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二ー60 白フード6

少しどんよりとした空気の中、メルカディエが話しを続ける。


「それで、オレ達の不満も溜まって、そうなるとまぁ雰囲気は最悪で、コルビエについてからもロバールに文句言いに行ったやつは次の日には死体で転がってるっていう状態のところで、敵襲が来たんだ。」

「白フードか。で、その中にウィリアムが居たというんだね。私の見解だが、君たちはブラバンソンはもう瓦解寸前だ。そして、新たに振興した白フードは勢いがある。戦わずして敗走したのではないかね? 」


 ボーヴェデンは、筆を走らせるのをやめ、少し重い空気を醸し出しながらメルカディエに話しかける。


「? 難しい事はわからねぇけど、ウィリアム殿の勢いが半端なくて、なんかドロまみれの白いローブが余計に不気味で。1戦交えたのは交えたんだけど、その時点でロバールの野郎がアンリ王子を連れて馬で逃げやがったんだよ。残されたオレ達はなんとか人質一人でもとっ捕まえようって、たまたま捕まえたあいつがピュルテジュネ王に仕えてたって言うから案内人にして連れてきたんだよ。」

「・・・ボードワンも災難だったな。しかし、依然としてアンリ様の行方はわからないということか。・・・全く何がアンリ様の使いだよ。」


 ポールが呆れ顔でメルカディエを睨みつける。


「わるい。正直言う。これだけしか知らねぇ。」


 メルカディエはポールの視線をまっすぐに受けながら、真面目な顔で謝ると、すぐに砕けた顔をしてデヘヘと笑う。


「ああ。スッキリした。オレ交渉とかこういうの向いてないんだよな。あ。でも、ロバールとアンリ王子、それとウィリアム殿は、ロカマドゥールの方向に行った。これは確かだぜ。ロバールの野郎、側近数名と逃げたけど、金目の物は持ってないはずだ。オレ達がこっそり盗んで隠してたからな。ここいらで金目のモノの調達ってったら、もうロカマドゥールくらいしか残ってないんじゃないか? あと、アンリ王子も体調悪そうだったし。」

「どういうことだ。」


メルカディエの言葉にリシャールが怖い顔をして問いただした。


「あ。えっと。なんか腹の調子が悪いって・・・。ロバールが独占したいから嘘ついてるんじゃねぇかと思ってたんだけど、コルビエでちらっと見た時、ほんとに体調悪そうで・・・。でも、そん時オレに向かって手をあげて笑って挨拶してくれたから、だいぶ回復してるんじゃないかなと思うけど、あんまり長距離は移動できそうにない感じだった・・・っす。」


