表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

4/6

二ー51 反乱 リムーザン 3

 老男爵の長い話を聞き流しながら本部テントまで送り届けた後、今度は男爵たちが全員集まったとピュルテジュネ王の従者と共に、リシャールに知らせるために再びテントを出た。

 捕虜小屋付近に差し掛かったあたりでリュートの音色と、歌声が聞こえた。


 果樹園に黄色や紫や青の旗が広げられているのを見ていると

 馬の声が心を落ち着かせ

 吟遊詩人がテントからテントへと

 リュートを弾きながら奏でるメロディーや

 トランペット*¹やホルン*²やグライル*³の音が澄み渡ります

 そうすると

 リシャール伯爵に聞かせるためにシルベヴァンデスを作曲したくなります ♪*⁴


 共に歩いていたピュルテジュネ王の従者は、大騎士ウィリアムの追従であった男らしく、ウィリアムと共にここ数年多くのトーナメントに参加していたとあり知り合いが多い。

 彼はこの声が誰であるかが分かると言った感じで感嘆の声をあげる。


「さすが、ベルトラン殿だ。彼のシルヴァンデスは本当に素晴らしい。ジャン殿は聞いたかい?」

「・・・ええ。戦地で。・・・ボードワン殿は彼と面識があるんですか? 」

「ああ。ウィリアム様と共に色々回った先で会った事があるよ。たしかあれはカペー家のフィリップ殿の開催されたトーナメントだったかな。彼の、ベルトラン殿の音楽は、メレー*⁵で体験したが、なんだか士気があがるというか。奮い立つような勢いが体から湧き上がる感じだったな。」


 ボードワンの話を聞きながら、やはりベルトランの事が気に入らないな、と思う。

ベルトランの才能が羨ましいのか、リシャールに詩を唄っている様子が気に入らないのか。

きっとどちらもだろう。

 この前までアンリの事をうたっていたくせに、とそんな変わり身の早さもあると思う。


「少し様子を見てこないか? 」

「え、でも、王と、リシャール王子を呼ばなくても? 」

「大丈夫さ。男爵殿達は王たちがいないほうが話やすいだろうし、なにかあるなら、先に話をまとめたほうがいいだろう。ピュルテジュネ王はせっかちな方だ。必要最低限の事を話したら、後はサッサと退席されてしまうからな。話をまとめてくれていると、こちらも助かるし、そうでなくても会議が早く始まろうが、どのみち彼らは終わってからズルズルとその場に残って無駄な話をする。それが会議前か、会議後かの違いくらいだろ? その程度くらいで構わないさ。」

「・・・はぁ。」


 別に男爵達の事はどうでも良く、自分的にはベルトランとは、なんとなく話したくない。

そんなこちらの感情など全く気にしない様子でボードワンはうたの聞こえている小屋へと歩いていく。

 こういうところで、「俺はいかねぇ。」と、リシャールのように言えたら良いのだが、別に自分の上司でもないただの年上のボードワンの言う事を聞く義理もないのに、断れない自分にため息を付きながら彼の後に続く。


 捕虜小屋の中には、何人もの兵士が囚われられている。彼らは身代金請求のために比較的待遇よく扱われており、楽器を持っているものも数人はいたが、この場で楽器を奏でる図太い神経の人間はベルトランくらいだった。

 彼はこちらの様子に気づかないふりをしているように、演奏を続けている。

伸びのある声でうたうその歌詞は、よく聞く愛ののフレーズを巧みに取り入れ戦争をうたう。

 愛と戦争という相反するが、この世界での日常である、その事実をうたう。


 自分には絶対に出来ない。

だから余計に、耳をそばだてて聞いてしまう。

嫉妬してしまう。


 演奏を終えたベルトランがしたり顔で顔を上げると、ボードワンが手を叩いて賛美を述べた。


「さすがベルトラン殿。素晴らしいシルヴァンデスです。 私は大騎士ウィリアム様に使えておりまして、今は事情がありピュルテジュネ王に預かっていただいております、ボードワン・ド・べチューンです。以前トーナメントでお会いしたことがありますが、記憶にございますか? 」

