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7・秘剣

最終話になります

祖父と母が逝った庭を見る。

部屋を汚さぬように庭で果てたそうだ。

石田様が葬儀を出してくれ庭も清めてくれていた。

ただただ感謝しか無い。


・・・それにしても、あの三人だけは許せない。

周りの人からは大之進は普通にしている様に見えるので分からないのだが、これ以上無いほど激怒している。

どうやら怒りも頂点を超えると、かなり冷静になるようだ。


一線を越え地獄への蓋を開けてくれた3人には、そのまま地獄に永住してもらう事に決めた。


****


夜になるまで仏壇の前に座り祖父と母の冥福を祈った。


どっぷり日が暮れ子の刻になる。

あの連中は船宿で毎日飲んだくれて居ると調べはついている。

もう暫くすると3人は川沿いを通り帰宅するのだ。


「さて、刻が来たようなので出かけて参ります」

大之進は仏壇の位牌に声をかける。


着古した着流しに兵児帯を巻き、伝来の無銘桑名物の脇差を背中側に斜めに差す。

この脇差の金具は先日、地味な魚子の物から濱野にかえた。

そして綿の柄糸を取り、新しく白の正絹(しょうけん)で巻き上げた。

今は黒の柄袋が被せてあるので見えない。

 


腹の方の帯には(さぎ)の絵の鉄扇を差し、台所の竈から炭を取ると顔に塗った。

そして手拭いで頬被りをする。

懐紙に20両ほど包むと裏木戸から音も立てずに出て行った。


******


「うるせぇー!しけた話してんじゃねえ!」

保坂太一郎が高山小五郎と大浜孫兵衛を怒鳴り付ける。

「でもよ、さすがにあれで篠原の隠居と母上殿がな・・・」

「それはあいつらの勝手だ!俺たちは関係ねぇ!」

「でもよぅ・・・」

「周りの奴ら俺に何も話しかけ無いんだぜ!親もだ!」

「うちの親も恥ずかしくて外に出れない。と言ってるぞ」

「黙れって言ってんだ!わかんねぇのか?おい、お前ら殺してやるから、あの世の篠原の隠居達に謝ってこいや!」


保坂太一郎の目は血走り狂気を帯びている。 

「あぁ、むしゃくしゃする!よし!次に前から来る奴をぶった斬る!」

「いや、それは不味いって!騒ぎ起こすのはまずい!」

「はぁ?見つかんなきゃ良いんだよ!おっ、誰か来たぞ!カモだ!」


保坂太一郎は刀を抜き、前からくる男を観察する。

武士なら下手するとこちらかやられてしまうので、避けなければならない。狙うなら町人だ。


男の全身が月明かりに照らされ見えた。

素早く様子を確認する。

着流しだ。

刀は差して居ない、頬被りをした町人だ。


「よし、やるぞ!」

後ろの高山と大浜の2人に声を掛けた。

2人は渋々、刀を抜いた。


「おい!」

男に刀を突き出す。

「ひぃぃーー!」

男は刀に驚き下がった。


ガッシャー!


