二ー53 会議
リシャールを連れて本部テントを訪れると、たくさんの男爵たちが至るところで輪を作り談笑している。
いつもの流れだと、王子達が集まり、次いで王が呼ばれるという手筈だが、今日はリシャールが顔を出した時点で、会議が始まった。
空の王座の横に控えているポールが無表情に話し始める。
「まず。この場に二人の王子がいないことについて説明する。簡潔に申し上げると、アンリ様は離反された。そして今、リモージュに立てこもる叛徒共が運用していた傭兵。その傭兵たちへの資金集めのために、リモージュを出て、今はグランモンへと南下中との事だ。三男のブルターニュ公ジョフロア様、こちらも1ヶ月前、和平の使いとしてリモージュに派遣されたが、そのまま叛徒へと寝返った。それと時期を同じくして、ブルターニュにて挙兵との報告があった。しかしこちらは、次男アクテヌ公リシャール様が即座に鎮圧された。ジョフロア様はリモージュ城にて籠城中の叛徒エマール子爵と一緒におられる。目下の戦状は叛徒どもの本拠地であるリモージュ城への橋を壊し、物資、兵卒補充を共に絶ったという状況だ。」
これには男爵達はすでに周知の事実ということらしく、特に驚いたという声も上がらず、静かに皆話を聞いている。それを確認すると、ポールは話を続ける。
「アクテヌ公国リムーザン地方にて反乱が起きたのが、2年前の夏。そして昨年夏2度目の叛徒どもとの戦いにピュルテジュネ王、アンリ様、ジョフロア様にご助力いただいたのだが、その後あたりから、王にリムーザンの男爵共への恩情を願い出たり、突如エルサレムに出立するなどと言い始めるなど、アンリ様の様子がおかしくなったとの事。もちろん側近であるウィリアム殿の事もあるだろうが、アンリ様に裏切りをそそのかした者がいる。リムーザン地方オートフォールのベルトラン・ド・ボルン。身柄は今我々のもとにて拘束中であるが、これの言によるとアンリ様が引き連れている傭兵団、元々はカペー家が派遣したとの事だ。三男のジョフロア様の挙動からも見えるが、どうやら計画的にアンリ様を反乱側へと誘い込む動きがあったと見ている。」
流石にこれには男爵達も耳に入れていなかった様子で、ざわついた。
「では、これより本戦での・・・」
ポールがそう話を切り出すタイミングで、ピュルテジュネ王が現れた。
「話は済んだか。本戦での布陣の前に話がある。」
王はドカッと椅子に座ると腕を乗せた肘掛けに顔を寄せ、深く刻まれたシワを広げる様にしながら、ため息をついた。
「フィリップが挙兵したとの知らせが届いた。あやつめ恩を仇で返すとはこの事。母方シャンパーニュとの戦を手伝ってやったというに・・・。そしてこれに、ブルゴーニュ公ユーグ、トゥールーズ伯レイモンドが続いたという。しかし、我々にはアラゴン王アルフォンスがいる。それにリシャールが外回りを駆逐する。貴殿らを含む本軍は敵の本陣であるリモージュの城塞を包囲してくれ。後はポール。 任せた。 」
頷くポールの横を王が横切り、テントの外へと出ていく。
「俺もさっそく害獣の駆逐にでも行くとするか。では皆の包囲戦、善戦を祈る。」
王の隣の席に座っていたリシャールは大股で歩くと、男爵達に片手を上げながらテントを出た。
テントから出ると、外ではリシャールが待っていた。
「お前は、俺とくるだろ? 」
なんだか寂しそうな顔のリシャールの胸を拳でトンと打つ。
「当たり前だろ。ずっとそばにいるって言ったじゃん。」
「そうか。そうだな。・・・そういや、ウィリアムのところのアイツは? 何処行った? 」
「あれ? そういえば、ポールと一緒にアンリ様の件を王に報告に行ったはずだったけど、さっき王がいらしたときは見なかったよね。」
「ふむ。アンリの事をウィリアムに知らせに行ったか。」
アンリとウィリアムとで、ボルドーにやってきて、クリスマスを共に過ごしたときの事がふと、頭によぎる。
あのときはルーもいて、トーナメントにおれは出れなくって。
少し怖かったけど、やっぱり残念で。
そんなおれをアンリもウィリアムも慰めてくれて。
何も知らなかったあの頃は、この家族の歪さを知らなかったあの頃は。
仲良し兄弟を羨ましく思った。
そして、主従関係としてアンリはウィリアムを信頼していたし、ウィリアムもアンリの支えになるべく振る舞う彼の真摯な姿を思い出すと、今の状況が残念でならない。
ウィリアムとマグリットの噂なんてなかったら、今のような状況は生まれていないかもしれない。
ウィリアムならきっと、アンリの裏切り行為など、止めてくれたはずだ。そんな状況すら、生まれなかったはずだ。
そう考えた時。
ドキリ。
と心臓の音が鳴った。
それは、いつから?
いつに戻れば、良かったのか?