「ああ。ボードワン殿か! もちろん覚えているとも。 」


 一介の騎士と、男爵であるベルトランでは例え捕虜であったとしても、上位らしく、わざとらしい話しぶりが鼻につく。

 本当に覚えているのか? というようなベルトランの顔つきだが、ボードワンはこの手の機微には疎いらしい。

なんだか愚直な感じが大騎士ウィリアムによく似ているな、と思い少し口角が上がる。


「こちらは、リシャール様付きのジャン殿です。」


 しなくてもいいのに、ボードワンがおれをベルトランに紹介する。


「っす。」

「ジャン殿! 噂には聞いるおるよ。リシャール様お抱えのトルバドール、ジャン殿とアルノー・ダニエル殿の噂は、このリモージュまで広がっているゆえなぁ。お二人は随分親しいときいているが真であるのか? 何につけ、このような形でお会いするのは心苦しい限りだ。」

「っす。」


 あまり話すことに乗り気ではなく、短い返事しかしないおれに気を使った様子のボードワンが笑い声を上げる。


「はっはっは。あなたも随分と派手にやっているではないですか。聞きましたよ。ブラバンソン軍を率いての戦の話を。バグパイプや太鼓などで随分と派手だったと聞き及んでおりますぞ。」

「ああ。あれか。いやはや、ブラバンソンの者達は荒々しく困ったよ。しかし、彼らの独自の音楽性にはなにか感じるところがあるというか、なかなか面白くって、ついついあの様に調子に乗ってしまい、この体たらくだ。」


 そう。あのブラバンソン軍の登場の畏怖。

あれは本当にすごかった。

そんなブラバンソン軍から少し離れた場所で捕縛されたベルトラン。

どうやら仲違いしたらしかったのだが、やはりあれを作り上げたのは、彼だったのか。

 認めざるを得ない才能と、人としての好き嫌いはまた別だ。

おれは、こいつ嫌いだ。


そんな事を感じていると、背後からポールの声がした。


「なんだ、ジャン。こんなところで油売って。やぁ、ボードワン殿。君もどうしたんだい? ・・・ああ。ベルトランとは親しい仲なのかな? 」

「ポール殿。」

「ポール。お前、男爵に向かって無礼であろう!」

「あ? 捕虜だろお前。しかもつい先日兄貴から地位をぶん取っただけのくせに偉そうにしてんなぁ。」


 良かった。ポールもベルトラン嫌いっぽい。


 ベルトランは反論しようにも言葉がでないらしく、顔を真赤にして口をパクパクしている。

ポールは気にせずにベルトランに話かけた。


「おい。お前。ウィリアム殿がいない隙にアンリ様をたぶらかし男爵共たちと担ぎ上げた経緯はわかったが、もう一つ。ブラバンソンの奴ら。アイツら、どっから来たんだ? アンリ様が連れてきたようには見えなかったが、さっき使いが来てアンリ様がブラバンソンの奴らを連れてリモージュの城を出たとか言う報告を受けたんだよ。ベルトラン、お前なんか知らねぇ? 」


 その話を聞いて、戦で見た、大ヤマネコのロバールの事を思い浮かべ、少しゾッとした。

 一瞬だったが垣間見た、彼の冷たい眼差し。それがアンリとはあまりにもかけ離れていて、彼らが一緒にいるという事実が意外だったから、ゾッとしたのだろうか。

 アンリのあの、何事にも流されがちな雰囲気と、ロバールの冷酷そうな存在が、何故か気になった。


「ブラバンソンのリーダーって、あの大きな男で、丈長の革のコートを羽織る人物だろ? あいつ、なんかヤバそうだったけど。」

「ああ。オレも1度見た。ここ数年で頭角を表してリーダーになり、随分と方々で名をはせているな。いい話は聴かないが。」


ベルトランがため息を付いて、コクリと頷くと、ポールの後に続いた。





お疲れ様です。

今回も不定期投稿デス。

いつかストック出来たらいいな。ってことで、今回もうあとがきが最長です。

別に読まなくてもいいのです。自分の疑問を解決したかったので、調べただけだったので。

なんだか、勢いで書いているので、わけわかんなかったらすいません。

なんかあったら教えてください。

あと、頻繁にデてくるシルヴァンデス=政治詩です。


 

