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二ー62 回想「ロカマドゥール 2」

注)血生臭いシーンあります。

 その日はすぐにやってきた。


 月のない深い夜。

 突如として街を取り囲むように築かれていた市壁の門の一部か撃破され、火の手が上がり、賊が流れ込んでくる。

賊は雄叫びをあげながら、武器を振り回してなだれ込んで来た。

 途端、先頭を走る体格の良い太った男の身体が動きを止める。

後方からそんな男など気にもしない様子で、男の仲間達は彼にぶつかりながら走っていくなか、男は不思議そうに腹に視線を落とす。

 動きを止めた男の大きく膨らんだ腹には矢が突き刺さっていた。

 男はニヤリと笑いながらその矢をボキリと折ると、今度はさも楽しげな表情で奇声をあげながら手近にある民家の扉へ武器を打ち下ろす。

バスバスと、背中に矢が立て続けに射られ突き刺さるが、男の動きは止まらない。

 男の押し入った民家からは甲高い叫び声が聞こえる。

 ウィリアムは市壁の影から飛び出すと、目の前の賊の首を片手で捻り折り、もう片方の剣で二人ほどまとめて串刺しにし、身体を蹴りつけ剣を引き抜きながらも風船が弾けるように飛び散る返り血を器用に避けながら、更に賊を蹴散らし、今だ叫び声の上がる民家へと飛び込んだ。

 家の中の床では、服を裂かれた若い娘の上に太った男の身体が覆いかぶさっている。

 ウィリアムは歩幅を大きめに踏み込んで、鎖と革で覆われた硬い右脚を、その巨体の腹めがけて打ち込む。

男の身体はまるでボールの様に跳ねると、背中の矢が身体の深くに突き刺さり、口から血を吐きあげながらゴロゴロと壁まで転がった。

 中年の女の振り上げたフライパンが、男の頭を数回殴打するのを確認すると、ウィリアムは再び市街へと飛び出し、援護に来たポードワン達と合流した。


 市壁沿いの内側には木でできた弓台が築かれており、松明を掲げながら、街の中心へと通じる道を走る賊を狙うのは容易いはずだった。

しかし、素人の放つ矢は皮で覆われた鎧を貫く威力はなく、的に当たる確率も低い散々たるものだ。

 当初の計画では、弓兵は手練れ数名で進めるはずだったが、教会を守備する兵力が下がるだなんだと司教にゴネられ、素人弓兵を使わざるを得なかった。

 しかし、戦がはじまってみると、それで良かったようだ。

 計画通りにわざと脆く修理中にさせた市壁の門に、ブラバンソン達はなだれ込んできた。


ブラバンソン達は手慣れた傭兵集団だ。簡単な戦いではない。市街戦も城攻めもお手のものはずだ。


 そんなウィリアムの予想に反して実際は、先程民家を襲っていた男の様子にも現れているようにただの盗賊集団で、私利私欲にかられた襲撃は、統率などひとつも取れていない。

 反して白フード達は士気が高く、従順な民が多い。

個々の力は弱くとも集団での力で、ブラバンソンたちを少しずつ敗走させていく。


「おい。お前達ブラバンソンだろ? リーダーのロバールはどこだ! アンリ様はどこだ! 」


 少しの戦利品を手に、あきらめた様子でバラバラと撤退を始めた賊の内の数名を捕らえ問い詰めた。

明らかにロバールの、リーダーの気配がないからだ。


「ブラバンソン? はん。そんなのロバールのせいでもう解散したよ! アンリだって、もうおっ死んでんじゃねぇか? 残念だったなぁ! 見つけたとしても手遅れだろうよ! 」


