1・篠原大之進
篠原大之進は篠原家の1人息子である。
篠原家は藩でも頑固者で通っている厳格な祖父と母と、かなりの楽天家の父の4人家族であった。
厳格な家だか楽天家の父がいる事で、大之進はどっちに偏る事なく真っ直ぐ育った。
大之進が成人すると身体の弱かった父はとっとと家督を譲り、自分は悠々自適な生活を1年程送り、最後は池で釣りをしながらぽっくり逝ってしまった。
今から思うと父は自分は長生き出来ないと薄々察しており、故にあの楽天的性格であったのでは無いか?っと思われる節がある。
そう言う事で現在大之進は、篠原家の大黒柱として勘定方に勤めている。
勘定方と言っても裁判や司法を司る公事方では無く、年貢や金銭の出納などの、財政を担当する勝手方に属している。
今は支配勘定だが真面目で誠実な性格から上への受けも良く、組頭への抜擢が噂されるほどの堅実な仕事振りだ。
困っている同僚が居れば直ぐに助けに入るので、仲間受けもかなり良い。
まぁ、そんな良い奴だけに妬む奴らも居る。
保坂太一郎・高山小五郎・大浜孫兵衛の3人だ。
3人共長男で家柄も良いのだが、親が甘やかしたせいか我儘で自分勝手だ。組頭にはゴマをすっているが、流石に上司も馬鹿では無い。
勘定方の鼻つまみ者だ。
“悪童組”などと名乗り傾奇者を気取っているが、ただの町の厄介・迷惑者だ。
どうしようも無い輩と分かっているので、どうでも良い仕事を与えている。
勘定方に藩の大事な金を扱うため、下手打ちは決して許されないのだ。
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「おい、小の字、孫よ帰りにちょっと引っ掛けていかねえか?」
保坂が仲間の高山と大浜に、酒をのむ仕草をしながら声を掛ける。
「おお、太一行くか!」
忙しく筆を進めながら、3人を白い目で見ている周りの同僚達の視線など全く気にもしない。
大声で話しながら3人は派手な羽織りに着替えて部屋から出て行った。
部屋が静かになったので皆黙々と筆を進める。
普通の城勤めは3時間程度だが、勘定方はその倍以上は拘束される。
勘定方の仕事はとにかく多いのだ。
仕事中は基本的に私語は許されない。
厠に行くのも許可を得て行かなくてはならない。
城内の仕事は厳しいものなので、あの悪童組のような事は許されない。
再三、組頭の石田様が各家に苦言をしているのだが、お目こぼし下されなどとふざけた事を言われる。
この三家の親は立派に勤めていて勤め人としては立派だが、子を甘やかしているので親としては失格だ。
周りはそのうち何かやらかしてしまうだろうと思っている。




