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第1話トラウマ

「最近暑いし、雨も降らないから食べ物があまり取れないな。」


汗を翼で拭いながら話しているスズメは、僕のお父さんだ。


「せめてこの子達の食べ物だけでも見つけないと。」


こっちのすごく美人なスズメは僕のお母さん。

2人は毎日僕たちのご飯を探してきてくれる。最近は少なめだけど。

僕は1番最後に産まれたから1番小さい。2人のお兄ちゃんは、もうすぐ巣立ちの時期に入る。


「ごめんなお前たち、また探しに行ってくるから待っててくれよ。」


「お父さん、俺も行くよ!」


「もうすぐ巣立ちだろ?ここにいる内は甘えとけ。」


兄が頭を撫でられていることが羨ましくなった。


「お父さん!僕も行く!」


「お前何言ってんだよ、そもそも飛べないだろ。」


2番目の兄が翼で顔を叩いてきた。


「じゃあ、母さんとまた行ってくるな。」


行ってしまった...

最近の暑さと餌を取れないストレスなのか、お父さんもお母さんもあまり構ってくれない。


「お前よ〜...今父さんと母さんは大変な時期なんだよ。面倒事増やすなって。」


いつも2番目の兄は意地悪してくる。


「もういい!お父さん達帰って来るまで寝てる!」


結構寝てしまった。お父さん達が帰ってきたのか、兄たちが騒いでいる。

目を擦りながら外を見ると、大きな鳥が家の前で暴れていた。


「うわぁー!」


「あなた達!逃げなさい!」


お母さんが翼を大きく広げて、僕達を隠している。

2人の兄はお母さんに言われるがまま家を飛び出した。突然の事で上手く飛べず、下に降りてしまった。


「お母さん!僕はどうするの?ねー!お母さんってば!」


「お母さんが連れて行くから、今はしゃがんでなさい!」


お母さんの腕の隙間から大きな鳥を見た。背中は黒く、腹は白い。そして鋭い爪とクチバシを持っている。大きな鳥が家まで近づけないのには理由があった。それはお父さんが戦っているからだ。翼をものすごいスピードで羽ばたかせている。凄まじいスピードで大きな鳥の周りを飛び、隙が見えたら攻撃をしている。


「お父さんすごい!」


お母さんの羽を退けながら身を乗り出した。


「だめ!隠れて!」


お母さんが叫んだが遅かった。大きな鳥の目は黄色の中心に黒目があり、鋭い目つきでこちらを見ていた。

それまでお父さんを追っていた大きな鳥は、こちらに向かって飛んできた。


「やめろー!!」


お父さんが叫び、大きな鳥の前に向かって急降下した。そうか...狙いは僕なんだ。

大きな鳥は翼を大きく振り、体勢を整えながら減速した。諦めたのかと思ったが違った。

鋭い爪を持った足で、翼を広げて息子を守ろうとしているお母さんを蹴り上げた。爪が腹を裂いた。


「きゃー!!」


お母さんの叫び声が響く。その声に震えが止まらない。


「やめろ!」


お父さんが叫びながら上から大きな鳥に突っ込んだことで、大きな鳥は体勢を崩した。しかし大きさが全く違うことにより、すぐに体勢を立て直すことができていた。お父さんは違った。頭から突っ込んだことで動かなくなり、そのまま地面に落ちた。


「うわぁー!お父さん、お母さん助けて!」


目の前まで大きな鳥が近づいてきた。巨大な翼が生む風で壁まで転がってしまった。「殺される」そう思った時、大きな鳥が無理やり家に足を乗せたため家が崩れてしまった。

崩れた家が奇跡的にクッションになった。しかし、これで危機が去ったわけではない。地面に落ちたことでむしろ食べやすくなってしまった。

ゆっくりと大きく翼を動かしながら、大きな鳥は降りてきた。


「うわっ!おじいさん、スズメが倒れとるばい!」


「なんじゃ?可哀想に、連れて行くぞ。」


人間だ。お母さんからは、近づくなと何度も言われてきた。何か話している?

地面に倒れているお母さんとお父さんを抱えて連れていこうとしている。


「やめて!連れていかないで!僕のお父さんとお母さんだぞ!」


まだ飛べなかったせいで、その場でバタバタと暴れることしかできなかった。


「おい!またあの大きな鳥が来るぞ!ここの床下ならあいつも入って来れない!転がって下に隠れろ!」


1番上の兄が飛んできた。地面に落ちていき、2人とも死んだと思ったが生きていたのだ。

言われた通りに転がって、巣があった民家の床下に逃げ込んだ。



「ラッシュ兄ちゃん!こっち来て!」


真ん中の兄が大きな鳥を足止めしていた。お父さんのように、攻撃まではできていないが翻弄することはできていた。

1番上の兄もすぐに大きな鳥へ向かって行った。2人ともすでに飛ぶコツを掴んだようだ。

床下で2人を見ていたが、大きな鳥の姿を見たことであの鋭い目を思い出してしまった。震えが止まらない...

目を塞ぎ、あいつを見ないようにした。すると、グチャっと鈍い音がし、短い悲鳴が聞こえた。

嫌な予感がしてすぐに兄たちに目を向けたが、真ん中の兄が見当たらない。大きな鳥が振り向くと、その口に1番上の兄の頭を咥えていた。1番上の兄はピクリとも動かない。

恐怖でクチバシがカチカチと音を立てる。2秒ほど目が合っていただろうか。大きな鳥は1番上の兄を咥えたまま、どこかへ飛び去ってしまった。


「...うぁぁぁぁぁ!!!!お父さん、お母さん、僕どうすればいいの?誰か助けてよー!」


空いっぱいの黒い曇から水が落ちてきた。光と大きな音、そして雨が地面に当たる音が悲鳴をかき消した。


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