表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/5

第5話:「おばあさんは朝から台所に」

おばあさんの朝は早いのでした。

おじいさんが起きるまでの間に米を炊き、味噌汁をつくり、川でとれた焼き魚を用意し、食卓を囲む準備を整えます。


それは、いつもと変わらない何気ない朝に起こったことでございました。

「あら!私ったら、お味噌汁の具を切らしているわ。山での生活も長いのに、恥ずかしいこと。」

おじいさんは、待っていましたと言わんばかりに寝床から土間へやって来て、下駄を手にしながら言いました。

「いつも朝を作ってくれてありがとうよ。山菜ならわしが採ってくるでのう。山はわしの庭じゃけ、安心せい。」


「気を付けてくださいね~」

その言葉が終わるより早く、おじいさんは家を出ていきました。


山中を歩きながら、山菜を採り進みます。

道すがら、イノシシの首でできたトーテムポールを横目に通り過ぎ、やがて鬱蒼(うっそう)とした竹林へと入りました。

ナタを振るい、奥へと進んでいくと、ひときわ()()()がありました。


おじいさんは目を光らせながら、

「これを求めておったんじゃ!」

と、山に木霊するほどの声で叫びました。


その光る竹の根元には、これでもかというほど毒々しいキノコが生えておりました。

おじいさんは財宝を掘り当てたかのように、そのキノコをすべて籠に入れました。


山を下りるころには、下駄履きでありながら、まるで獣のように足取りが軽くなっておりました。

家へ戻ると、おばあさんが待っておりました。

おじいさんは、採ってきたキノコを差し出します。


おばあさんは微笑み、

「珍しいキノコですね~」

と言いながら、包丁で刻み、味噌汁の鍋へと入れていきました。


食卓には、いつものごはんと焼き魚、そして明らかに食べ物とは思えぬ、紫色の刺激臭を放つ液体が並びました。

気づけば、先ほどまで飛んでいた蠅さえ姿を消しております。


おじいさんは味噌汁には手をつけず、腹痛を装い、厠へ向かうふりをして、障子の隙間からおばあさんをうかがっておりました。


おばあさんは味噌汁を口に運びます。

一口、二口。

表情は変わらず、むしろおいしそうに食べているではありませんか。


――また失敗か?あんな見た目で毒がないとは思えんのじゃが。

おじいさんは食卓へ戻りました。

「おじいさん、採ってきてくれたキノコ、とてもおいしいですよ。」

おばあさんは朝から満面の笑みを向けます。


「それは良いことじゃ。目利きには自信があるからのう。」

失敗を引きずり、少し落ち込み気味のおじいさんでした。


やがて、おじいさんも味噌汁に手をつけました。


一口。


その瞬間、椀を落とし、横に倒れ込みました。

口から泡を吹き、味噌汁に浸していたおじいさんの箸の先は溶けておりました。


静かに近づいてくるおばあさん。


――猛毒じゃんねぇか。

それでもおじいさんは、

「ちょっと味噌を入れすぎじゃのう、おばあさんや……」と言い残しました。


そしておじいさんはそのまま、動かなくなりました。


おばあさんはというと、

「こんなところで寝ると、風邪をひきますよ。」と、優しく声をかけ、毛布をそっと掛けてやるのでした。


やがておじいさんは、ふと意識を取り戻しました。

目を開けると、すでに真夜中でございます。


――まだ、意識が……はっきりせん。

囲炉裏の炭が、ぱちぱちと音を立てております。

その傍らで、おばあさんが何かを研いでいる背中が見えました。


――こんな夜中に、何をやっておるんじゃ。

おばあさんの横顔は、いつものにこやかなままでした。

しかし髪は逆立ち、用途の分からぬ長いナタを火に照らし、状態を確かめながら研ぎ続けております。


おじいさんは、ふと思い出しました。


――そういえば、わしが愛してしまったのは、山姥じゃったな。


そう思いながら、再び瞼を閉じました。

おじいさんは、そのあと三日三晩寝込むことになるのでした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