 唾を撒き散らしながら声を張り上げるその顔に、拳がメリリッと打ち込まれ、勢いで後ろに吹っ飛んだ頭の後から歯が空中へと数本飛び散った。


「アンリ様は、どこだ。」


うめき声を上げる男の髪を掴んで起き上がらせると、ウィリアムは静かに、一言ずつ大切に発音する様に、再び問い詰める。


「ま、まふてぅぃ(マルテルに)・・・」

「マルテル? ウィリアム様。 マルテルです! 急ぎましょう! 隣街です! 」


 ウィリアムは数名の従者を従え、ロカマドゥールから急ぎマルテルへと急いだ。

 白み始めた空が馬の脚を早めてくれているはずだが、ウィリアムの競った気持ちは鼓動を早め、手綱を握る手は必要以上に汗ばみ、革の手袋を濡らした。


 小さな美しい少年が、癖のある柔らかな金髪をかき上げ、母親である王妃エレノアに妖艶にお辞儀をする姿が脳裏に浮かぶ。


 こんな時に、思い出など。


 ギリリと奥歯を噛み締めながら、ウィリアムはなお一層手綱を握りしめる。

 けれどもそんな思いとは裏腹に、キラキラとした笑顔を浮かべたまだ声変わりしていない、可愛らしいアンリの声が聞こえる。


「君がウィリアムか。父上から聞いている。ノルマンディーの戦では目を見張る武勇だったが、戦利品はからっきしらしいな。」


 悪戯な笑みで、そう言うと、身長が伸び始めなのだろう背丈の割にはアンバランスな大きな手がそっと腕に触れてきて、小さな顔が近づいて囁いた。

 

「オレは戦利品などよりも武勇に長けている方が良いのではないか、と言ったのだが、叱られてしまったよ。」


 難しいな。と、首を捻りながらクスクスと笑うその姿はなんとも愛おしく思えた。


 いつか、この方のお近くに。・・・いや、それは叶えられないだろう。

10才以上年が離れており、自分は遅咲きの騎士。

王家の王子の側になど、おこがましい事だと、諦めていたが、幸いにもエレノアの目に止まり、宮廷の一員に入れてもらえたのだ。

 数年後、久々に会ったアンリは美しさをそのままに、たくましく成長し、立派な王として目の前に立っていた。

 それからもう13年ほど共に過ごして来た。

 穏やかで優しく、優柔不断だと言われることも多かったが、それは立場によるものであって、彼自身は竹を割った様な爽やかな青年だった。

 男好きで派手なその性癖には苦言を呈する事が多く、「お前も入れば良い。」と微笑とともに軽く一蹴されるだけだったが、それ以外は素直に聞き入れ、数々のトーナメントで武官として彼と共に過ごす時間は限りなく有意義なものだった。


 それなのにここにきて、あの恐ろしいアデル姫、あの悪女の手引によって引き裂かれ・・・。

 あのトーナメントに参加などしなければよかった。

 あの日、マグリット様にお声がけされても、話さなければよかった。

 あの時、マグリット様の手を取って挨拶などしなければよかった。


 ウィリアムの頭は、アンリにしばしの別れを告げに言ったあの日から、ずっとそんな考えに支配されている。

 

 昇る太陽の暖かい日差しが大地に降り注ぎ始めているのに、ウィリアムの心は、どんなに衣服を掻き抱いても防ぎきれない隙間風が、冷え冷えと内蔵を冷やすかのように吹き荒れ、少しも温まる事はなかった。


 小さな町にたどり着いた頃にはもう太陽も上がり、明るい日差しが市壁の門を照らしていた。

 その門を無理やり開けさせると門兵に少しばかりの貨幣を手渡し、旅人の有無を尋ねる。


「あぁ。数日前だな。身なりを見ても、どうもきな臭いと思っていたところだが罪人だったのか? しかし、病持ちだぞ。一応、神父様が手当をしてくださっているが・・・。」

「そうか。恩に着る。」

「おい、あんた! 連れて行くなら、あの目つきの悪い男も一緒に連れて行ってくれよ。薄気味悪いったらありゃしねぇ。悪霊みたいな顔しやがって。」

「・・・わかった。」


 早朝の訪問は町の住人たちを驚かせたようで、小さな小窓が開く音、ドタドタと大きな足音が家々から聞こえた。

 しかし、数日前の怪しげな旅人の訪問が警戒心を上げているらしく、家から出てくる者は居なかった。


 目指す鐘楼が近づいたあたりで、小さな教会の影から人影が走り出てくる。

大きな体格に細めの茶色の革のコートの後ろ姿。


 特徴的な身体は見間違えるはずない。

 オオヤマネコのロバールだ。




 








 市街戦となりました。

弓って難しいらしいです。

何年も練習しないと無理ってどっかで読みました。

だから鉄砲って画期的だったらしいです。

当たらなにゃ意味ないのは一緒だけど、習得期間が劇的に少ない。

そう考えると、楽を求めると殺傷能力が増すって、なんか・・・。

爆弾とかさ。

製造には時間かかるけど・・・。とか、考え始めるとやばいヤツなので、止めました。

争いはない方がいいんだけどなぁ。無くなりませんね。


マルテル サン・モール教会

https://w.wiki/HYg4


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