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二ー61 回想「ロカマドゥール 1」

 バタバタと大粒の雨が降り出した。

大地は瞬く間に黒雨に煙り、外で活動していた者たちは作業を中断して屋内へと入っていく。


 城門あたりから雨に打たれながら城内へと入ったポードワンの白いローブは、泥と煤と血痕で汚れ、切り裂かれ破れボロボロだ。

胸に刺繍された紫色の花が印象的なフード付きの白いローブは、出立時には薄汚れているくらいだったが今はその刺繍すら泥で汚れ、見る影もない。

 それは、たった12日間のクレルヴォーとロカマドゥールへの往復の道のりがいかに過酷だったかを物語ってはいるが、王の間へと歩くポードワンの足取りはしっかりとしていて、今だ戦地にいるかの様相だった。


 王の間ではピュルテジュネ王が椅子に座り、その横にリシャールが立ち、その他家臣たちも広間に集まっていた。

みな、アンリのことを案じていたのだ。

 ポードワンは王を睨みつけるような眼光でまっすぐ王の前へと進み出ると、表情を歪ませ、足から崩れ落ちるようにして辛うじて跪礼の体をとると、顔を上げる事なく、震えるが、しかしはっきりと聞き取れる声で報告した。


「も、申し上げます! アンリ様、マルテルにて、薨去こうきょ! 」


 広間はしんと静まりかえり、雨が城壁や木の扉を打ち付ける音がやけに響いて聞こえた。

ポードワンが息を大きく吸う音が聞こえる。


「マルテルから、葬列を首都ルーアンに向かって進ませています。おそらくはルーアンへの到着は半月後かと。」

「・・・わかった。・・・日没後、指示を出す。ポードワン。ご苦労だった。しばし休め。」


 雨音にかき消されるかのような、か細い声と共に、王は席を立ち上がり、随従が近づこうとするのを右手で制止しながら広間から独り出て行く。

集まって居た人たちはそれを合図に、各自無言で広間から出ていった。

 その場に残ってたのは、俯いたまま肩を小刻みに揺らしているポードワンと、その姿を呆然と見つめるリシャール、そしておれ達だけだ。


「・・・ポードワン。アンリは・・・アンリの最期は、どんな様子だったんだ? 」


 リシャールの問を受け、ポードワンがいろんな水でクシャクシャになった顔を上げると、フワリと布を頭に載せたものがいる。

ポールだ。


「もう、オレ達だけだから。とりあえず、顔を拭け。」


ポードワンは布で顔を拭き清め、大きく深呼吸をすると、改めてリシャールの方に向かって跪礼をし直した。


「アンリ様の、最期をご報告します。」




ーーーーーー

 ロカマドゥールは、アルズー渓谷の切り立った絶壁にひっそりと佇む小さな巡礼地だ。

 近年、聖アマドゥールの遺骸いがいが腐敗せずに生前のままで発見された。

それからは王族から大衆までの信仰対象として多くの人々が巡礼地として訪れ、ピュルテジュネ王やその妻エレノアも訪れ、多額の寄進をしているらしい。

 本来ならその様な巡礼地を訪れる事は、気持ちが高ぶるはずだが、ポードワンは焦燥感にかられていた。

 数名の軍勢を与えたれたポードワンは、クレルヴォーから南下し、5日ほどかけてロカマドゥールに入った。


 街はまだブラバンソン達に荒らされた形跡はない。

幸いなことに彼は悪魔達より早くたどり着けたようだ。


 美しい造形の真新しい建物が立ち並び、綺麗に整備された門の警備は厳重だった。

 しかし、白フードの兵士達に警備された街には、すんなりと入ることが出来た。

ポードワンは数カ月前に白フードに入った新参者ではあったが、この組織の中で絶大な信頼を得ていたウィリアムの知人ということで厚遇されていたからだった。

 街の警備の兵士からウィリアムの居所を聞き出すと、早速ポードワンは彼の元へと急ぐ。

迷路の様な道を抜けいくつかの階段を登り、急ぎ足で向かったのは絶壁に張り付くように建てられた白く輝く、荘厳な礼拝堂。

 絶壁に作られているせいなのか、聖堂は地下に降りていく形でつくられている。

ステンドグラスが色鮮やかに堂内に光を注ぎ、白い石壁がそれらを反射させて室内は明るい。

 そして前方には黒く美しいマリア像が自愛の微笑みをたたえていた。

ポードワンはしばし現状を忘れてその状況に呆けた。


「ポードワンか!! お前、無事だったか!」


その声にポードワンはようやく我に帰った。

マリア像の下で祈りを捧げていた様子のウィリアムは、立ち上がると、大股でポードワンの下へと歩み寄る。


「コルビエではぐれてから案じていたが、良かった。元気そうだな。」


 ウィリアムは破顔しながらポードワンをがっしっと抱きしめると嬉しそうに背中を強めにバシバシと叩いた。