 メルカディエは叱られた子犬の様に上目遣いチラチラとリシャールの様子を伺いながら答えている。

その様子からは嘘をついているようにも見えない。

 アンリの身は心配だが、そういう話ならば、アンリが軍隊を指揮してリモージュへの援軍を・・・、というのは難しいはずだ。


「・・・父上に話してくる。ボーヴェデン来い。」

「はい。」


 リシャールとボーヴェデンが地下に高い足を音を響かせながら出ていく。

 それをメルカディエがしょんぼりとした顔で見送っている。

そうしてポツリと呟いた。


「・・・オレ・・・配下入れてもらえねぇかな。駄目かな・・・。」


ローワンがメルカディエのそばにドカリと座る。


「あー。まぁ、お前頑張ったと思うぜ?」


ニコラもうなずきながらメルカディエの横、ローワンとは反対側に腰をおろした。


「そうだな。下手に器用なやつより、お前みたいなやつのほうがリシャール様は好みかもしれん。」

「何だよそれ、オレが馬鹿ってことか?」

「違うのかよ。」


 そう言ったのはミシェル。

打ち解けた様子の4人は牢獄ということを忘れているかの様な、まるで教室にでもいるような雰囲気だ。


「いや、違わねぇけど・・・。なんかオレ、獅子心王の前だとち○こ縮みあがっちまって。」

「そうだろうよ。貴様のチンケなち○こなんぞリシャール様前にあれば小指みたいなもんだ。」

「・・・何だよローワン。お前見たことあるのかよ。あー。獅子心王、かっけーよなぁ。ち○こもかっけーんだろうな。」

「ふ。愚問だな。かっこいいどころではない。リシャール様はエクスカイバーだ。」

「え。聖剣じゃん。・・・えー、すっげぇんだろうなぁ。入れてほしい・・・。」

「え。お前そっちなの?」

「あ。オレ両党。お前入れてやろうか?」

「な!! オレはそっちではない!」

「おい、メルカディエ辞めてやれよ。そいつ未経験だぜ。」

「何だ。筆下ろししてやろうか?」

「お前なんか嫌にきまってんだろ! オレはいつか・・・! いや。その・・・。」


ガチャリ。


「え?」

「あぇ?」

「ん?」

「ジャン様? 」


 あまりに下品なので牢獄のカギをかけてやった。


「君たち、そこで仲良くしてな。」

「え?? ちょ! 待って! ジャン様! 」

「う、嘘です! 今の嘘ですから! 」

「ローワンお前何いってんの? あれ? え? ちょっとジャン様? マジで? 」


 うろたえる彼らを背に牢の鍵を片手にひらひらと手を振ると、いつの間にか出ていったポールの後を追いかけて地下牢から出た。


 若い彼らに説明するのも億劫だった。

実はそれが本音だ。

 彼らはアンリとは面識がない。

それはそうだろう。

まだまだ下っ端の彼らだ。

 随分と楽器の腕も上がり、宮廷での演奏に連れて行っても良いかもとは思うが、ピュルテジュネ王が在席する会場で披露するほどまではまだ到達していないゆえ、留守番させた。

 それにピュルテジュネの王子であり、仕えているリシャールの兄であるアンリだが、今回は敵の大将なのだ。

この戦いでは多くの仲間を殺されたし、数年前だが、ルーだって彼の手にかかったというのも彼らは知っているはずだ。。

 だから、この反応が正しいというか、彼らが悪いわけではないのだ。

アンリがどんなにひどい状況にいようとも、別段同情する気にも、その先を憂う気持ちにもならないだろう。

 わかっているけれども、どうにも出来ないこともある。

 やりきれない思いがある。

 誰かに心臓を捕まれ絞りあげられているかのような苦しさで、地下から地上に上がる。


見上げた夜空は、星も、月も何一つ見えなくて、ただのただ黒く塗りつぶされた暗闇だった。





 メルカディエが訪れてからすでに10日ほど過ぎていた。

 城壁から見下ろす広大な大地は、黒焦げに焼けた場所がまだらに広がってはいるものの、緑が広がりつつあり、それら土地を耕し、作物を育て、家畜に草を喰ませる、そんな平和な光景がわずかではあるが広がっている。


 リモージュの包囲を解いて、アキテーヌへと退却したピュルテジュネ王軍だったが、不満を唱え剣を取るがあるものの、リシャールが徹底的にそれらを潰して回り、また、ピュルテジュネ王自らが貴族や男爵達との対話を進めたくれたおかげで、アンジュー、アキテーヌ地方は落ち着きを取り戻しつつある。季節もすっかり初夏となり農期としては最適な時期にあたる。この時期に戦闘をする者は専属軍人くらいだ。


 リシャールとピュルテジュネ王は、アンリの件で何日も話し合っていたようだがその度に言い争いになるようで、なかなか話に決着がつかないでいる。

 アンリの側近だったポードワンは再びアンリとウィリアムの元へと戻る事を涙ながらに懇願し、王から許しを得たその当日、数えて12日ほど前に数名の兵士を伴いロカマドゥールへと出立していた。


 そのボードワンが再びボロボロの様相で、晴れ渡るクレルヴォーの空に突如として垂れ込み始めた暗雲と共にやってきた。




ジャンもすっかり大人です。

ちなみにローワン達は18歳ですね。

ロマンス前篇から4年経ってますからね。(忘れがち。)

当時は50歳前後が平均寿命なので18歳はまぁオトナなんでしょうが、会話は現代の18歳相当にした次第です。この辺の塩梅が難しいですね笑


表記日数一部訂正 (2026.01.13.)

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