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二−52 反乱 リムーザン 4

 ベルトランを縛り上げ、小屋から出すと、その隣にある小さなテントへと入る。

 よく自白を促すために使用されるのだが、ベルトランが拷問せずともペラペラとしゃべるので今回はあまり使われていない場所となっている。

縛られ窮屈そうな顔のベルトランを床に座らせると促さずとも話始めた。


「そう。長いコートのでかいそいつが、オオヤマネコのロバールだ。ヤツに誰が雇い主か聞いたが、カペーのフィリップ様の側近の名前を出していたな。・・・だが、アンリ様とは面識があるみたいだったぞ。アンリ様は適当にあしらってたけど、なんかトーナメントで何度も出会ってるだの何だの言い連ねて、終いにゃ、『裏切り者のウィリアムよりも自分のほうがあなたには似合う』とかなんとか言い出して、ベタベタ言い寄ってたな。ふん。最強で最悪のブラバンソン軍だなんだか知らねぇけど、泥棒傭兵の分際でかい顔しやがって。何がリーダーだ。シュッとしたイケメンでムカつくんだよ。」

「そういうベルトランも兄貴から城掠め取ったコソ泥だろ。しかも顔じゃ何歩も及ばねぇ。」

「うるせえ。ポール。だからムカつくって言ったんだろうが。お前だって言うほどじゃねぇだろ。それとお前、兄貴兄貴って、何度も言うなよ。別にオレだけが特別悪いわけじゃないだろ。みんなやってきたことだ。この世は弱肉強食だ。そうやって生きていかなきゃやってけねぇだろ。」

「・・・え、なに、二人は知り合いなの?」


 ポールとベルトランが、まるで『旧知の仲』とでもいう様子で喧嘩を始めるので、話の内容が入ってこない。

 そういえばポールの家はエレノア様との関わりあいが深いと聞いている。となると、エレノアの縁者が多いこのリムーザンで、ポールとベルトランが共に過ごしたことがあると言っても不思議ではない。


「こんなおっさん知らねぇよ。」

「8歳しか違わねぇだろ。散々遊んでやったのに恩を仇で返しやがって。」

「っち。知らねぇって言ってんだろ。裏切り者は黙れよ。」

「はっはっは。ポール殿がいてくれると話がはずむなぁ。」


 言い合う二人を前に、ボードワンの呑気な声が響く。

 その穏やかな声に、ウィリアムの顔が浮かび、次いで端正な美しい顔が浮かぶ。

そうだ。アンリだ。


「そうだ。アンリ様の身が、危険なんじゃないかって、気になったんだけど。えっと、ブラバンソンの傭兵部隊は、カペー家が資金源だったってことだったよね? で、今の戦況的にはリモージュを孤立させて籠城状態。アンリ様がそこからブラバンソンを連れてが出た。・・・それってさ、ブラバンソン軍のやつらは、リモージュに固執する必要ないから、アンリ様が人質に取られてるって事なんじゃ? 」


 手がじっとりと汗をかいている。

あの冷たい瞳の男が熱心にアンリに言い寄る姿を想像すると、さらにゾクリと寒気がした。


「ああ。オレもそう思う。傭兵って奴らは、依頼は守るが、それは契約の範囲内での話だ。籠城状態はおそらく契約外だ。オレも傭兵と一緒に籠城なんてしたくねぇ。ジョフロア様はすでにカペー側にいると判断して、リモージュ伯エマールも領地を荒らされたくはない。それで、アンリ様を放出した・・・最悪のシナリオだな。まだ、アンリ様が雇用主だったほうがマシだったよ・・・」

「・・・そんなに最悪なの? 」

「だな。ブラバンソンの奴らは国を持たない、教会にも属していない。ある意味自由だ。それだけに、自分たちの欲望にも忠実だ。オレ達が捕虜や人質の処遇が非道だと訴えようが、奴らには知ったこっちゃない。誰も裁けない。手足を切り落とそうが、命があれば捕虜だと言うだろうよ。値は落ちるだろうが、請求できればそれでいいんだ。」

「・・・そんな! ひどいじゃん! 」

「だから、最強で最悪って言われるんだよ。」


 ポールがため息をついた。


「とりあえず、オレは王に知らせに行く。ボードワン殿? 」


 ポールに声をかけられたボードワンは蒼白な顔で何処ともなく一点を見つめていた。

それはそうだろう。大騎士ウィリアムと共に、彼はアンリと長い時間を過ごしていたのだろうから。


「ああ。済まない。私も王がどのような判断をされるか聞いておきたい。共に言っても良いだろうか? 」

「ええ。共に来てください。ジャンはリシャールに伝えてくれ。」

「・・・うん。」

「あ。忘れてた。ベルトランも戻しといて。」

「忘れんなよ! このクソガキめ。 」


 ブツブツと文句を言うベルトランを捕虜小屋に連れてゆくと、リシャールのテントへと急いだ。



 テントに戻ると、随分と疲労が溜まっていたのだろう、ベットで泥のように眠ってる彼の横に腰掛ける。


 少し痩せた? やつれた?

