第3話:「おじいさんは寝床から屋根へ」
夜中の寝床で聞く雨の音。
打ち付けるのは雨戸ではなく、天井でした。
「おじいさん!昨日の夜、聞きましたか?」
おばあさんは、朝早くからおじいさんを揺すり起こしました。
「あー、昨日の雨漏りの音じゃろ。今日明日にでも屋根に上って差し茅するから待っといてくれ。」
「頼みましたよ。雨漏りの音で寝不足では、私の繊細なお肌に悪いですから。」
おばあさんが朝早くから起こしたため、少し不機嫌そうにおじいさんは土間へ降ります。
「それじゃ、必要な茅を取りに川原へ行ってくるでのう。お昼は用意せんでいい。」
「わかりました。行ってらっしゃい。」
川原に着くと、おじいさんは茅を集め始めました。
「えーと、焼き畑のところで取れた茅を合わせて、二十束じゃな。」
茅を束にし、山道をゆっくり、途中で何度も休みを入れながら二往復したのでした。
往復している間、
――これ、おばあさんが適任じゃったな。
と思いつつも、何とか運び終え、その日は運ぶ作業だけで終わりました。
次の日は朝から屋根裏に潜り、茅のへこみから雨漏りの場所を確認しました。
「うーん、このへこみはテンにやられたか? 風で茅が抜けたのか?」
おじいさんは考えながら首をかしげました。
「足場を組んで今日も一日終わりそうじゃな。」
とつぶやき、
「おばあさんや、今日の夕食はなんじゃ!」と声を張りました。
「おじいさんは、今日は何が食べたいですか?」
「なんでもいいんじゃ、任せるよ。」
「そういうのが一番困りますよ! 本当に任せるんですね?」
「あー、任せるよ、任せる。」
おじいさんは屋根作業のため足場を組み始め、夕日が沈むころには屋根を降りました。
――夜の作業は危ないからのう。
そう思いながら、土間の台所から漂う良い匂いに鼻をくすぐられます。
居間に上がり込みながら、
「いい匂いじゃな。今日は何じゃ。」と聞くと、
「『なんでもいい』と言っていたので、ただの煮つけです。」とおばあさんは言いました。
「煮つけが一番美味しいんじゃ。」ウキウキと食卓につくおじいさん。
「はい、できましたよ~。召し上がってください。」とおばあさんが食卓に出したのは、
<クマの手>でした。
――煮つけって何?
おじいさんは諦めた顔でぽつり言いました。
「おばあさん、わしの知ってる煮つけとは違うようじゃが。それより、クマの手をどうやって取ってきたんじゃ?」
「私がお昼にクマから取ってきましたよ。おじいさんの滋養に良いと思いましたので……」
「大丈夫だったのか? ひっかかれたり、かまれたりは?」
「少し顔を引っかかれましたが、もちろん、もう治りましたよ。」
――繊細なお肌ってなんじゃ?
おじいさんはその思いを飲み込みました。
「まぁ、いい匂いじゃ。とりあえず、いただきます。」
ぐつ……ぐつ……と鳴る鍋からクマの手を取り出します。
――いざ、実食!
覚悟を決めて口に入れましたが、“ぶふっ”と思わず吹き出しました。
――獣たちがわしの舌でダンスしておる
「おばあさんや、この料理はあれじゃな……五つ星じゃ足りないな。」
褒め言葉を投げながら、
――わしが星になりそうな料理じゃ。
と心の中では悶絶しておりました。
「まぁ、初めてのクマの手でしたが、良かったです。また作りますね。」
おばあさんは意気揚々と台所に戻っていきました。
「クマはすぐにでも山から追っ払おう。」そう呟きながら、
おじいさんはその日の夕食を食べ終えたのでした。
ここまで読んでくださり、ありがとうございます。
この話の続きは、金曜の夜が静まり、土曜日の刻へと移るころに、そっと綴られる予定でございます。
また次の宵に、お立ち寄りくださりますと幸いに存じます。




