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9/11

二ー56  白いフード2

「どういうことだ。ボードワン。」


背後で耳慣れた声がして驚いて振り返るといつの間に現れたのか、リシャールがかがみ込んでボードワンを覗き込んでいた。


「リ、リシャール様! ・・・申し・・・ 」


そう言いかけた所で駆け寄って来たポールの制止が入る。


「報告はここでは控えられよ。」


 ポールの制止を受けてリシャールは無言でコクリと頷くと、ボードワンを支えながら立たる。

 城塞へと連れてゆくのだ。

すかさずリシャールが支えるボードワンの反対側の腕の下に肩を滑らせると、「ジャン殿。済まない・・・」

と小さく弱々しい声がした。

 やはりボードワンはアンリの元に戻っていたのだ。ウィリアムは一緒にはいなかったのだろうか?


 アンリの動向は今、局面を見定めるうえで重要な情報だ。

 ピュルテジュネ王とその共同王であるアンリが国を二分して戦うこの状況下で、アンリは攫われたのか、それともブラバンソンたちを率先して自ら行動しているのか。

 もし前者ならば、リモージュに立てこもるエマールとジョフロア達はアンリという旗印を失っているという事になる。

 後者ならば、ブラバンソン軍を率いて軍備の調達をしつつ兵力の増加を画策している?

 

「表の奴らは拘束しろ。」


 城門から離れながらポールの指示が聞こえていた。





 ボードワンを連れてリシャールが向かったのは、ピュルテジュネ王の元だった。


「父上。ボードワンが戻りました。」

「そうか。アンリは今どうしている。」


 執務室で何やら紙を睨みつけていた王はペンを握ったまま、目線だけで扉から二人がかりでかろうじて立つことのできる男を見つめる。

心配するでもなく、労うでもなく、淡々とした問いだ。

 そんな王を前に、よろめきながらボードワンが崩れ落ちるように頭をもたげる。


「私が不甲斐ないばかりに・・・アンリ様の救出に失敗してしまいました! 」

「ウィリアムとは合流出来たのか。」

「は、はい。何やら白いフードの集団と行動をともにしておられまして・・・。」


ピュルテジュネ王の横に控えていた中年の男が驚いた声を上げる。


「白フードだと?」

「何だロジャー。知っているのか? 」


 ロジャーと呼ばれたこの男がおそらくポールの師匠のロジャー・ホーヴェデンだろう。

いかにも文官といった風貌で、聖職者の格好をしている。

 この世界では、文官というか、官僚みたいな仕事をしている人はほぼ聖職者だ。

大昔にボルドーへの旅をしたときに色々な規模の教会に宿泊をさせてもらったが、どこも一貫して行政機関の様な働きをしている印象があった。

 病院のような機能や学校、裁判所といった人々に密接した関係であり、たとえどんなに小さな村だとしても、必ず教会が一つはあるのが常識だ。

 

 ふっとリベラックの神父、拾ってくれた村での父であり、師匠である、懐かしい顔が浮かぶ。

やせ細った体に、薄汚れ、色褪せた黒い聖職服をまとった姿は、優しく微笑む記憶で蘇る。

 目の前にいる美しく染め上げられた黒い聖職服とは比べ物にならないほどボロボロだったけど、胸から下げられた美しい彫りが施されたロザリオは、負けないくらい、いや、リベラックの神父様のほうが美しく輝いていた気がする。


「ル・ピュイのデュランという者が 『聖母マリアの夢を見た』 と・・・詳細は割愛しますが方方で伝えあるき、近郊の貧しい民たちの間で広がりを見せていた集団でございます。最近というか、この2ヶ月ほどで驚く人数が集まっているようで、貴族、騎士と力のあるものもそのなかに加わり自衛と称して一部軍化をしているとの話でしたが・・・。なるほど、その中にウィリアム殿がいらしたとなると、納得です。ウィリアム殿は素性を隠していたとしても、目立つお方です。人が集まるのも無理はない。」

「なぜ白フードなのだ?」

「聖職者の着る黒染めの服は高価ですから。染めぬ服を着ることで質素倹約といったところを示したいのでしょうか。近年のリムーザンは戦乱に乗じて治安が悪化し、教会に暴徒が侵入し金品を略奪するという事件が多発しております。それを正当化しようという者が現れても不思議ではありません。物は言いようです。」