「も、申し訳ありませんでした。実は、ブラバンソンに捕縛されていました。」

「そうか。よく無事逃げ出せたな? 」


 ウィリアムは抱きしめていたポードワンの肩をガッチリと握ると、身体を少し離し、顔を覗き込む。


 ウィリアムという男は距離感が妙に近く、たまに困ることがある。

アンリもこの距離間には辟易すると、漏らしていたことがあるが、その表情は辟易するというよりも、むしろ嬉しそうだなと、ポードワンは感じていた。


 それを思い出した彼は自らの胸のあたりの布をぎゅっと握りしめた。

そこには紫のニオイスミレの花の刺繍が施されており、白フードのマークとして使われていたもので、アンリが好きだと言っていた花だ。


「アンリ様が危険です。すぐにでも、お助けしなければ! 」

「・・・どういうことだ?」


 二度目のその問いは、静かに発せられたものだったが、至近距離でのウィリアムの覇気に当てられ、ポードワンは全身から汗が吹き出るかの様な感覚に陥りながら、自分がコルビエ辿った経緯をウィリアムに簡潔に報告した。

 そして、最後に、唇を噛みしめるようにしながら、一言付け加えた。


「隊長ロバールはアンリ様を捕虜としてではなく、奴隷のように所有化しようとしているようです。私は、それが許せません。」


 腕を組んでポードワンの話しを聞いていたウィリアムは、話の途中から俯いてしまって、表情はわからない。

けれども、彼の下についてわずか4年と少しではあるが、戦歴を共にしてきたのだ。

彼の気持ちが自分の持っているものよりも更に強いものだろうと安易に想像できる。

 そのくらいアンリとウィリアムの絆は傍から見ていても強いものだった。


「ウィリアム様! オレはどうすればいいですか! 」


 ポードワンは自分の不甲斐なさに苛立っていた。

 自分が不甲斐ないがゆえに、この情報が手に入れられたとしても、その役割が自分であったことが悔しかったし、情けなかった。


「・・・お前は少し休め。お前が連れてきてくれた者達も、きちんと休めるように言っておく。そう何日もせずとも奴らはここにやってくるだろう。それまで戦える様にしておいてくれ。」


 ウィリアムは顔を見せることなく、ポードワンに背中を見せると、再びマリア像の方へと歩んでいく。


「そんな! 休めません! お願いです! オレ、何でもするんで! 偵察行きます! もしかしたら夜襲の準備とか見つかるかもしれません! じっとなんて・・・」


 ポードワンは懇願するために、ウィリアムの前へ回り込んで顔を覗き込んで、驚いて言葉を切ると、素早く謝った。


「す、すいません・・・。」


 自分の前に立つ、屈強で誰よりも強い鋼の様な強靭な男が、目を真っ赤にして、噛み締めた唇からは血が滲んでいたのだ。


「・・・今のオレ達は、素人集団の中にいる。数はいれども、戦いに慣れている者が少ない。そして、戦い方を選べない。限られた戦術の中で、今は動けないんだ・・・。今は・・・。堪えてくれ・・・。」


 絞り出すようなウィリアムの声に、ポードワンは思わず涙がこぼれた。


「・・・はい。すいませんでした。・・・あの。」

「なんだ。」

「オレも一緒に祈っていいですか・・・。」


 ポードワンが見上げたウィリアムの顔が、少しだけ緩む。


「・・・ああ。」







 


 





夏の季語であるらしい『村雨』とか、春にも降る『驟雨』を使いたかったのですが、ヨーロッパに降る雨に『村雨』『驟雨』はなかろうと。堪えました。

でも、貴人が亡くなった時の表現は『薨去こうきょ』としました。

日本語って難しい。


英語だと、

(以下、AIによる解説)

met their demise (その最期を迎えた)

やや古風で、悲劇的または劇的な最期を暗示することもあります。

breathed their last (breath) (最後の息を引き取った)

文学的で、非常にフォーマルな表現です。


って言ってました。

なんか英語にすると雰囲気が変わって大広間での報告ではなくて、一対一で近親の者から知らせを受ける雰囲気?で、セリフのない映像だけのシーンが似合いそうって思いました。


そして突然、回想シーンとなってしまいました。

ロカマドゥール。行きたい。

美しいです。(写真見た。)

なので、ついついポードワンの回想シーンに街の様子を詳しく書いてしまいました。


エピソードタイトル一部削除、本文一部修正(2026.01.13.)

本文一部修正(2026.01.14.)

本文一部修正(2026.01.18.)

本文一部修正(2026.01.29.)



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