分岐点は、いったい何処にあったの?
リシャールの話によれば、闇夜を怖がる兄弟を助けてくれる優しい兄。
妹のジョーンの嫁入りに二人の兄弟で見送りをするほど仲が良かったはずなのに。
ドキンドキンと鳴る心臓とは裏腹に、頭はどんどんと考える事を停止してゆく。
「・・・その件なんだけど。テントに帰ったら話があるんだ。」
一人で考えるのはやめた。暴走せずに、みんなに聞いたほうが良い。
「そうか。俺もだ。 」
リシャールが神妙な顔で言うので、なんだかソワソワとした気持ちでとりとめのない話をしながらテントに戻る。
テントに戻ると早速リシャールは鎧を脱ぎ捨てて身軽な格好になると、おれの鎧も解き始める。
「え? もう出るんじゃないの? 」
「言われてすぐに旅立つかよ。もう少し休ませろっての。お前も何ぼさっとしてんだよ。ほら腕上げろ。」
「いやいや、ちょっと。おれはまだくつろげないよ。リシャールは休んでろよ。おれはもう少し仕事があるんだ。 」
「出立の準備だろ? そりゃ、ポール達がやってくれるさ。夜寝て、明日の朝出立だな。そうなるとヤるなら今しかないだろうがよ。お前の話はちゃんと聞くから。オレの用事が先な? 」
「ちょ、ちょっと待て!ヤんのかよ? 今からぁ? それにリシャール、ヤッた後すぐ寝ちゃうじゃん。それに、明日の朝に出立なんて予定ポール言ってなかったじゃん! 」
「寝ない寝ない。ちゃんとお前の話も聞くし。それに予定ならポールから聞いてる。」
「嘘つくなよ! ポールと話する時間なんてなかったじゃないか。おれずっと一緒だったから知ってるもん。おれそんな予定聞いてないし。」
「馬鹿だなお前。俺とポールの付き合い舐めんなよ。俺達は話さずとも分かるんだ。ちゃーんと目で合図した。」
なるほど。確かに思い返してみると、ポールが何やら呆れた顔で深い溜息を付き、首を振っていた様子があった。
「・・・あれがもし、そうだとして。・・・だとしたら、あれは駄目の合図じゃないのか? 」
「いやいや。あれは『はぁ。仕方がねぇなぁ。わかったよ、全く。程々にね。』って合図だ。」
「えぇぇぇ。ポジティブすぎぃ。絶対違うだろ!」
「まぁまぁ。ジャンくんそう言うなって。そもそもお前があんな雰囲気で起こしにくるから、俺ムラムラして我慢できなくなったんだぜ? 」
「おれのせいかよ! まぁ、そのへんはごめんというか。なんというか。・・・申し訳ない。」
着ていたものをすべて剥ぎ取り触れ合うリシャールの肌は、筋肉質でハリがあり暖かく、気持ちがいい。
どんな場所でも、どんな状況でも、自分の気持を素直に出すリシャールの生き方が、好きだし、ある意味憧れる。
頭でっかちになりがちな考え事から離れて、赴くままに欲望に動くのも、たまには良いのかなと思う。
この激動の時代を生きる彼のこの燃え上がるような情熱が、周りを照らす光となるのだから。
あれれ、なんだか久々にそういう雰囲気になってしまいました。
ところで、テントを調べたのですが、この時代のはどんな感じなのでしょうね。映画なんかで見る白い大きなテントを想像したけれども、生活する上で必要な火はやはり中では厳禁だったと、AIは申しておりまして。そりゃそうよねって、思いました。ゲルのように中央に暖炉と煙突があれば出来そうだけど、あれ、なんで出来てるんですかね、トタンみたいな素材?鉄なの?ちょっと時間なくて調べてないけれども、そんな物はなさそうですよね。まだ。だから、料理は外でその火が飛び散らない間隔に周りにいくつかテントを張るって感じらしいです。さむーーい季節にお布団?(皮とか、布)だけで寝る。まぁ、西洋の方って寒さに強いらしいし。きっと耐えれる体なんだろうな。私ならば即、凍えてくたばりそうです。やっぱり魚とか、簡単に取れる食材があると強靭な肉体にはならないのかもしれないなぁなどと、大陸出身の人と島出身の人の違いを想像したりしますね。でも、ハカとかやってるマオリの人なんか、強そうですよね。で、調べたら、ポリネシア系だけど、モンゴロイドに分類されず、オーストラロイドとの混合人種とあり、ポリネシア人は体重に対する筋量と骨量の比率が他のあらゆる人種を大きく上回るらしい。ゆえに『地球最強の民』と称されることがあるらしいです。別に魚関係なく、やはり人種概念(コーカソイド、ネグロイド、モンゴロイド、オーストラロイド)の問題なのかぁと、
そんな感じで、テントで野外活動は私は苦手です。虫も苦手だし。
仕切る人がいたら、バーベキューは楽しいデス。(皿持って待ってたら食べ物入れてもらえるのでw)
※誤字修正(2025.10.09.)