男の懐から金が落ちる音がした。

3人が地面を見ると月明かりに照らされ、黄金色に輝く小判が広がっていた。


「おお!」

「うぉ!」

「おっ、おい!?、町人なんだこれは!まともな金では無いんだろう?この俺様が頂くぞ!良いな!!」

3人は刀を置き小判を拾い出した。


篠原大之進は(さぎ)の描かれた鉄扇の、要の部分を素早く引き抜く。

すると扇の親骨が取れた。


その上部を強く引っ張ると、鋭い切先が月明かりに照らされ鈍い光を帯び現れた。

親骨に似せて作られた貫級刀(かんきゅうとう)だ。

馬針(ばしん)とも呼ばれ馬の壊血に使われる。

大之進は貫級刀を手の内に納め、軽く背を丸め気配を消し男達の死角から近づいて行った。


「おう!ここにもあった!」

小判を夢中になって拾い集めている大浜の口を、後ろから塞ぎ素早く心臓を刺した。

近くに居た高山の口も塞ぎ心臓を刺すと、素早く保坂の斜め後ろの死角に立つ。


四つん這いで小判を拾って居た保坂だったが、周囲の異変を感じ起き上がった。 

その耳元で囁く。

笹五位(ササゴイ)・・・」


「なっ!?、さっ」

保坂の死角から出てその心臓を素早く突いた。


「っササゴォ・・・・」

大きく目を見開き保坂は倒れた。


背中から伝来の無銘桑名打ちの脇差を抜き、柄袋を外し保坂の脇差と入れ替えた。


入れ替えた無銘桑名物の白柄糸の脇差で高山と大浜の心の臓を、鉄扇の刺し傷の上からなぞる様に刺した。そしてその脇差を保坂に握らせた。


高山の刀を取り保坂の心の臓の傷の上から刺して、高山の死体を保坂の近くに転がしておく。


3人の懐から小判を回収して屋敷に戻った。

人が居ないのを確かめて屋敷の裏門から入った。

裏門入り口の柔らかい土を軽く掘り、入れ替えた保坂の脇差の刀身を立て石で打ち付け埋め砂を戻した。

拵えは砕き竈門に突っ込み火をつけた。金具は井戸に投げ込んだ。



▪️▪️▪️▪️


翌日、勘定方は大騒ぎであった。

3人が仲違いして斬り合い死んだ。と言う報告があった。


舟宿の親父の証言から、篠原の件で最近3人は毎日言い争っていたと言う事が分かった。

3人の仲はかなり拗れていたらしいとの見解だ。


悪童組が通っていた舟宿の親父達の証言により、

高州堂の親父を辻斬りに見せかけ殺したのも連中の仕業と分かった。

そして篠原大之進の村正の一件も高州堂の息子の証言もあり、完全に3人組の仕業という事が分かった。

これにより改めて篠原大之進の無実が証明された。


石田様と咲は大いに喜んでくれた。

謹慎中も婚約解消せず、ずっと信じて待ってくれて居た。

石田様と咲には感謝しかない。


悪童組の保坂太一郎・高山小五郎・大浜孫兵衛の家は閉門しお取潰しになった。


と言うのも保坂太一郎が持っていた無銘の桑名物の刀だが、銘は消されていたが見事なタナゴ腹の形状で左右の箱乱れ刃もよく揃っており、本阿弥により「間違いなく“2代目の千子村正(せんごむらまさ)である」っと極めが出てしまったのだ。 

更にはその脇差の柄糸の色だ。

白い柄糸は一万石以上の大名のみに許される色なのだ。

軽々しく己の差し料に用いて良い物では無い。

無礼も過ぎる。

これを聞いた保坂・高山・大浜の3家の家長は、その日のうちに腹を切った。

篠原家に伝わる無銘の伝・村正が良い仕事をしてくれた。

ご先祖も許してくれるだろう。


咲とはそのひと月後、祝言を挙げ正式に夫婦になった。

咲は一人娘なので俺は篠原家を閉じ、石田の家に入った。

石田様は大喜びしてくれた。


篠原家は俺しか居ないのだから祖父・母も許してくれるであろう。

しばらくして石田様がお役目を降り、俺が勘定方の組頭となった。


そして春には子も生まれる。

初孫に石田様も浮かれ気味だ。

世の中は尊皇攘夷と煩いが俺には関係無い。

やっと訪れたこの幸せを全力で守ろうと大之進は誓った。


*****


【笹五位・ササゴイ】

(さぎ)科ササゴイ属の鳥類

羽に白く縁取りがあり笹の葉に見える事からこの名前となる。

基本的にじっと動かず待ち伏せで捕食するが、

水面に蜘蛛、カゲロウ・ミミズ・羽などを落とし、近づいて来た獲物を捕食する。















ありがとうございました

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