ボサボサと少し伸びた前髪をつまんで、凛々しい顔を覗く。

おでこにキスをするも、深く眠っていて、ピクリとも動かないその様子が愛おしい。

 大嫌いだと公言している父親と協力しながら戦うというのは随分と気力を使うのだろう。こうして眠りこけている姿は珍しく、できればずっと覗いていたい所だが、そうもいかなかった。


 しっかりと閉じた両方のまぶたに軽くキスをして、頬を寄せるようにして耳元で名前を呼ぶ。


「リシャール。ちょっと良いかな? 」

「ん? ・・・ジャンか・・・なんだ、お前こんなに着込んで・・・」

「ちょ、違う違う! 脱がすなよ! ちょ、リシャール、やめろって! 」


モソモソと鎧を掻い潜り服の中に侵入してくる手を押さえる。


「おい。なんで鎧なんか・・・。んぁ? 」


自分のセリフになにか思い出したかの様に重そうなまぶたを開くリシャール。


「そうだよ! 野営地だし、もうすぐ会議だよ! 起きてよ! 」

「あぁぁ? ヤダ。」


 続けてモソモソと動く手を静止しながら自分に反省する。

もう少し違う起こし方をすればよかったと。

 しかし今から話すことの内容から、あまり雑にリシャールを扱うことなど出来なかった。

数年前から関係が悪くなっているとはいえ、幼ころの話など聞くと、今の状況は心苦しい。


「アンリ様が・・・」


 その言葉に、リシャールの手が止まる。


「・・・アンリがどうした?」


 いつの間にか目が冷めたのだろうか、少し緊張感を伴った低い声が耳元でつぶやく。


「ブラバンソンを連れてリモージュを出たって。」

「・・・へぇ。それで、ポールは?」

「ピュルテジュネ王に報告に行った。」

「わかった。じゃ、俺も行かなきゃいけないんだな。何だよ。もう少しこうしていたかったのになぁ。しょうがねぇかぁ。」

「・・・全然しょうがなさそうじゃないんだけど・・・。」


 リシャールの手は相変わらずモソモソと動き続けている。


「・・・わかりましたよ。はいはい。行けば良いんでしょ。」


 想像と違う穏やかな雰囲気のリシャールは、おれの体をぎゅっと抱きしめた。

どうして、こうなったんだろう。

仲の良い兄弟の様に見えていたし、実際そうだったのだと思う。


 心がぎゅっとして、おれもリシャールの体を強く抱きしめる。


 ピュルテジュネ王の元、ギリギリの均衡を保ちながら激しく動いていた複数の歯車の一つが、カラカラと音を立てて動きを乱していく。

その歯車が乱れることによって、何が起きるのだろう。

 直せたら良いな。うまく、はめ直せたら良い。

そう思いながら、リシャールの体をさらに強く抱きしめた。





反乱リムーザンの章、

全然なんかまとまってない気がしています。

どうしよう。今後修正とかしたらすいません。もっとまとめて投稿しろ?ごもっともです。すいません。


ここ数話のブラバンソン。

今回のリーダー、オオヤマネコのロバールの話題ですが、実はwiki「Brabançonsブラバンソン」では狼のロバールとなっています 注釈】https://en.wikipedia.org/wiki/Braban%C3%A7ons

今回

オック語オオヤマネコ=lop cervièrを意味すると解釈し

lop=狼でcervièr=シカで結論付けまして、黒狼ルーのこともあって彼の異名はオオヤマネコになりました。

しかし

狼みたいでシカ?

オオヤマネコらしいケド?

で、鹿を食う狼みたいな動物でオオヤマネコなのかなーって勝手に思いました。

ヨーロッパのオオヤマネコカッコいいです。天敵は狼、ピューマやクズリ(クロアナグマ)等らしいです。


2025.09.29.あとがき追加

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