第13話:家庭菜園は世界樹のレベル〜神話のトマトと精霊族の長〜
住人が一気に10人以上も増え、それに伴って生活インフラが爆発的に整ったレオンの村。
爽やかな朝の陽光が差し込むタワーマンションの一階ロビー、通称「豪華な共用大食堂」での朝食時。 俺はふと思いついて口に出した。
「毎日Aランク魔肉のステーキやスープでお肉の味もすっごく美味しいんだけど……」
「毎日だと流石に胃もたれして飽きるね。新鮮な野菜サラダとか、もぎたての果物とか食べたいな」
隣で魔虫の骨髄からとった超回復スープを大事そうに飲んでいたセリアが。 慌てて狼の耳をピンと立てて首を横に振った。
「レオン様、それはいくらなんでも無理です」
「ここデスバレーの大地は、古代神話の時代に光と闇の神が最終戦争を行った古戦場であり……」
「魔王の強烈な怨念と呪いによって数千年間、草木一本生えない『完全な死の土壌』なのです」
「どんな聖女の癒しの魔法をかけようとも、種を植えれば即座に瘴気で腐敗し、土の毒に侵されて黒紫色の灰になります」
「大丈夫だよ、俺の錬金術でちょっとばかり土を改良するだけだから」
俺は心配するセリアをよそに。 専用のミスリル製スコップを片手にルンルン気分で裏庭の空き地へと向かった。
裏庭の固くひび割れた荒れ地を、スコップでサクサクと畑の畝のように耕していく。
俺は下準備として、軽めの【土属性魔法】で長年滞っていた地面のマナの通り道と水脈を整え。 ついでに前に作りすぎて余っていた「純度100%の神聖水(飲むと死人が蘇ると言われる伝説の聖水)」と。
バッカスの地下工房(無限マグマ炉)の底に溜まっていた「魔素の灰」を。 市販の化成肥料の代わりにパラパラと気楽に撒いた。
ドクン……!
その瞬間、大地全体が巨大な心臓のように大きく脈打った。
かつて魔王の呪いで数千年にわたり枯れ果てていたはずのデスバレーの土壌が。 俺が撒いた『ただの家庭菜園用肥料』の圧倒的な浄化力のおかげであっけなく自浄(解呪)され。
数分で神聖な虹色の光を放つ超濃度のマナ大農園(フカフカの黒土)へと変貌したのだ。
「よし、これで水捌けも良いフカフカの土ができた。ここに、昔王都の街角で拾った普通のトマトの種を植えるね」
俺がポツポツと種を植え、仕上げとして「早く美味しくなーれ」とばかりに、軽く【時間加速】の成長促進魔法を掛ける。
ズゴゴゴゴォォォォッ!
凄まじい轟音を立てて発芽したそれは、本来のトマトの蔦などではなく……。 ものの数秒で天に届くような巨大な樹木へと成長し。
その枝先に太陽のように赤々と光り輝く、メロンサイズの「超特大霊薬トマト」を何百個も実らせた。
その光景を見ていた元騎士隊長の一人が、スコップを取り落とし、膝からドサリと崩れ落ちて拝み倒し始めた。
「お、おお……神話の教典の最終局面にのみ現れる『生命の果実』が、一本の樹にこんなにも無数に……!」
「しかも周囲の空気に満ちる神聖な香りだけで、長年の酷使でかすんでいた視力が完全に取り戻されていくのがわかる」
「レオン様はやはり、人間などではなく命を司る創造神の化身であらせられるか……!」
「おお! すごく立派なトマトがたくさん採れたね! さっそく丸かじりしよう! 採れたてが一番だよ!」
俺がもぎたてのトマトをかぶっとかじった瞬間。 口いっぱいに想像を絶する極上の甘味と旨味が弾け飛んだ。
ただ美味しいだけではない。
食べた瞬間から、体の奥底の細胞の一つ一つから凄まじい力が湧き上がり。 寿命が十年は確実に引き延ばされるような、熱く強烈な生命力に全身が満たされた。
少し囓ろうと手を伸ばしたバッカスが、トマトから溢れ出る異常なマナフレアを感じ取り、ブルブルと震える手でそれを抱え込んだ。
「ば、馬鹿な。これはどんな不治の王宮病も、一口食べた瞬間に光の霧に変えて分子レベルで消滅させる、完全神聖栄養食じゃと!?」
「これ一つで、王都の中心に立派な城が三つは建つほどの莫大な価値があるぞ……」
「お主、これを毎食のサラダとして消費する気か……!? もったいなくて食べられんわ!」
そんな彼らの阿鼻叫喚の騒ぎの中。
レオンの異常な魔法から発せられた強烈な「生命の力」の波動は。 結界の外、デスバレーの最も深い奥底の地の底にも到達していた。
誰も気づかない農園の隅の鬱蒼とした黒い茂みで。 ここが死の大地と化し、マナが枯渇したことで遠い昔に石化して封印されていたはずの「精霊族の長(大地の精霊・ドライアド)」が……。
その異常すぎる純度のマナと極上トマトの匂いに抗えずに封印を打ち破り。 よだれをダラダラと垂らしながら「一口……一口だけ……」とひょっこりと顔を出そうとしていたのだった。




