4・悪童組
一人娘の咲殿と篠原が許嫁となり石田様の機嫌が良い。
咲は武家の娘として素晴らしい教養と品格を持っている。器量好しなのでなるほどこれは当家の嫁にと申し込まれるのが良くわかる。
周りの同僚は心から喜んでくれたが、ごく一部と言うか3人だけが嫉妬と羨望のこもった目で睨みつけてくる。
いい歳をして悪童組などと名乗っている、何とも残念な輩だ。
特に保坂太一郎は石田様に咲との付き合いを断られたので、大之進を殺してやると言わんばかりの視線を送っている。
必ず痛い目を見させてやる!っと陰でしきりに言っているらしい。
あまりにも皆に言っているので、陰で言っている意味が無くなっているのを本人は気が付いていない。
同僚達からも身の回りに気を付けるようにと言われている。
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「篠原の奴、成敗してくれる!」
保坂の言葉にベロンベロンに酔った高山小五郎が反応する。
「おぅ!俺もこの直胤の試し切りをしたいと思っておったところだ!この濤乱刃を奴の血で染めてやるわ!」
「小の字やるか!孫はどうだ?」
「俺もこの大阪新刀の試しをしたいと思って居たところよ!ナマスにしてやる!」
「よし!今夜、咲と篠原の家に挨拶に行くと言っておったわ!途中のあの神社に待って居れば良かろう」
「よし行くぞ!親父ツケとけ!」
「いえいえ、困りますお武家様!」
「うるせぇーーー!」
店の親父が蹴飛ばされ頭を殴られうずくまった。
酒臭い匂いを漂わせながら、腰の刀をバンバン叩きながら金も払わず出て行った。
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「本日はありがとうございます。母も喜んでおりました。咲殿の古典の知識は素晴らしですなぁ」
「いえ、書の先生がお詳しいものですからたまにお話しを伺っていただけです。門前の小僧なんとやらでございます」
咲を屋敷まで送りながら今日の話で盛り上がり神社に差し掛る。
ガサッ
草が大きく揺れる。
草陰から怒鳴り声を上げながら酒臭い息を吐き三人組が現れた。
「いちゃいちゃしおって、それでも武士か軟弱者が!」
「貴様みたいな奴がいるから、坂東武者の名が廃るのだ!」
「刀の錆にしてくれるわ!」
咲を背にまわす。
「ぬしら本気か?成敗とは何様のつもりだ?」
「黙れ篠原大之進!この先日購ったばかりの名家より出た、格式高いこの古備前の切れ味見せてやろう!」
保坂太一郎の買ったばかりと言う剣は、桑名打ちであろう。古い外装を持って来て合わせ、古い物として売るのが最近業界で流行っていると言うのを耳にしている。
そもそも名刀の古備前刀をそう易々と購えるわけがない。
少し考えればわかりそうだが・・・
「貴様の家に伝わる秘剣・笹鯉見せてみろ!俺の直胤の塵にしてくれよう!」
高山小五郎が直胤を抜くと濤乱刃の刀が見えた。直胤は器用な刀匠で色々な剣を作刀し上手なのだが、この濤乱刃の刀は実戦的にはいただけない。
焼きが深く見映えは非常に良いが折れるのだ。
まぁ本人もそのつもりで作刀したと思うが。
「さぁさぁ来いで、笹鯉か?」
「笹鯉、そのような剣技は当家に無い・・・」
大浜孫兵衛が2尺5寸で反りの無い身幅の広い剛刀を抜いた。
「おい!貴様ら抜いたな・・・どう言う事か分かっておるのか?もう喧嘩では済まんぞ?」
「うっ、うるせぇ!黙れ黙れ!」
仕方なく同田貫を抜く。
曇りがかった2尺2寸の刀身に直刃の焼き刃がぼんやり白く浮き上がっている。
「何だその刀は?どうせ貧乏侍の刀なぞ無銘刀だろう」
(戦場刀同田貫を帯びる者は常に戦場に居ると心得、常住死身になる事也。この者達に言っても分かるまい)
神社の大杉の木を背負うように動き、咲にその大杉の裏に回るように言う。
両足を左右に開き、戦場刀同田貫を大上段に構える。
高山小五郎が直胤で切り掛かって来た、刀の中央に同田貫を思い切り振り下ろした。
ガッ!
火花が光り直胤は刀身の真ん中から上が無くなって居た。
「うわぁーー!親父の刀が!ちくしょう何て事してくれやがる!!」
そのまま再び同田貫を大上段に振りかぶる。
大浜孫兵衛が豪快な大阪新刀を振り下ろして来たが、大浜には重過ぎるのか勢いが全く無い。
そこをやや横の鎬地に向かって同田貫を思い切り振り下ろした。
ギジッ!!
火花が散り大阪新刀も真ん中から折れ、先端が後ろの高山小五郎の方に飛び地面に刺さる。
「うわぁ、あぶねえ!」
何事も無かったごとく篠原大之進は同田貫を上段に構えた。
「えぇーい!天誅!!」
保坂太一郎は京都で流行って居る天誅と言う掛け声と共に切り込んで来た。
その剣に合わせるように大之進は同田貫を振り下ろした。
キンッ!
保坂の刀が鍔元から折れ鍔も切断し保坂太一郎の右人差し指も切り落とした。
「うぎぁぁーーー!いでえ!いでえよう!かぁちゃんいでえようーー!」
地面を泣きながら転げ回って居る。
そこに当番の南町奉行の者が現れ3人組を引っ立てた。俺は咲を送った後、奉行所に出向きお調べを受けた。