「して、教会としてはそれはどう見ているのだ?」

「我々教会の見解としては、彼らはカタリと同様、異端であるとの声が多いのですが、少し様子を見ようと言う判断がくだされています。」


 ボーヴェデンの顔を見ながらピュルテジュネ王がにやりと笑う。


「なるほど。戦力としてうまく使い潰そうということだな。」


 その問いにボーヴェデンは何も答えないし、王と視線を合わすこともしない。

なんだか冷え冷えとした空気が流れる。

ポールの師匠という話だが、熱血なポールと対象的に、この人血が通っているのか? と思うほど冷徹な印象だ。

 それと同時に王も必要最低限の情報しかいらないタイプなので、ちょうど良いのか。

・・・疲れそうな職場だ。

 こんな人達と何日も一緒の部屋に閉じ込められたらリシャールでなくとも逃げ出したくなるだろう。


「ならば、白フードとやらとウィリアムの関係は吹聴するな。ボードワンも、誰にも言ってはおらぬな?」


 ポードワンは話の流れを掴みそこねたのか、目をパチクリとさせながらも、大きく頷く。


「は、はい! ウィリアム様にも正体を明かさないようにと釘を刺されております。ウィリアム様と・・・その、白フード団により、ブラバンソン達は占領していた村から撤退した様子です。私はこれ以上は捉えられてしまったので詳細はわかりません。」

「そうか。ではアンリはまだブラバンソンの者共に捉えらたままか否かはわからぬということか。で、なぜお前はここに? 」

「私は、証人との事らしいです。しかしメルカディエめはあまり交渉に慣れていない様子でして。どうも、リーダーのロバールは不在なのではないか、という気がします。統率にかけているというか、頻繁に喧嘩をしていたりと終始バタバタとしているのです。」

「で、あろうな。あまりにも訪問が稚拙すぎる。お前が居なかったら子どもの使いだと消していただろう。そのモノたちはどうした。」


視線がこちらに来たので慌てて報告する。


「ポールが捉えております。」

「ポールか。では、私も話を聞きに行こうかな。」


ボーヴェデンが何やらいそいそと身支度をはじめている。


「え?」

「なんだだめなのか?」

「あ、いえ。そんな事は。」

「そうか。では連れてゆけ。」


 先程の冷徹さとは打って変わって何やら生き生きとした様子に戸惑っていると、隣でリシャールがため息を付いている。


「ボーヴェデン。まずはボードワンを医務室に連れて行かねばならん。待たれよ。」


 リシャールは半ば倒れそうな体をかろうじて保ってているといった様子のボードワンを支えながら立たせていると、ボーヴェデンが近づいて来て、後ろの扉を開けてくれる。

と、思っていたら、扉を開けた先の兵士に声をかけた。


「・・・おい。そこのお前。この者を医務室へ連れて行け。そこのお前は空いた持ち場を埋める人員を連れてこい。急げ。」

「・・・」

「これで良いですな? ・・・な? ほれ、人手が来た。では、ポールのところへ行くとしましょう。」


 ちらりと王を見ると、我関せずといった感じで机に向かい、ガリガリとペンを走らせ何やら仕事に勤しんでいた。

 そしてその息子はガリガリと頭を掻きながらブツブツと文句をこぼしている。

そんなリシャールなど気にした様子を見せることなく、ボーヴェデンは急かす。


「・・・何をしているのです。早く行きますよ。」

「へいへい・・・。」


 そういえばポールがリシャールも彼に教えてもらったことがあると言っていた。

二人のやり取りを見ていると、なんだか先生と生徒みたいで少し笑ってしまった。










わー。ボーヴェデン出ました!!

自分が書いてるのに何いってんでしょうね。

でもちょっと興奮する。

ロジャー・ホーデン氏です!!

歴史作家を登場人物で書いちゃうのなんか興奮する。

R・S先生を登場人物にしちゃうのと一緒じゃないですか。やばい緊張する。


年代記作者:ロジャー・ホーデン

著作物

『Gesta Henrici Ⅱ Benedicti abbatis』

↑これネットで調べると、違う人が書いてる感じなんですけどね。ロジャーらしいですよwikiも言ってます。ここまでwiki頼ってて疑うのもなんなんだけど、本当か?って調べてて、もうわからな過ぎで出どころ忘れちゃったけど、オックスフォードの人名辞書みたいなのに行き着いて書いてあった気がします。コピーは取ったのに本の名前の記録忘れちゃいました。図書館に行けば場所はわかるけど説明はできません。まぁ、でも書物だからって本当かどうかは知りませんけど。誰も実際みてないですからねぇ。

裏技じゃないけどネットでは上記題名のあとに『howden』 てつけると何故か詳細が出てきます。最初から出てほしい。

『 Chronica』

732年から1201年までのイングランドの歴史を記録




ちょっと登場人物増えてきて名前忘れて困ってます。

今何人いるんだろう。目指せ660名。

あと、懐かしい人物出てきました。

第一幕の旅立ちの村リベラックの神父様ピエールと、今回名前も人も出てないけど、ぼんやり思い出します? ボルドーまでの旅で一緒だった無口なトマ。

数少ないオリジナルキャラですねぇ。懐かしい。


あとがき修正(2025.11.07.)

本文一部分削除(2025.11.16)

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