第11話:ただの団地が最高級タワマンだった件〜元騎士たちの天国〜
翌朝。 爽やかな朝の陽光が差し込むリビングでの朝食の席で、俺は村の今後について提案した。
「急に10人も人が増えちゃったね。これまでは敷地の隅に一人ずつ離れを建ててたけど……」
「せっかくだしみんなが住めるお洒落な集合住宅(手狭にならない団地)にしようか。せっかくだから景色が良い高層建築がいいな」
昨日から俺の村の住人(?)になった元・神聖ロザリア王国・魔導騎士団第三小隊の面々は、その言葉に慌てて首を横に振った。
「お、お気遣いなく! 団地などという立派な建物を我々のために作っていただくなど、恐れ多すぎます!」
「我々は忠実なる番犬として、レオン様のお庭の土になりたいと存じます! むしろ門の前で野宿で構いません!」
「そんなわけにいかないよ。いくら絶対拒絶の結界の中とはいえ、外で寝るのは体に悪いし、第一俺が落ち着かないからね」
俺は優しく微笑んで立ち上がり、彼らを引き連れて庭の広いスペースへと移動した。
「よし、この辺りにしようかな」
俺は地面に両手をつき、スキル【錬金建築】を全開にする。
デスバレーの地下深くを流れる膨大なマナの奔流を指先から吸い上げ、脳内で複雑な建築魔法陣の設計図を瞬時に組み上げる。
「えっと、多層構造だから建築を安定させるために【重力制御】のエンチャントを基礎に打ち込んで……」
「部屋を少しでも広くするために【空間拡張】のルーンを各階層に重ねて……あとはやっぱり見た目が大事だから、外装は魔力コーティングかな」
俺の魔力が強烈な光の柱となって大地に流れ込むと、ズゴゴゴゴォォォ! と地響きが鳴った。
そして、昨日作った純ミスリル鋼鉄を主柱とし。 外壁に黒曜石とオリハルコンの合金をあしらった数十階建ての「タワーマンション」が、ものの五分で天へと向かって猛烈な勢いで生え上がった。
その外観はどう控えめに見ても、太陽の光を反射して輝く『天を突く巨大な黒銀の要塞塔』そのものであった。
「よし、完成。さっそく中を案内するよ」
案内された隊長たちは、重厚な自動ドア(マナ感知式の開閉魔法陣)を抜けてエントランスホールに入った瞬間に、膝から崩れ落ちた。
外観の大きさからは到底考えられないほど、内部には広大な空間が広がっていたからだ。 それこそ大聖堂が丸ごと入るような広さである。
「ば、馬鹿な……。建物の内部の体積をごまかす空間拡張など、王室の宝物庫の金庫にのみ使われている失われた神話の技術……」
「重力制御に至っては、歴史上の大賢者たる大教皇ですら、数秒しか維持できない禁呪指定の超大魔法だぞ!」
「それを、ただの兵舎の建築に……何十階層分も常時発動させているだと……!?」
隊長たちの絶望的なまでの驚きと畏怖をよそに、俺は高速エレベーター(ただの転移魔法陣)で各部屋を案内した。
「みんなには一人一部屋ずつ割り当てるね。各部屋には魔石の回路による『空調』と『完全防音』、それに『血統認証のオートロック結界』が完備されてるよ」
「お湯もそこの蛇口を捻れば自動でマナが熱に変換されて湧くからね」
それらの設備は全て、常時莫大なマナを消費し続けるオーパーツだ。
王国基準で言及するなら「温かいシャワーを浴びるためだけに、一生分の超高級魔力回復ポーションを消費し続けている」ような狂気と狂乱の贅沢である。
王国の最前線の砦において。 薄暗くカビ臭い大部屋で雑魚寝し、冷水で泥を落とし。 夏は蒸し風呂で冬は凍死の危険に怯えていた最前線の兵士たちにとって、ここはまさに伝説に謳われる神の領域だった。
「ああ……野営の泥水が懐かしい……。俺たちはもう、二度と王国の泥水は啜れねぇ」
「俺、ここで一生分の運を使い果たしたんじゃないか……?」
屈強な誇り高き騎士たちが、広々としたフカフカのベッドに顔を埋め、感極まってボロボロと赤子のように大号泣し始めた。
ひとしきり泣かせた後、俺は彼らに頼み事をした。
「みんなには、せっかく元騎士っていう専門家だし」
「村の境界の軽い見回りとか、敷地内の畑作りの手伝い(俺から見れば安全な肉体労働)をお願いしたいんだけど……」
「お任せください絶対神様!! この極上の天国だけは、我々の命に代えても守り抜いてみせます!!」
「王国軍の連中が攻めてこようと、我らが最強の盾となり、絶体絶命の返り討ちにしてご覧に入れます!!」
彼らは完全に王室へのこれまでの忠誠を打ち捨て。 狂信者のような輝く笑顔と血走った目で、かつての祖国へ剣を向けることを誓ったのだった。
▽ ▽ ▽
一方その頃。 数千の討伐軍を率いて王都を出発した勇者アレクサンドは。
先遣部隊(調査隊)が消息を絶ったという絶望的な報せを受け。 「ついに魔王軍の本格侵攻が迫っている! ロザリアの危機だ!」と大パニックに陥りながら、死地へと向かう進軍の速度を上げていたのだった。




