第1話:追放された無能雑用係、デスバレーで最高のスローライフ拠点を錬成する
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5話投稿目指して頑張っていこうと思っているので
よろしくお願いします
「レオン、お前は今日からこの勇者パーティーをクビだ」
神聖ロザリア王国の誇る『勇者』たる第一王子アレクサンドは、虫けらを見るような冷たい視線を俺に向けた。
立派な毛皮付きの豪奢なマントを羽織った彼は、美男子ではあるがその瞳には傲慢さが色濃く浮かんでいる。
「お前のやっている補給物資の管理や、野営地の設営など、魔法陣と金さえあれば誰でもできる。この先の魔王討伐において、直接戦闘に参加できない無能は目障りなだけだ」
「殿下のおっしゃる通りですわ! こんな平民の荷物持ちなんかが、私たちと一緒にいること自体が不愉快なんですのよ」
「まったくだ。俺たち聖騎士を差し置いて、偉そうに武器の手入れに口出ししやがって」
王子の言葉に、取り巻きである大賢者の孫娘や、騎士団長の一人息子までもが嘲笑うように同調した。
彼らに取り囲まれながら、俺――レオン・クラフトマンは、小さく首を傾げた。
俺は元々、宮廷の魔導具師として雇われていた単なる平民でしかない。
たまたま手先が器用で、ちょっとしたDIYが得意だったからか、勇者パーティーの「便利枠」として無理矢理連れ出されていたのだ。
(……え、あの複雑なマナ調整と素材変換の複合術式を、誰でもできるの? 大賢者の孫娘さんでも?)
俺は心の中でそっと呟く。
彼らが「誰でもできる」と嘲笑う野営地の設営。 それは、Aランク魔物の巣窟である黒の森のど真ん中に、一瞬で『物理・魔法完全遮断の絶対防壁層』を展開し、気温と湿度を一定に保つ魔法建築をポン置きすることだ。
彼らが「偉そう」と吐き捨てた武器の手入れだってそうだ。 聖騎士の剣が魔王軍幹部の呪いで腐食し折れかけたのを、俺が『神聖ミスリルへの再精錬』と『自動修復エンチャント』をこっそり施して新品同様――いや、神話級の武器にこっそりアップグレードしておいたのだ。
だが、そんなことを今更説明する気力もなかった。 正直なところ、俺は疲弊していた。
毎朝誰よりも早く起きて極上の朝食を用意し、日中は魔物の気配を消すダミー結界を張りながら行軍ルートを整地し、夜は彼らのわがままに合わせて野営地を城の寝室レベルにまで改築する日々。
自分の時間など、一秒たりともなかった。
「……あ、うん。わかりました。クビですね。じゃあ、俺帰ります」
俺が素直に、というよりホッとした表情で頷くと、アレクサンド王子は忌々しげに顔を歪めた。
「ふん。己の無能さを素認めるのは結構だが、お前のような平民が、王都へすんなり帰れるなどと思うなよ」
「えっ」
「少しばかりの餞別をくれてやろう」
王子が悪辣に嗤うのと同時、俺の足元が強い光を放った。 (え、なにこれ。転移魔法の魔法陣? しかもこの複雑な座標指定……)
「『死の谷』で、一人寂しく野垂れ死ぬがいい!」
光が俺の全身を包み込み、そして王子の姿がフッと消滅した。
▽ ▽ ▽
目を開けると、そこは強烈な硫黄の匂いと、皮膚を焼くような乾いた熱風が吹きすさぶ岩だらけの荒野だった。
見渡す限り、ゴツゴツとした赤黒い岩肌が広がっており、緑の欠片すらない。
ここは『デスバレー』。 神聖ロザリア王国から遥か遠く離れた国境地帯。Aランク以上の強力な魔物が跋扈し、環境そのものが生物を拒絶している「人間が住めない土地」の代名詞だ。
