表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
「私はバグか?」祝福された世界で、元AIの少女はエラーを吐く  作者: Manpuku
第4章 滅亡のお知らせ

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

49/50

48 スーの雑用

ルルとミンカは町の観光や記憶の遺跡の調査を行うらしい。滞在中の空いた時間で彼女らは魔道具を開発することになった。魔導版はミスリル箔をスライムの粘液でコーティングしたものだ。これに魔法陣を刻み、魔道具のコアとして設計をする。


私は久しぶりに教会の自室の机を広げ、「やることリスト」を整理した。この時間を有効に使い、溜まった仕事の片付けに充てる。


まずは物語の執筆だ。両手にそれぞれ筆を取り、別々の物語を一気に書き進める。数年先のストックが必要だろう。


「師匠!小説ですね!」

ルルが鼻息荒く駆け寄ってくる。


「ん!ん!ん!」

「ルル、鼻息が私の手にかかっているが」

「大丈夫です!もう少しで読み終わります!」


そこへ女神新聞を担当しているリリス、マリオン、セリーナたちがやってきた。今後の新聞連載の物語内容を説明すると、「はあー、相変わらずイケメンな話ですね」と笑われる。


「新聞の調子はどうだ?」


「絶好調ですよ。広告枠は3ヶ月先まで完売。……ただ、唯一の問題は南部にいるエリシアさんですね。あっちから届く手紙、毎回『スーがいない新聞なんてスパイスのないスープよ!』っていうぼやきから始まるんですから」


「あー、あいつらしいな……」


「今は魚人の里で『水に強い紙をよこせ』って喚いてます。現状の深刻な問題は物理的な限界です。今の設備じゃ印刷も輸送も追いつきません」


「……そうか。なら、開発中の『教育用魔導版』の仕組みを応用しよう。魔法で新聞の内容を飛ばして現地で印刷する『魔導印刷機』の設計図を後で庇護院に渡しておく。それと、前から話している『孤児の派遣計画』だ。彼らを現地の教会に派遣すれば、輸送の問題も解決する」


「孤児たちが活躍するのはうれしい気持ちと寂しい気持ちもあります。赤ちゃんからこの孤児院で育った子もいますから」


少し、しんみりした空気を変えるように、シスターたちが分厚い紙束を抱えてやってきた。月刊『ムームー』の次なる選考作品だという。ぜひとも私に読んでほしいとのことだ。


その中には、リリスたちが共同で執筆した作品もあった。内容は、孤児院出身の三人組が世界を股にかける冒険者になる物語――。

孤児院を見守り続けてきたシスターたちも、その内容に目を細めていた。


私は彼女たちの物語を優しく整え、選考に漏れた作品にも赤ペンを入れる。作者の心に小さな彩りを残すために。


そんな様子を見ていたルルも自作を持ってきた。芸術的に読みにくい文字で、荒々しい魔人と魔獣、そしておっさん冒険者、三人の交流が熱く描かれていた。


新聞に載る物語は娯楽の皮をかぶりつつ、魔物の効果的な倒し方や魔道具の知識を広める役割を持つ。印刷が改善されれば発行部数は増えるだろう。


リリス、マリオン、セリーナと打ち合わせをし、その後、孤児院に向かった。


***


会議室の重厚な扉を開けると、熱気が肌に伝わってきた。中には孤児たちや庇護院の纏め役をしている面子が書類を作成していた。


「カリオ、ニコア、いるかー?」


私の呼びかけに、資料の山から顔を上げたニコアが小さく手を振った。円卓を囲む面々の顔ぶれを確認し、私は手元の計画書を広げる。


「さて、始めようか。まずは新事業、『遺跡観光と魔道具販売』についてだ」


私が概要を切り出すと、各セクションの責任者が身を乗り出す。


「目玉はガイドブック『遺跡の歩き方シリーズ』の出版だ。それと並行して魔道具を展開する。試作はエルフたちに任せる。量産は鍛冶ギルド、流通は商業ギルドだ。これはエルフたちの貴重な収入源になる。彼ら主体の事業として進めてくれ」