トランペット 

 原文にはTrombasとありますが、PCで訳せなかったのですが、

こちらを詩の文献を乗せていらっしゃったサラ・ケイ氏はトランペットと訳されてましたので、そのまま表記しました。しかし、トランペットという言葉は、この時代には存在しておらず、

一般的に言う軍用トランペット(Tromba)だと【wiki】https://w.wiki/FMpe (この件wiki:jpが最高記事でした。嬉)記載があり、wikiの記載だと、第三次十時軍の時にシチリアからリチャード1世に献上とあるが、十字軍出立後シチリアへの上陸が1190年なので、1180年だと少し早いがジョーンがシチリアに嫁入りしているの件もあって、すでにリチャードがこの楽器を手にしていると考えることも出来る。

しかし、楽器の形の全容がわからず調べた所、『トランペットと似た構造を持つ「コルネット」も楽器の種類の一つで、文脈によっては「トランペット」の代わりに使われることがあります。』とかって、AIが教えてくれたりしまして。しかし「コルネット」は「コルネ」と想定し(イタリア語で角笛もしくはホルンを意味するcornoに縮小語尾の -ettoを付加したものが語源)

ラテン語に直すと「Cornu=角」となり、【wiki】 https://w.wiki/FMpQ 

という楽器にたどり着きます。


ホルン

 原文はcornという楽器のようですが、こちらラテン語だと、「Cornu=角」となり、上記のトランペットの「コルネ」といっしょになってしましました。


結局、軍用としての合図の楽器として、「Cornu」のwikiの使用方にある、『軍事作家ウェゲティウス』解説によると


 トランペットは突撃と退却を告げる。

コルネット(コルネ)は軍旗の動きを統制するためだけに用いられる。トランペットは兵士たちに軍旗なしで何らかの作業に赴くよう命令するときに用いられるが、戦闘時にはトランペットとコルネット(コルネ)は同時に鳴る。

 ブッチーナまたはホルンの特別な音であるクラシクムは総司令官に与えられ、将軍の面前や兵士の処刑の際に、その権威によって行われたことを示すのに用いられる。

通常の衛兵や前哨部隊は、常にトランペットの音によって発砲したり交代したりされ、また作業班や野外活動の際の兵士たちの動きを指示する。コルネットは、軍旗を撤収したり掲揚したりするときに必ず鳴らされる。これらの規則は、あらゆる訓練や閲兵において厳守されなければならない。そうすれば、兵士たちは突撃せよ、停止せよ、敵を追撃せよ、退却せよといった将軍の命令に、躊躇することなく従う準備が整う。戦闘の最中に実行すべきことは、平穏な時にも常に実践されるべきであることは、理性的に理解できるからである。


とありました。

で、ローマの軍のルールだからどのへんまで残ってるかはわかんないですよね。

因みになんと、17世紀あたりまで、trompeトランペットとcors (ホルン)の間に明確な区別はありませんでした。とありましたよ。絶望。

とりあえず。私の見解としては、以下の様な解釈となりました。

(それにしてもロマンス前編でジョーンとナバラ会ってるの神すぎん? ジョーンはお忍びでもシチリアの使者と会ってTromba献上されてる流れでいけますもんね! モ、モチロン、想定内。想定シテマシタトモ!)


*¹トランペット=直線型(真鍮製)(Buisine https://w.wiki/FMsR)


*²ホルン=螺旋形に曲がった(青銅製と思われる厚さ0.5ミリの金属板を使って螺旋形に曲げた)(コルネ https://w.wiki/FMpQ)


*³グライル オーボエに似た木管楽器(https://w.wiki/FMoB)


*⁴ベルトラン・ド・ボルン 詩

参考

ゲール歌謡: ベルトラン・ド・ボルンの声

サラ・ケイ氏

https://doi.org/10.4000/transposition.3785

(2025.08.27.15:57 閲覧)


*⁵メレー  トーナメントでの競技の種目で、集団接近戦、乱闘戦のこと。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