軍の一個大隊が侵入しても、一日で全滅すると言われている最悪の領域である。
普通の人なら、絶望と恐怖で泣き叫び、王子を恨むような場面だ。 しかし俺は、ゆっくりと両手を広げて、この荒野の空気を胸いっぱいに吸い込んだ。
「……最高だ」
自然と口角が上がる。
勇者たちの身勝手なわがままを聞く必要はない。朝早くから誰かの剣を研ぐ必要もない。 俺の、俺だけの時間がここにある。
「やっと休みだ! 誰の目も気にせず、俺だけの拠点が作れる! 好きなだけDIYしていいんだな!」
もう限界だったのだ。自分のためのモノづくりがしたくてウズウズしていた。
俺のスキルは【等価交換(錬金)】と【建築魔法】。 世間的には「時間をかけて土壁を作る程度の地味で使えない生産スキル」と馬鹿にされていた。俺も実際、ちょっと手先が器用なだけだと思っていた。
だが、誰の目もないここでは、思う存分力を発揮できる。
「まずは拠点づくりだな。素材は……この辺の岩でいいか」
俺は地面のゴツゴツした赤黒い岩肌にそっと手を触れる。
俺の錬金術は、少し特殊だ。 大気中に漂うフリーのマナ……魔力という名のエネルギーを、フィルターを通さずに直接吸い上げ、瞬時に物質の構造を書き換えることができる。
『等価交換(錬金)』
ゴゴゴゴォッ!と腹の底に響くような音を立てて。 広範囲の邪魔な岩や毒を含んだ土が、一瞬にして純白に輝く『特級魔石レンガ』と、ミスリルと同等の強度を持つ『超硬質鉄筋』へと変容した。
「よしよし、素材はあっという間に揃ったな。次は……」
頭の中で図面を引く。 間取りは一人暮らしには十分すぎる3LDK、日当たりと風通しを計算し、水回りを完璧に整える。
デスバレーの大地の深く、地下水脈から綺麗に濾過した水を引っ張り上げ、余剰マナで自動温度調節機能を組み込む。
『建築魔法』
パチン、と指を鳴らす。 その瞬間、物理法則を完全に無視して、大地から巨大な建造物がニョキニョキと生え始めた。
真っ白な外壁をベースにした、近代的なデザイン。 大きなガラス窓が嵌め込まれ、しっかりとしたウッドデッキのエントランスに、広々としたリビング空間が瞬く間に形成されていく。
内装には、自動でお湯が沸き常に適温を保つ魔導ヒーター付きの広いお風呂と、魔物の肉を新鮮に保つ永久冷気保存庫(冷蔵庫)を備え付けておいた。
「よしっ、完成! とりあえずの仮設小屋としてはこんなもんか」
出来上がったのは、王族の別荘と見まごうばかりの豪華なログハウス風モダンスタイル建築だった。
もしこれを王国の宮廷建築士が見たら「神の奇跡だ」と拝み倒すか、プライドを粉々にされて首を吊るかのどちらかだろう。 だが、俺にとっては「ちょっと頑張ったDIY」程度の認識である。
「ああ、ふかふかのベッドは最高だな……」
その後、周囲にあった魔獣の骨や毛を『錬金』して作った最高級のマットレスにダイブすると、俺は幸福感に包まれた。
誰にも文句を言われず、好きな時に起きて好きなことをする。 俺の極上スローライフが、ついにはじまったのだ。
――だが、俺は致命的な事実に気づいていなかった。
巨大な家を、たった数秒で「錬金・建築」するために吸い上げた異常なマナの渦。 それが、このデスバレーに生息する凶悪な生態系を強烈に刺激してしまったことに。
俺がすやすやと眠りについた頃。 家の周囲の暗闇では、赤く濁った巨大な幾つもの瞳が、ヨダレを垂らしながらこちらをギョロリと見つめていた。
それは、通常の国ならば騎士団を総動員して当たるレベルの災害指定魔物、Aランク『デス・ベア(死喰い熊)』の群れだった。




