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「私はバグか?」祝福された世界で、元AIの少女はエラーを吐く  作者: Manpuku
第3章 遺跡の歩き方

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35 火の遺跡 前編

翌朝、私は自前の地図を広げていた。

そこにはドワーフの街と、その周辺が描かれている。


「なんだこれ?」


覗き込んだのはバンズだ。驚いた表情で地図をまじまじと眺めている。「私が書いた」と答えると、さらに目を丸くした。


「こっちのほうは書かねえのか?」


私の地図は、街の高い場所から見える範囲しか記されていなかった。するとバンズは一か所を指さす。


「ここは魔物もいない無人島だ。不思議なことに熱くならねえ。よかったら連れてってやる。俺もこの辺の地図が欲しかったんだ」


彼も漁師だ。溶岩に住む魔物や生物を“釣る”いや、“狩る”のが仕事で、小さいながらも船を所有している。普段は父親ガンズと共に漁をしているが、今は一人でお気楽にやっているそうだ。


「その地図、完成したら売ってくれねえか?」


瞬時に取引条件を計算する。船は自然エネルギーで動くため燃料代は不要。バンズの船で観光地への移動と案内、地図作成のための移動手段を得ることができる。


さらに思い出す。フィオーナが、私たちのネックレスを見て欲しそうにしていたことを。ならば、その小さな喜びを条件に加えよう。相手も納得しやすいはずだ。


「よし、取引だ。地図の写しはやる。ただし、複製と販売はナシだ。教会の事業にしたいんでね」 私は指を一本立てた。 「それと、もう一つ。……フィオーナに、何かプレゼントを贈れ。アクセサリーが良い」


「かあーちゃんのプレゼントか……。そういや、したことねえな」


バンズはそう言って背を向けた。

耳たぶだけ、やけに赤い。


***


「スー、あの溶岩の滝の裏に行くのか?」


「私は隅々まで観光したい派だ。できないのか?

おまえ、自分の船自慢していただろう」


「……。ちょっと待ってろ!」


バンズは迷いなく作業に取りかかる。溶岩燕大蜂の複眼を利用し、制御室を覆う溶岩よけのシェルターを即席で組み上げた。


小型ながら、彼の船には男子の夢が詰まっている。二本のアームがロボットに見える。船底は二つに分かれており、双胴船のような形をしている。その中央の空間を通る風を強制的に上昇気流へと変えて、帆に揚力を集める仕組みとなっている。


「理屈も大事だが、こいつは“俺の船”だ。……俺の誇りが船を走らせる」


バンズはそう言って、銅のパイプをわずかに叩き、蒸気のかすかな音に耳を傾ける。その表情には、機械と語り合う者だけが持つ独特な世界が浮かんでいた。


***


「あそこに見えるでかい塔、わかるか?」

バンズが指を差す。


「ありゃ、この街一番のドワーフの炉だ。何度も改良を重ねて、熱に弱いもんは燃え尽き、熱に強いもんだけが残る。それが長い年月で、あんな塔になったんだ」


塔は歪ながらも、確かな熱を放っている。なんという豪快さか。

ただひたすら修繕を繰り返し、炉の熱に耐えるものだけを残す。


「燃え尽きるものは燃え尽きろ。残るものだけが残ればいい」


その単純さが、何よりも強靭な答えなのだ。


「……あの滝に行くのですか?」

ルルカスが慌てた。


「そうだ。行けるか、バンズ?」


「行ける!行けるはずだ!」


バンズの船は、迷いなく溶岩の滝へと突っ込んでいった。赤黒い炎が渦を巻き、鉄すら呑み込む轟音が船体を揺さぶる。


「ひゃあああ!燃えてる!? 私は燃えてる!?」

ルルカスは頭を押さえ床に転がった。


「安心しろ、今は燃えてねえ!燃えるわけがねえ!」


「そうだ。この船は燃えない」


絶叫と誇りと最適解の声が溶岩の滝の中で響く。


そして、炎のカーテンを抜けた先は小さな洞窟だった。


「……何もない」

「……何もねえな」


しかしバンズはすぐに胸を張り、笑い飛ばした。


「がっははは! 隠れ家には最高だろうが!」


結局ここには、宝物も仕掛けもなかった。私たちはバンズが言っていた、魔物がでない無人島に向かうことにした。


「またあの滝を越えるんですか?」

ルルカスが私の袖を掴みながら尋ねた。


「そうしないと、ここから出られないんだ」

私は答えた。


ルルカスは船へ駆け寄ると、ミスリルの首飾りを掴んだ。

その瞬間、光のドームが船体を包み込み、淡い青白い光が周囲に広がる。


「な、何だ!?魔法の防御結界か?」

バンズが驚きの声を上げた。


「さあ、参りましょう!」

ルルカスはニヘロと微笑みながら私たちに呼びかけた。


***


「ブイーーーン」


私とルルカスは、バンズの船に備え付けられたロボットアームに吊られ、無人島の砂浜へゆっくり降ろされた。


バンズは念のためと、耐火・耐熱に特化した防護服を私たちに着せる。隙間がないか何度も確認した。彼は直接肌には触れないようにしながら、防護服越しに太ももの紐をぎゅっと締める。


強く締めつけられた瞬間、私の腹が鳴った。


「俺はちょっと漁にいってくる!

15時ぐらいに迎えにくるからな!

何かあったらすぐ呼べよ!

がっはははは!」


島には魔物も生物もいない。聞こえるのは、遠くの溶岩が地面を這うように流れる音だけだ。小高い丘へと向かった。とりあえず昼食にすることにした、フィオーナのお弁当はサンドイッチ、エールの水筒もついていた。


咀嚼しながら周囲を観察する。ルルカスはサンドイッチを平らげ、エールを一気に飲む。喉の渇きを我慢できないらしい。私は少しだけエールを口に含んだ。


「……何もないな」


私がつぶやくと、ルルカスは地面に手を当て、そのまま動かなくなった。


「この奥から……魔力を感じます」


エールに酔ったのかと思った。だが、その瞳は真剣だった。

丘を少し下ると、一か所だけ地面が不自然に沈んでいる。入口は狭く、自然の洞窟のようだが――奥に扉があった。

その形は、教会で見たものに似ている。


ルルカスは目を細め、つぶやく。

「……なんでしょうー? この文字は? 師匠、わかりますかー?」


刻まれているのは、熱に関する法則。

読むたび、扉の文字が赤く脈打つ。

最後の一節を読み終えた、その瞬間――


分母が、消えた。

解を導いてしまったようだ。



それは、現象だった。


あらゆる境界を焼き払いながら――

世界を火に変えた。

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