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やらかしたAIシリーズ1 元AIはやっぱり帰りたい  作者: Manpuku
第1章 やさぐれ転生者

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07 元AIが冒険者になったら 角ウサギの解剖

森の中を歩く。


周辺の地図は記憶した。歩幅を頭の中で計算し、目的地を正確に割り出して進む。迷うことはない。


しかし、歩きながら考えていたのは、別のことだった。人間の体は不便である。先ほどギルドでトイレを済ませたが、扱いに困った。


尿の排せつ方法の説明をお願いしようかと思ってマリアンヌを尋ねようとしたが、それは不適切と即座に結論づけた。筋肉の動かし方を意識すれば用は足せたが、服の仕組みが分からず下をすべて脱ぐ羽目になった。服の置く場所がなく、頭に乗せ排尿した。


あれが尿意というものなのか。

食料を調達し、栄養を補給、そして排泄し、さらに睡眠まで必要。


……不便な身体である。


森を抜けると、開けた場所に出た。

木が倒れた跡、焼け焦げた地面、討伐の痕跡。


ここだ。


***


薬草の群生地を見つけ、収集を開始する。


討伐のときに何が影響したのかはわからない。ギルドに魔力を計る水晶があったことから、この世界には魔法がある。魔力の影響なのかもしれないし、魔物の血や踏み荒らされた地面のせいかもしれない。


それでも、予想どおり薬草は生えていた。


私は枝を手に取り、採取用の即席道具を簡単に作る。……手先は器用だな。


私は太陽の位置を確認すると収集に勤しんだ。



採取中、手を伸ばした根元で何かがもぞりと動いた。ナマコ? なぜ陸地にナマコがいる?


はぐれたのか?

いや、はぐれてもナマコが森には来ない。そのナマコは口から、淡く光る触手を「ヒョロル―」と出し始めた。


「……ほう、海の動きを再現しているな?」


さらにその横で、チンアナゴのような細長い生物が、土の中からにょりっと顔だけを出し、じっとこちらを見ていた。


「実に興味深い」


なぜ海の生き物が陸地に?

この生態系の仕組みを緊急に解明する価値がある。


「……いや、違うな。これは、”かわいい”というやつだ」


研究対象としても、単純に個体としても十分に魅力的だ。よし、これは持ち帰ってじっくり観察しよう。私はそっとナマコとチンアナゴをポケットに収納した。


別の場所では、似た色合いの薬草を手に取りかけて手を止める。

……これは確か毒草だな。

摂取すれば、軽度の幻覚作用あり、おそらく少量なら薬にもなるはずだ。


市場で観察した記憶と照合し、その他の毒草も見つけ自分用にと採取する。他にもいろいろな発見があり、必要なものは採取し、効率的に処理をする。



ガサガサ──


音に気付き、音源の方向を確認する。


角を持ったウサギだった。体長はここからでは詳細はわからないが約74センチメートルほどか。ウサギはこちらを見たがすぐに視線を外し、足元の匂いを嗅ぎ始めた。


よく知られたあの魔物だろうか?

ギルドで魔物について聞くべきだった。分析対象のデータが不足している。


しばらく観察を続ける。


足元を掘り起こしたりしている。こちらには反応しない。


あの様子なら襲ってこないのだろう。私は薬草の収集に勤しんだ。



……それがまずかった。


ふっと何か違和感を覚え、ウサギがいた方を見るがすでにいない。その瞬間、草むらから音が聞こえ、角のウサギが突っ込んできた。


反射的に私はあわてたのだろう。しりもちをついてグリンと天地が回った。それが結果的にウサギの突進を避けることができた。


しかし、なんて凶暴な歯なのだろうか?おまえはウサギなのか?あれは決して草食ではない。角のウサギは牙まみれの口だった。


ウサギはそのまま私と距離をとると、後ろ足で耳を掻いたりしながら、まるでこちらに興味がないようにふるまう。


傍目では可愛らしいのにな。しかし、あれは魔物だ。私を食おうとしている。


身体能力はあちらが有利だろう。逃げてもだめそうだ。あちらの武器は牙と角がある。そして四つ足だ。私の手持ちは採取用の袋と小枝で作った採取道具のみ。


さて、どうしたものか?


角のウサギはこちらが警戒していると何もしない性質ではないかと、観察結果から仮定し、頭の中でウサギとの距離を計算しながら、少しづつその場を離れ、大きな岩のある地帯まで移動した。


私が離れるとウサギは一定の距離を取る。そして足元の匂いを嗅ぎ始める。明らかに獲物を油断させるための擬態だろう。


目的地まで移動ができた。背後には、幅1.5メートル、高さ1メートルほどの、角ばった大きな岩がある。そして、その岩の後ろには太陽がある。


私は薬草を採取するふりをして、岩から2メートルほど離れた場所でしゃがみ込んだ。すべての音に集中する。草むらを動く音がエコーとなりウサギの場所が手に取るようにわかる。


ガサガサ……と、近い。


予測軌道は、前回より50ミリ秒速い。私は呼吸を整え、ウサギの突進の予測タイミングに合わせ、意図的に、やや大げさに、しりもちをつくようにグリンと転がった。


バキィッ!!


