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やらかしたAIシリーズ1 元AIはやっぱり帰りたい  作者: Manpuku
第2章 教会から始まる冒険

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20 はじめての依頼

この町には「市長」も「役所」も存在しない。代わりに、いくつかのギルドが町の機能を分担して担っている。 魔物の討伐や防衛を担う冒険者ギルド。 流通の要となる商業ギルド。 そして、武具の製造からインフラ整備までを手がける鍛冶ギルドだ。


特徴的な点は各ギルドは財政面で連帯しており、住民が選出した「調整者」との協議によって町は運営されている。何かを依頼するなら、まずギルドに話を通すのがこの町の通例だ。


今回の「教会の修繕」において、最大の鍵は冒険者ギルドだった。彼らの桁外れな身体能力を現場に投入できれば、全てはうまくいくはずだった。 季節はまだ、夏の温もりを色濃く残している。陽光の中、落ち着きなく飛び回るトンボの羽音が、低く唸るように響いていた。


私はまず、鍛冶と商業の両ギルドから協力を取り付けた。 鍛冶ギルドには、先日の遠征で得た「希少鉱石の分布図」を。商業ギルドには、今後教会で栽培する薬草の優先販売権を。 目前の利益を前に、彼らが首を振るはずもなかった。


残るは最大の難所、冒険者ギルドだ。荒くれどもを動かすための「仕掛け」を準備するため、私は一軒の店に立ち寄った。 「あら、いらっしゃい」 店主は私を見ると、親しみ深い笑みを浮かべた。


「以前こちらで買った服と同じものを、十着ほど用意したいのです。教会の修繕のために」 店主は一瞬きょとんとしたが、私の計画を話すとすぐに得心がいったようだった。 「なるほど……教会のためなら、一肌脱ぎましょう」


それから私は店主と共に、リメイク作業に取りかかった。裁断し、縫い直し、丁寧に刺繍を施していく。 「相変わらず器用なこと。見惚れてしまうわ」 感心したように店主の顔が輝く。ふと見上げた看板に描かれた鳥のマーク。


「ところで、このお店の名前は?」 「ハトハトよ」 私は名案を思いつき、看板と同じ鳥をあしらった小さなワッペンを作った。それを彼女に頼み、服の胸元へ縫い付けてもらう。


「ほう、いいアクセントになるわね。うちの店だって一目でわかるわ」 私はワッペンをそっと見つめた。作戦が成功すれば、この服を気に入った者たちが、自然とこの店を訪れることになるだろう。


***


私は冒険者ギルドの重い扉を押し開けた。 カウンターでマリアンヌがひらひらと手を振って迎えてくれる。


「マリアンヌ……依頼を出したい」 彼女はにっこりと微笑み、私の持参した依頼書を掲示板の最も目立つ場所へ貼り出してくれた。


続いて、私は次の行動に移る。 「ちょっといい?」 声をかけたのは、ギルド内でも一際目立つ女性冒険者たちだ。教会の修繕計画を説明し、協力を要請する。報酬として提示したのは、先ほどの店でリメイクした「あの服」だ。


「えっ、その服をくれるの? いいわよ、乗った!」 流行に敏感な彼女たちは、即座に快諾してくれた。私は持参した裁縫道具を取り出し、その場で彼女たちの体型に合わせて細かな補強やサイズの微調整を施す。



夜、ギルドの食堂兼酒場には仕事を終えた男たちが集まっていた。むさ苦しい熱気と酒の匂いが充満する中、私は中心に置いた木箱の上へと立ち上がった。


「勇者たちよ、聞いてくれ!」 腹の底から声を出す。視線が一斉に突き刺さる。 「私の名前はスー。今日から教会で暮らすことになった。そこには、親を失った子供たちがたくさんいる……」


私は一度言葉を切り、男たちの顔を一人ずつ見渡した。


去年の冬を越せなかった女の子の話をした。彼らの力が、魔物を倒すためだけではなく、子供たちを守る「守護者」の力であることを訴えた。酒場が、しんと静まり返る。


「立ち上がってくれる者は、この箱に名前を書いてほしい。諸君らが語り継がれる新たな『物語』は、今、この瞬間から始まるのだ!」


最後の一言を放ったとき、溜め込まれた沈黙が爆発した。 「うおおおおおっ!!!」 「よっしゃ、俺がやってやる!」  次々と札が箱に投じられ、荒くれ者たちの列が伸びていく。


札を入れた男たちには、リメイクした衣装を纏った女性冒険者から「ただ酒」が振る舞われた。スーは事前に彼女たちに指示を出していた。 「にっこり笑って、何も言わずにお酒を渡すこと」


「酒が出るなら仕方ねえ」「女たちに見られてる」  そんな些細な「言い訳」を用意してやることで、彼らの高いプライドを傷つけず、やる気を引き出す。マリアンヌに任せたサクラたちが作った「声」や「列」も、現場の熱狂に拍車をかけていた。


加えて、華やかな衣装の女性冒険者たちが「協力者の目」として配置されていることも大きい。ここで依頼を断れば、彼女たちの記憶に「意気地なし」として刻まれる。そんな無言のプレッシャーが男たちの競争心を煽っていた。


ギルドはかつてない熱気に包まれていた。酒を掲げ、子供たちの守護者になると誓い合っている。しかし、その熱狂の中心にいたはずの少女の姿は、すでにそこにはなかった。


---


教会の食堂。誰もいなくなったテーブルで、スーは一人作業を続けていた。鼻先をかすめる夕食の残り香。……今日はボアのミートボールだったはずだ。 「……ぐぅ」  不意に、腹が小さく鳴った。


手元にあるのは、古ぼけた見取り図と計算尺。 「基本の力仕事は冒険者に。鍛冶ギルドは指示役に。商業ギルドは資材の停滞を防がせて……」


今日出会った人々の顔を思い浮かべながら、精密な工程表を描き出していく。脳裏には、暖かい部屋で冬を越し、春の祭りを笑って楽しむ子供たちの姿が見えていた。

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