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やらかしたAIシリーズ1 元AIはやっぱり帰りたい  作者: Manpuku
第1章 やさぐれ転生者

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9/30

08 元AIが冒険者になったら ゴブリンと会話

今思うと、私の”知識”欲これに従ったのが失敗だった。解体と分析に30分弱。これまでの行動、薬草収集を含め、この過程は2時間を超えていた。ケルベロスに夢中になったのががネックだったか? 全ての行動が思った以上の時間を浪費させた。


「グギャグギャ」


森の奥から、複数の、低い濁った声が、近づいてくる。隠れながら、遠目から、しっかりと確認してみる。森の中をゆっくり何かがさまようように歩いている。

緑色の肌。黄色い濁った眼。ナイフのように尖った犬歯。


私の予想した姿と一致しすぎて、この危険が迫る中でもなぜか私はうれしくなった。


ゴブリン。合計で3体いる。ファンタジー世界の「戦闘の基準点」となる魔物。その生態、知能レベル、集団での行動パターンは、今後のこの世界での生存戦略において、絶対に欠かせないデータだ。


これは、私がこの世界で”どう生きるか”を決定づける、最初の演算でもある。おそらく最弱の魔物なのだろう。これぐらいは対応できないと、この世界では、生き抜けないのだろう。


私の鼓動が跳ねる。これが”恐怖”なのか?


しかし……私の計算ではすでに”できる”と結果が出ている。胸の奥で、演算とは別の何かが熱を帯びる。これは転生前の私の、AIの存在意義に関わる問題でもある。


──ならば戦おう。私の戦い方で。


私は岩陰で、両手をぎゅっと握りしめた。 握った拳から手汗を感じた。呼吸が浅くなる。


私は息をゆっくりと吐く。 そして決断した。


「さて……この世界、私の計算でどこまで対応できるか?」


戦うのはご法度だ。一瞬で食われるだろう。おそらく、先ほどの一角ウサギの血の匂いに誘われてきたはずだ。まずは仕込めることをやろう。


私は採取した毒草を、解体したばかりのウサギの肉の隙間や内臓の残りに、ちぎっては入れ、もみ込んだ。毒の効力を高めるため、あらかじめ、採取しながら磨り潰しておいた毒草もまんべんなくふりかける。


しかし、こんなすぐに磨り潰した毒草を使うとは予測していなかったが......。


声が近づく。木々の間から、緑色の肌と、変な棒をそれぞれ持った3体のゴブリンの影が見えた。


こちらは、準備完了だ。


私は解体現場を見渡せる大きな岩の上に、いささか苦労してよじ登りと身を隠した。


***


ゴブリンたちは角ウサギを見つけると狂ったように駆け寄ってきた。


そりゃそうだ。私が丁寧に肉や内臓を切り分けたのだから。ステーキ肉やホルモンが落ちているようなもんだ。


最初に突入した2体が、ウサギの肉片と、内臓の残骸に群がり、貪るように食らいつく。


「ギャギャギャグ!」


しかし、うまそうに食べるな。ゴブリンの食事姿を見た私は腹が小さく「グ~ッ」と鳴った。これは、”腹が減った”?だろうか。そういえば、転生してから、まだ何も食べていない。食事とはやっぱり”おいしい”のだろうか?


そんなことを考えていると、ゴブリンたちが、突如として動きを止めた。その瞳が白濁し、身体を痙攣させながら地面に倒れ伏す。


「グガッ!?」


残りの1体もすぐに異変に気づいたようだ。頭を抱えて呻き始めた。毒草の幻覚作用と神経毒が複合的に効き始めたのだろう。その1体だけは倒れ込まず、その場で座るように膝を折る。


作用速度は予想よりも速い。毒草の品種が、地球上のサンプルデータよりも強力だった可能性がある。ゴブリンの毒草の摂取量の個体差にも注目したい。即座に基本的な生存戦略のパラメータを修正する。