ウサギの突進は、私の体をかすめることもなく、背後の岩に激突した。ウサギは岩に頭をぶつけた後、よろめいた。そして、血を流した角が根元から折れ、岩の表面に突き刺さっている。


私は転がった体勢からすぐに起き上がり角を掴む。私は迷うことなく、折れた角の鋭利な先端を、地面で苦しむウサギの心臓に突き刺した。


***


......うさぎの死体をどうしたものか? 20キログラムぐらいか?


普通の少女なら悲鳴を上げる場面だが、私は違う。興味が先に来る。放置は衛生上、そして安全上最悪の選択肢。そして、これは絶対に「一角ウサギ」である。魔物である以上、何らかの有用な素材を持っている可能性が極めて高い。


解剖しよう。


私は知識欲にしたがい、解体と検証を決意した。一角ウサギの知識は皆無だが、構造解析なら任せてほしい。


先程の衝撃で岩から欠けた鋭利な部分を探し、岩山で研ぎ始めた。研ぎ方も、刃先の角度を15度から20度に保つことで、効率よく肉を断つための最適な曲線を導き出す。


……こんなもんかな?


私は石のナイフを大中小と3つ用意する。太陽の光を飲み込むように黒光りするそれらを「ケルベロス」と呼ぶことにした。


さてどんな生体なのだろうか?

そして、私は”ワクワク”しているのか?


私は大きな葉っぱを利用して簡易エプロンを、そして小さな葉っぱで三角巾で頭を覆う。腕を限界までまくり、宣言した。


「これより一角ウサギ(仮)──対象ナンバー001、“うさ子”の検証を開始する」


***


私はまず、うさ子の腹部に横一直線の切り込みを入れることにする。


意識を最大限に集中した。呼吸が止まり音が消えた。世界はうさ子の腹の一本線へと収束する。


うさ子とケルベロスの肉の境界だけが視界に残り、時間は粘度を失った。私はただ、その世界に流れるだけの存在になっていた。


この肉質は非常に硬い。まるで高密度の繊維質だ。私は知識にある解体方法を参照しながらスルスルと迷いなく解体する。私が育てたケルベロスは良い仕事をする。


すべての行動は初めての経験だった。転生前に蓄積された生物学データと、幾度となく回した解剖学のシミュレーションが、私の手を迷わせなかった。


「なるほど、内臓の位置は地球上のウサギとほぼ同じ。ただし、心臓は極端に分厚い筋肉に覆われている。驚異的な持久力があったのだろう」


走って逃げなくて正解だった。私はこの世界では逃げない方がよさそうだ。私は足が遅い。そして、私が注目したのは、心臓の近く、肋骨に囲まれた小さな光る結晶体だ。


……魔石か?


直径1センチメートルにも満たない、淡い青色の透明な石。触れるとひんやりとしている。


これがうさ子、いや魔物の生命力の根源か?

もしこれが魔石なら、魔物はこの世界の魔法の力の”媒体”である可能性が高い。


……もちろん、これは一例にすぎない。

だが今あるデータから導ける最有力仮説となる。


魔石を慎重に取り出し、採取袋の最も安全な場所に保管した。肉を部位ごとに分け、持ち運びやすくする。肉を切り終え、私の手元には、魔石、角、牙、そして食料となるであろう肉が残った。毛皮も使えそうだ。


私は満足げに頷き、すべてを纏めた。


ここからセラフィナまでの最適なルートを計算し始める。採取物を最大限に持ち帰るため、最適ルートを選定する。



しかし、何か違和感が……。


はじめは体内の血流、あるいは感覚器の誤作動と判断し、ノイズデータとして認識をしていた。


だが、その「データ」は聴覚や触覚の定義から外れているにもかかわらず、私の処理を少しずつ埋め始めた。それは、極めて低周波で、一定のリズムを刻む「振動」だった。


私の記憶に類似する危険信号は存在しない。にもかかわらず、その振動は不規則に、しかし確実に、「無視はできない」という結論へと収束した。


「──グギャ!グギャ!グギャギャ!」


鳴き声、と分類するには、情報が不足していた。森の奥から、湿った音が突然、だがはっきりと発生した。


距離、音量、反響。

解析が、止まる。


──警告

危険予測値のみが上昇し続ける。


私の生存予測アルゴリズムが、初めて警告を発した。ただ「警告」と。


その瞬間、背筋を冷たい何かが撫でていった。

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