「エルフさんたちと仕事ですか?」

二コラは目を輝かせながら言った。


「エルフたちは、商売という概念がない。くれぐれも彼らが世間に騙されないように、皆で守ってくれ」


「この学校の計画ですか。具体的には?」

カりオが言った。私以上に身長が伸びて体格も立派になっていた。


「まずは誰でも通える『寺子屋』。読み書き算数の基礎を教える。そして本命は、10歳からの『全寮制学校』だ」


私は地図の一角を指し示した。


「ここでは応用学習に加え、戦闘訓練や建築、農耕といった生活技術を徹底的に叩き込む。生徒たちが開拓した土地や建物は、そのまま彼らの所有物とする。ただし、勝手な売買をしないように、教会からの『無償貸与』という形で管理する。卒業後の進路はもちろん自由だ」


「孤児院の子は教会でも学び、かつこの学校でも学ぶ。孤児院の子どもたちの評判が立てば、彼らのハンデは消えますね」


「その通り。0歳から9歳までは孤児院、その後は全寮制学校へ。庇護院には元冒険者がいる。彼らの指導で、体力も精神も鍛え上げる」


少し声を落とし、私は一同を見渡した。


「最後に『暗部チーム』の設立を計画している。ギルドが表なら、暗部チームは裏。今後増えるであろう権力者への抑止力だ。これにはギルドとシスター長の許可が要るが、私は避けては通れない道だと思っている」


沈黙のあと、誰かが深く頷く音が聞こえた。 私たちはその後、夜が更けるまで細部の見直しを行い、今後50年を見据えた分厚い計画書を各責任者の手に託した。


***


ミンカと子どもたちは、モウフたちに乗って教会の回廊や中庭を散歩していた。最初、孤児たちは巨大な毛玉のような冬毛のモウフに恐る恐る近づいた。「大丈夫よ、この子たちは優しいの」と囁くと、子どもたちは次々にアルパたちの背にまたがった。


「わ、わあ……ふわふわしてる!」

「落ちないかな……?」


不安と興奮が入り混じった声に、モウフは「ドエー」と誇らしげに鳴き、子どもたちをそっと揺らしながら歩みを進める。ミンカがにっこり笑うと、不思議と安心感が広がり、孤児たちも次第に笑顔になっていった。


「この教会は雰囲気がいいわね。せっかくだし、精霊たちの住処にもなるように、少しだけ魔法を唱えてみようかしら」


ミンカが指先を掲げると、淡い光がひらひらと舞い、子どもたちの周りを包み込み、やがて空へと溶けていった。その瞬間、辺りの空気がやわらぎ、ひととき世界全体が優しくなったように感じられた。


「きれい!」

「星みたいだ!」


歓声が上がり、子どもたちの笑い声が広がった。


その光に応えるように、教会の地下にある記憶の遺跡までもが静かに呼応した。ほんのわずかだが、教会全体が淡く光を帯びた。子どもたちは気づかないまま遊び続けだが、何人かのシスターたちは息をのんで互いを見やった。


やがて夕食の時間。

食堂は精霊たちであふれ、飛び跳ねる光が皿の間を駆け抜ける。シスター長アンヌとリンは、頭にちょこんと座る小さな精霊をそのまま受け入れ、ぎこちなくも微笑んだ。


「リン、これは女神様のご褒美なのかもしれません」


「シスターアンヌ、わ、わたしのスプーンの先に精霊様が座ってるのですが……どうすれば?」


ご飯が食べられず困り顔のリンにアンヌは言った。


「精霊様、少しこちらへ」


アンヌは落ち着いた声でそう言うと、精霊を両手でやさしく抱き上げ、テーブルの端にそっと置いた。


その自然な振る舞いに、リンも子どもたちも思わず見とれる。ああ、この人がいるなら大丈夫だ。そんな安心が、食堂に広がっていく。


自分たちは決して間違った道を歩んでいない。そう信じられるだけで、胸の奥に誇り高い温かさが広がっていった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