第2話:「おばあさんは畑へ野菜を採りに」
野山を踏み鳴らす音は、動物たちの焦りを感じさせます。
いつものように、おばあさんは畑に野菜を採りに行きました。
「最近は、イノシシやシカが畑を荒らすので困るわ。」
かじられた大根と人参を手に、おばあさんは悲しそうな表情を浮かべておりました。
それを聞きつけたおじいさんは、
――チャンスじゃ。
そう思ったのか、そそくさと身支度を始めました。
「おじいさん、今日はどこかへお出かけですか? 有酸素運動なら、村まで走って下肥を買ってきてください。」
「それよりか、良いものを買ってきてやるからの~。待っとれ。」
――なんで朝から下肥を買いに行かされそうになっとるの。
おじいさんは納得のいかない顔をして、家を後にするのでした。
やがて、いく刻か過ぎたころ、村に続く道の方から、麻袋の中で金属同士が擦れる音が聞こえてまいりました。
「おじいさん、お帰りなさい。そんな大きな袋で、何を買ってきたんですか。」
おじいさんは息を切らせながら言いました。
「村で捕獲セールがやっておっての~。こんなのを見つけたんじゃ。」
おじいさんが麻袋の中をガサゴソと探り、取り出したのは、明らかにオーバーキルなトラばさみでした。
おばあさんはそれを見て少し微笑みました。
「イノシシを捕まえてくれるんですね。私も畑を歩くので、気を付けて仕掛けてくださいよ。」
その日、おじいさんはおばあさんと相談し、トラばさみを仕掛ける場所を決めました。
おばあさんが普段歩かないルートで、野生動物だけが掛かる仕掛けだと、念を押しながら。
おばあさんが寝床に入ると、おじいさんはそっとトラばさみを持って畑へ向かいました。
先ほどおばあさんと打ち合わせた仕掛け場所のメモを破り捨て、おばあさんがよく通る畝間に重点的に仕掛けたのでした。
その夜、おじいさんはおばあさんの布団をかけ直しながら、
――明日の朝が楽しみじゃの~。
そう思い、布団に潜り込みました。
明け方、おじいさんが眠気眼で起きると、
“ガチャン! ガン!”
と鉄が噛み合うような音が静かな山に響きました。
おじいさんは音に驚きながらも笑顔で布団から飛び出し、畑の見える縁側へ向かいました。
すると、畑の中からこちらへ歩いてくるおばあさんの姿が見えました。
その手には、刃がボロボロになったトラばさみが握られておりました。
「おじいさん、最近は足腰の強い動物もいるんですね。このトラばさみは、リコールものですよ。」と、おばあさん。
おじいさんは、
「そうじゃな……リコールじゃ……」と返しながら、
――グリズリー用と書いてあったんじゃが
と、血の気の引いた顔で、縁側の淵に腰を落としました。
「でもまぁ、おそらくもう動物は来なくなりますよ。」おばあさんはおじいさんの隣に座りながら言いました。
「それは、なぜじゃ?」おじいさんは意気消沈しながらも尋ねました。
「私が特別なおまじないを、この畑にかけましたから。寄り付きませんよ。」
おじいさんは、そのときは心ここにあらずで聞き流しておりました。
数日後。
おじいさんは山中で山菜を採っていると、血生臭い匂いが立ち込めておりました。
匂いのする方向へ歩いて行くと、イノシシの首でできたトーテムポールを目の当たりにしました。
――おまじないってこれか!
とおじいさんは悟ったのでした。
町の道具屋には、すべて刃が折れた状態のトラばさみが返品されたという。
ここまで読んでくださり、ありがとうございます。
この話の続きは、金曜の夜が静まり、土曜日の刻へと移るころに、そっと綴られる予定でございます。
また次の宵に、お立ち寄りくださりますと幸いに存じます。




