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第14話:決死の大進軍〜勇者の勘違いと泥沼の兵站〜

神聖ロザリア王都から、遙か極地にある死の大地『デスバレー』へと向かう過酷な荒野。


第一王子にして王国最強の勇者であるアレクサンドは。 純白の名馬に跨り、王国軍の威信をかけ、各地からかき集めた数千の精鋭討伐軍の先頭に立っていた。


「聞け、勇敢なる我がロザリアの誇り高き兵士たちよ!」


「今、この大陸の魔力バランスを乱し、未曾有の危機をもたらそうとしている新興の魔王を一族郎党残らず討伐し……」


「我らの大地に永遠の平穏を取り戻すのだ!」


アレクサンドは陽光を弾く『聖剣』を天高く掲げ、声高らかに兵を鼓舞する。


しかし、足取り重く従う兵士たちの顔色には。 深い疲労と絶望、そして隠しきれない死相が滲んでいた。


これほどの規模の重武装の大軍勢を。 事前の道路整備等のインフラが全く整っていない荒野に何の対策もなく進軍させるのは。 用兵としては完全に無謀な素人の狂気である。


絶え間なく襲い来る腕の太さほどもある毒虫。 泥濘にはまって動けなくなる重い補給馬車。


それらを、疲弊しきった人間の筋力だけで必死に押し上げる過酷な土木労働が。 歴戦の兵士たちの体力と士気を容赦なく削り取っていた。


月も隠れた夜行軍の最中、最後尾から最悪の報告がもたらされた。


「王子! 後方の食料馬車が大規模な魔物の群れに襲撃され、大半の物資と共に谷底へ喪失しました!」


「なぜか魔物避けの広域結界石が起動しなかったのです」


「残る食料は、馬の飼料を合わせても、全員で一日一食に分けて三日分しかありません!」


本来なら、かつてのパーティーにいた『ただの器用な雑用係レオン』が。 数千人でもすっぽりと入る規模の高度な魔物避けの陣すらも。 歩きながら口笛を吹きつつ鼻歌交じりに展開・維持してくれていたのだが、当然ながら誰もその事実に気づかない。


伝令の悲痛な絶望の報告にも、アレクサンドは泥だらけになった顔を歪め、冷酷に言い放った。


「構わん。我々の最終目的地であるデスバレーはすでに目前だ」


「魔王の要塞を発見次第、一気に落とせば、そこに潤沢な食料と奪われた財宝の山があるはずだ」


「ここで立ち止まる者は軍律違反で斬り捨てるぞ!」


ぬかるんだ天幕の中で。 アレクサンドは石のようにカチカチに硬い黒パンを泥混じりの水で無理やり流し込みながら。 ふとかつてのことを思い出した。


(なぜ……我々の野営は、かつてはどんな辺境であっても常に出来立ての温かい極上のシチューの香りで満たされ……)


(武具の手入れなどせずともいつでも新品のように輝いていたのだ?)


彼の頭に、王都の宮殿で追放を言い渡した時の、あの「無能な錬金術師一歩手前だったレオン」の愛想笑いがよぎる。


(まさか……いや、ありえない!)


(あの薄汚い無能が、何か大掛かりな魔道儀式を一人で黙々とやっていたとでも言うのか?)


(それは王国魔導院の常識を根本から覆す、到底あり得ない幻覚だ!)


(すべては英雄であるこの俺の統率力が完璧で素晴らしかったから上手くいっていたに決まっている!!)


極北のプライドと狂気を持つ彼は、胸の内で燻る論理的な疑念を強引に振り払い。 「我々の不幸と物資不足はすべて、デスバレーの新たな偽魔王が遠隔からもたらした呪いだ!」 と、完全に自分に都合の良い記憶改ざんと責任転嫁を行った。


そして数日後。 もはや野営の疲労と飢えにより、コンディションが『野盗の群れ以下』にまで下落した討伐軍は。 ついにデスバレーの物理的な入り口となる峡谷に到着した。


しかし彼らがそこで見たのは、予想していたような「瘴気を纏った禍々しい悪の要塞」などではなかった。


アレクサンド「……なっ!? なんだ、あれは……!!」


一行は全員、馬上のまま息を呑んで硬直した。


デスバレーの不毛な大地の中央から、こちらに向かって、地平線の彼方まで真っ直ぐに伸びる『純白の一本道』があったのだ。


それは王国の国宝級の大理石よりもさらに滑らかに物理法則を無視して舗装され。 莫大な純白のマナの光を帯びて夜すらも照らしている。


実は数日前に、レオンが「ちょっとセリアちゃんとピクニックに散歩がてらに行くから、歩きやすい道が欲しいな」と数秒の錬金術で作っただけのただの遊歩道だったのだが。


アレクサンドは血走った紅い目で、剣を引き抜いて叫った。


「警戒せよ! 見ろ、この異常なほど滑らかな道を!」


「これは我ら王国軍の足を滑らせ、誘い込むための、魔王の恐るべき結界魔法陣(巨大トラップ)だぞ!!」


彼らロザリア軍兵士たちは極度の緊張状態のまま、盾を構え。 その『ただの散歩道』へと恐る恐る足を踏み入れたのだった。

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