアちゃんが歩くときに暗くて転んだら危ないから」というだけの理由で。 先日の夜に等間隔で浮かせただけの、ただの人畜無害な『等間隔の街灯魔法(マナ永久機関付き)』だった。


彼らににとっての真の悲劇は。 張り詰めた糸のような緊張状態の彼らが、道の中腹に差し掛かった時に起きた。


「ぎゃあああ!」


突如、進軍していた兵士たちの悲鳴が上がった。


彼らが握りしめていた鋼の武器や盾が、まるで陽炎のように眩い光となって。 次々と手の中から「消滅」していったのだ。


「なんだ!? 何が起きた! 敵襲か!?」


「お、王子! この一帯の空間そのものに敷かれた高度な防壁結界が……」


「我々の武具に染み付いた『ほんのわずかな呪い』……すなわち、長年の戦闘による血の匂いや、手入れ不足による劣悪なサビ、兵士たちの殺意に過剰反応し、強制的に浄化(消滅)させています!」


魔法兵が手元の計測機を破裂させながら絶叫した。 アレクサンドは顔面を蒼白にさせ、足の震えを必死に抑え込んだ。


「なんという悪魔のシステムだ……!」


「命を奪うのではなく、軍隊の武装だけをピンポイントで分子レベルまで分解して消し去り、戦意を根こそぎ奪うなど、神話の防衛都市の機能ではないか!」


……言うまでもないが、これもレオンが「家に帰るまでに靴の泥や服の汚れが自動で落ちたら便利だな」と思って道に付与した『ただの自動クリーニング機能(ちょっと強め)』によるものだ。


その強力すぎる浄化機能が、野営で泥と血にまみれた血生臭い武器を単なる「しつこいガンコな汚れ」と誤認し。 強力に消臭・除菌・物理消去しただけであった。


戦わずして半分以上の兵士が戦意を完全に喪失し。 武器をピカピカに大クリーンされて丸腰かつ無害な集団となった状態で。


勇者軍はやがて「魔王の都市」の外郭――。 神聖な虹色の光を放ち、空よりも高くそびえる巨大な絶対拒絶バリアの前に到達した。


そこには、恐ろしい魔族の軍勢など存在しなかった。


バリアの向こう側に広がっていたのは。 黒銀に輝く天を突く超未来的なタワーマンションや、一個で国一つが買えるほどの世界樹レベルの霊薬がたわわに実る大農園だった。


そして、一人の細身の青年が。 銀狼のメイド(セリア)と大ドワーフ(バッカス)、さらに元・王国騎士団の面々に見守られながら。 綺麗に手入れされた芝生の庭で優雅にアフタヌーンティーを飲んでいた。


アレクサンドは、信じられないものを見る目で硬直した。


そこにいたのは、神のごとき威厳……。 いや、ただの風呂上がりのさっぱりとした清潔感。


そして、日々の極上の食事とストレスフリーな生活から溢れ出る、圧倒的に健康的なマナの充実を放つ……。


かつて自分が無能の烙印を押して追放した腹立たしい錬金術師、レオンその人だったからだ。


「あれ? アレクサンド王子? と、王国軍のみんなだよね……?」


「どうしてこんな未開で危険な辺境に、何千人も揃ってそんなボロボロの格好で来てるの? まさか集団遭難?」


レオンは本当に不思議そうに目を丸くして、淹れたての紅茶の入った高級なティーカップをコトンとテーブルに置いた。


「まさか……貴様が……!」


アレクサンドは、これまでの旅路での全ての異常な事態。 理不尽なデバフや圧倒的な防衛システムが一本の線で繋がったと完全に錯覚し、膝から泥の地面へと崩れ落ちた。


「おのれ……! 王都を出てからこの数日、俺たちの武具から力を奪い!」


「ロザリアの精鋭軍を幻惑の結界で翻弄し! 極めつけに、この神も恐れる圧倒的な要塞都市を一瞬で作り上げたその底知れぬ異常なマナ……!」


「やはり貴様が、この国からマナを奪い尽くした元凶たる『デスバレーの新魔王』だったというのか、レオン!!」


「我々王国を内側から崩壊させるためだけに、長年ただの無能な雑用係に化けていたのかぁぁぁ!!」


血を吐くような、そして自己正当化にまみれた勇者の絶叫。


しかし対するレオンは、心底呆気に取られた、キョトンとした顔で彼らを見つめ返しただけだった。


「えっ? 魔王? 俺、王宮をクビになって追い出されたから……」


「ちょっとこの辺でタワマンを建てて、のんびりスローライフ暮らしてるだけだけど……?」


「なんかすごいお腹すいてそうだし、そこの畑で採れたばかりの健康トマト(完全神聖栄養食)食べる?」


あまりにも圧倒的すぎる無自覚の暴力。


自分は魔王に嵌められたのだという究極の勘違いで絶望のどん底にいる勇者と。 最高のスローライフを満喫しているだけの最強の錬金術師。


両者のすれ違いは、いよいよ引き返せない最大のクライマックスへと達したのだった。

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