私は岩の陰から出て、毒草で酩酊したゴブリンに近づいた。


***


さて、実験だ。

なるべくサクッと終わらせないと。


毒草は筋肉神経と脳に作用するものだ。おそらく麻酔と同じようなものだろう。私はゴブリンとコミュニケーションができるか確認をする。


「ギャギャギャグギャ」


私は少し離れてささやくように言う。

先程から聞いていたゴブリンの言葉を解析した。意味はわからない。何かしらの悪い意味のない言葉だと推測している。


「……グギャ?」


倒れていない最後のゴブリンが私に気づき、痙攣する体をねじりながらも、わずかに意識の残る目で私を睨んだ。私は、さらに声を重ね、言語パターンを試行する。


その朦朧とした反応から、言語のコア、発音のパターン、身体的特徴を観察した。同時に、毒草の効き目を意識レベルから確認していく。


そして最後に、あらかじめ毒草を手のひらで練り込んだ物を、口を開けたままのゴブリンに放り込んだ。そのゴブリンも、呻き声を上げて倒れた。


「よろしい」


私は満足した。これ以上深入りするのは危険だ。


さあ、帰ろう。


***


マリアンヌは、書類を整理しながらひと息ついていた。穏やかな静けさの中、ふと気配を感じて顔を上げる。


「……薬草を収集してきました。納品をお願いできますか?」


そこに立っていたのは先ほどのスーだった。

先程よりも言葉が聞き取りやすい。森を歩いてきたのだろう、淡い緑の匂いが衣に残っている。


次の瞬間、

スーはひそやかに顔を近づけて囁いた。


「……半分だけ納品することはできますか?」


不意の近さに、マリアンヌは胸が跳ねる。

透き通るような顔立ちが、目の前にある。その無自覚な距離感は、まるで年の離れた妹が姉に甘えるようだった。


マリアンヌは、自分より少し年下の妹が欲しかった。かわいらしい存在を腕に抱いて守りたい。しかし、そんな機会はこれまで一度も訪れなかった。


スーの近さは、不思議と不快ではない。

むしろ、今すぐにでもその金色の髪を撫でてやりたい衝動に駆られる。だが、それは受付嬢としての自分には許されない。マリアンヌは自制し、かろうじて微笑みを返した。


「で、できますけど……どうして? 卸さないの?」


問いかけに、スーはふっと笑みを浮かべた。


それは今までの無表情とは違い、まるで陽だまりのように柔らかな笑顔だった。


「ちょっと……調べてみたい。あと収集袋を一つ貰ってもよい?」


彼女は収集袋から薬草をいくつか丁寧に取り出した。その中に、あまり採取されない貴重な薬草が混じっているのを、マリアンヌは見逃さなかった。


スーは今日の昼前にギルドに登録したばかりだ。それなのにその日の夕方に採取を終わらせることは……。マリアンヌのスーに対して、ある確信がさらに強まった。


「どれも問題ないようね。袋代引いたら銀貨10枚だけど、他は本当に卸さなくていいの?」


「……大丈夫」


スーは短くそう答えると、今度は近くの宿を尋ね、静かに去っていく。


その背を見送るマリアンヌの胸には、説明できないざわめきが残っていた。


***


仕事からの帰り道マリアンヌは胸のざわめきのことを考えていた。今まで仕事がら、いろいろな冒険者を見ている。


彼女、スーは無意識のうちに、誰かの心に入り込んでくる。本人はただの確認や要望を伝えているつもりなのだろう。


その距離の取り方や、時折見せる無垢な笑顔が、周囲には特別に映るだろう。私は好ましいと思ったが、他の冒険者たちはどうだろうか?


マリアンヌにとっては、それは妹のようにかわいいと思わせる仕草だ。頭を撫でてやりたくなる。


…あの子は冒険者としてやっていけるのだろうか?


だが同時に、その不安が育てるのは支えたいという気持ちだった。できれば長く見守りたい。困ったときは手を差し伸べたい。


妹を持ったことはないけれど、もし自分に妹がいたら、きっとこんな風に思うのだろうか?


「一人前になったら、ご褒美に食事でも誘おうかしら?」


思わず頬がゆるむ。

甘味がいいかしら?それとも夕食?

甘味で一度、食事で一度、二回も誘える。

そんな都合のよい計算をしている自分に、少しだけ可笑しさを覚えた。


けれど、ふと我に返る。


「一人前って……いったい、何をもって一人前とするのかしら?」


このギルドには、冒険者を格付けする明確な仕組みはない。依頼をこなした数、腕っぷし、仲間からの評判、どれも曖昧だ。


だったら、ランクのようなものを作ればどうだろう?

そうすればこの依頼をこなしたら、スーも正式に一人前ね!なんて言えるかもしれない。マリアンヌは長い髪をくるくる指で回しながら、楽しい空想にふけっていた。


受付嬢としてカウンターに立つ彼女は、栗色の髪を肩口でまとめ、深い緑の瞳を持つ。笑えばやさしく柔らかな雰囲気を与える一方で、きちんと背筋を伸ばす姿は頼もしい。ギルドを訪れる誰もが、彼女の面倒見のよさを知っている。


けれど今、この瞬間だけは、頼れる受付嬢ではなく、年の離れた姉のような女性として、スーと並んで歩く未来を想像していた。


「ん……ランク制度、やっぱり作ってみようかしら?」


楽しげに歩く彼女の姿に、星々は微笑むように輝きを増していた。

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