5・企み
保坂太一郎・高山小五郎・大浜孫兵衛の悪童組3名だが実家の嘆願もあったが、流石にこれは許されずひと月の謹慎となった。
酒屋の親父や客が篠原大之進を襲撃する話しを聞いており、「刀先に抜いたのは3人組である」っと、目撃していた町の者や神社の神主らの証言が多数あったからだ。
あと人目が多すぎて事件を隠蔽出来無かったと言う訳だ。
だが、ひと月の謹慎でもかなり軽い処分だ。
3人組の親が金をバラ撒き、あらゆるコネを使ったのが効いたようだ。
「これが3人の良い薬になれば良いのだがな・・・」
心の広い石田様はそう考えて居るようだ。
同僚達の見解はより悪化すると見ている。
俺も同意だ。嫌な予感しかしない。
同僚達から周囲に気をつけるようにと言われている。
この下らない騒ぎのおかげで、同田貫に小さい刃こぼれが生じてしまった。
しばらく研いでも居なかったので、下町の刀屋に研ぎに出す事にする。
同田貫は刀袋に入れ手に提げて居るので、腰には無銘の美濃物を差している。
あの同田貫のずしりとした重さが腰に無いので何とも頼り無い。
(最初は重くて閉口したがな、人間慣れとは面白いな)
*****
「ちくしょう!あの野郎!痛えんだよ!俺の指切りやがって!奴の指全部切り落として殺してやる!」
「俺なんて親父の直胤持ち出してたのがバレて、大目玉くらったわ!」
「あの大阪新刀は見せかけ剛刀だったのか?はりぼてか?と笑われておるわ!」
部屋を抜け出した謹慎中の3人は着流しで、刀も持って居ないので町人に見える。
まぁ、謹慎中なので町人に寄せ変装している訳だ。
舟宿の2階で外を見ながらクダをまき、昼間から浴びるように酒を飲んでいた。
その目の前を篠原大之進が横切った。
「おっ!?、あいつ何処に行くんだ?」
「つけてみるか?」
「おうよ!」
3人は距離を空け大之進を付けた。
少し歩くと高州堂と言う刀屋があり、そこに入って行った。 ここの店主と息子は自ら研ぎを行うのでなかなか儲かって居る。
腕もかなり良いので人気の刀屋だ。
四半刻ほどすると大之進は店から出た。
「あいつ何か用事だったのか?」
「聞いてみよう」
「よし!店行くぞ!」
「おう、おやじ邪魔するぜ!」
「これは保坂様・高山様・大浜様、いつもご贔屓にありがとうございます」
「おう、ところでさっきの篠原だが何しに来た?」
「お腰の物の研ぎでごさいます。細かい刃こぼれが生じたらしいです」
「おい!高州堂よ!貴様が俺たちに売った刀がその刀に折られたんだよ!知ってるか?」
「そうだ!どう言う事だ!」
「俺達を馬鹿にしてナマクラ売りやがったな!」
「いえ、このお刀は同田貫ですので致し方ないと存じます」
「何だと!そのタヌキってのを見せてみろ!」
「いえ、他の方のお刀なのでご遠慮ください」
「うるせぇ!」
バギッ!
「ぎゃ!」
店主が床に叩き付けられ刀を取られる。
「おい、重いな!」
鞘から剣を抜き出した。
「おい!目釘抜き!と木槌!」
頬を抑え口から血を流した親父が、目釘抜きと木槌を保坂に渡した。
「何だこの野暮な刀は?」
「こりゃ浅葱裏だな!」
「田舎もんのあいつにピッタリだ!」
銘を見ていた保坂が、ふと何かを思い付いたらしく、いやらしい笑みを浮かべた。
「おっ!太一郎何か思い付いたか?」
「おおよ!とびっきりだ!おい、親父ちょっと来い、耳かせ!」
「・・・・・」
ただ保坂太一郎の話を聞いた親父は真っ青になる。
「いえ!それはいけません!!」
「何だと!」
「そっ、それだけはいけません、とっ、とても冗談ではすみません!!おやめください!!」
「父上どうされました?」
奥から息子が出て来た。
保坂太一郎はその息子の髷を掴み引き寄せ、腕に同田貫を突き立てた。
「ぎぁぁーー!」
息子が痛みに声をあげる。
「なっ、何をなさる!!」
「うるせぇーー!俺の言う事聞かねえなら殺す!今すぐこの場で作業しろや!」」
保坂太一郎の目は血走っている。
もう正気の目ではない。
顔の出来物から瘡毒を病み脳にまわっているのだろう。
刀屋は息子の傷口の手当てをして、奥の部屋に行きたらいに荒砥石をのせ、刀を和紙で巻き作業に入った。
刀が好きでこの仕事をやっていたが、これはお刀を穢す行為だ。
(これを最後に刀屋は廃業しよう。)
高州堂の主人は心に誓い、心で刀に謝罪しながら作業を進めた。




