二ー59 白フード 5
拘束を解いてもらったメルカディエは手首をさすりながら、「サンキュ」とにこりと笑う。
このメルカディエという人物は人の懐に入るのが早いようで、牢の中の4人はまるで旧知の仲の様な雰囲気で地べたに座っている。
年相応のワクワクとした様子でミシェルがメルカディエの肩に腕を乗せながら聞いた。
「おい。早く話せよ。邪魔者って、何だよ。どうなったんだよ。」
「ああ。邪魔者か? そりゃ、リモージュのエマールだろ。」
「お前呼び捨てじゃん。」
「オレ達のことそこら辺の野良犬としか思ってねぇもん、あいつ。まぁ実際の素行の悪さは犬と変わらねえかも知らねえけどな。」
ははっと軽く笑うメルカディエ。
すると、長椅子に座っていたリシャールがゆっくりと立ち上がり、メルカディエ達の前にしゃがみ込む。
「おい。おまえらは犬なのではない。無知なだけだ。知らないなら知ればいい。自分を落とすな。」
眼光鋭いリシャールがぶっきらぼうに発する言葉は、言い方もその姿も、消して優しくはない。
けれども、そこの根底に優しい愛情がある。
『獅子心王!!』
メルカディエ含め若者達がキラキラとした眼差しでリシャールを見ながら声を揃えて叫ぶ。
「うるせぇ。お前ら。とにかく、自分で価値を下げるな。いつでも高く売れ。」
「商売の話してどうするんですか。まだ彼らにはわかりませんよ。」
くっくと笑いながらポールが横槍を入れている。
「ふぅん。じゃ、傭兵なんて向いてないだろ。やめちまえ。」
「獅子心王! だったらオレ! 」
メルカディエは地面を這うようにしながらリシャールのそばに近寄ると、目に涙をいっぱいにためて叫んだ。
「オレをあんたの配下に! 」
「メルカディエ。」
ニコラがメルカディエを諌めるようにして抱えると、牢の壁のあたりまで連れて行く。
「オレ達の結束は硬い。パッと来たやつが簡単にリシャール様のそばにいられると思うなよ。わかるよな。」
ミシェルとローワンもニコラの側にきて、メルカディエを取り囲んだ。
「でも、気持ちはわかるぜ。今は、大一番なんだろ?」
そう言ってローワンがニカっと笑う。
ローワンに向かってメルカディエは頷くと、先程4人で座っていたあたりまで進み出て、リシャールにぎこちない雰囲気で服従の証のように片膝をついた。
「リモージュを出る直前と出てから、アンリ王子がどうしてた、どんな様子、だったかおしえて、報告、・・・いたします。」
メルカディエの側でミシェルが耳打ちしている。
「おれ達は、自分たちは・・・。」
「おい、ミシェル。」
メルカディエの耳に口を寄せているミシェルをポールが制する。
「あ!はい!」
「気持ちはよくわかった。とりあえず聞くに耐えん。今はとにかく喋らせろ。」
「はい!」
ミシェルはメルカディエの肩をポンと叩く。
「おい。だってよ。とにかくせめて、もう少し丁寧に話せよ。」
「わ、わかった。すまん。」
どこか緊張した面持ちのメルカディエが咳払いをして、再び話し始めた。
「えっと、アンリ王子がリモージュに来て、ロバールはなにかにこぎつけて城に出入りしてたけど、オレ達はずっと城外のテントで過ごしてたんだ。大事な会議とかっていうヤツがあるときはロバールも追い出されちまって、文句言ってた。だから、実はリモージュの城でアンリ王子が何してたとかは、わかんねぇんだ。でも、オレ達のほうが優位に立っているって、ロバールから聞いてたんだけど、アンリ王子がなんか降伏するとかって言い出したらしくってロバールがすっげぇ慌て始めたんだ。」
「時期的にはいつぐらいだ? もしかして、リシャールが橋を壊したあたりか?」
ポールの問にメルカディエは首を振る。
「いや、それより少し前。軍勢がリモージュを包囲し始めた頃だ。そんで、すぐに橋が壊されて、籠城が始まった。」
「ふむ。なるほど。それでロバールは慌ててどうしたんだ?」
「あいつ、機嫌が悪くなると、モノに当たるクセがあって。橋が壊されたって騒ぐ村の奴らを片っ端から殴って。それ見てた仲間も真似をし始めて暴行とか、盗みとか? そんなんが始まって。そしてら、なんか、いつもは入れてもらえない会議にロバールが入れてもらえるようになて、上の奴らが辞めろって言ってるってロバールが言ったんだけど、もう仲間たちが村でむちゃくちゃするのは止められなくなって。」
「羊小屋に狼を入れたようなモノだ。・・思っていたより凄惨だな。」
ボーヴェデンがため息を付きながらメモを取る手を止めて呟いた。
「ああ、ほんとにそんな感じで。ちょっとオレでもまずいなって思うくらいだった。そしたらある日、ロバールがアンリ王子を連れて来たんだ。籠城戦を打開するのに、アンリ王子が攫われたことになったって。」
「・・・エマールとジョフロアめ。やはり、アンリ様を売ったか。」
ポールが苦々しそうに言葉を吐き出した。
「やっぱり、そうだよな。アンリ王子いつも追従連れてるのに、一人も居なかったから、後で追いかけてくるのかなって思ってたら、全然誰も来なくって。とりあえず、盗賊らしく聖堂の金品とか盗んで出るぞって、リモージュを出たんだ。」
「それで、アンクレームまで来たと。」
ブラバンソン達がリモージュを離れ、西のアンクレームに向かっていたのは知っていた。そこはサントンジュ地方内にあり、リシャールの直轄領だ。
その知らせが入り、ちょうどクレルヴォーに撤退中だったピュルテジュネ軍はサントンジュ地方でくすぶっていた種火を鎮圧して回った。
「アンクレームについてしばらくしたら、リシャール軍が攻めてくるらしいって今度はコルビエに向かったんだけど。」
「コルビエ・・・」
その言葉を聞いて、冷たいものに撫でられたように背筋にゾクリとなにかが這い上がる。
アンクレームとコルビエの間には、リベラックの村がある。
リベラックはこの世界に来た時に拾われた村。
懐かしい人達がいる場所だ。
サントンジュで起きている戦火を聞いて、リシャールが気をきかせてリベラックの村人たちをマルマンドに避難させたばかりだった。
「その間の村に寄るとかなんとかで、ロバールとアンリ王子がなんか揉めたっぽくって。」
「・・・ひょっとして、リベラック?」
「あ、そう。それだ。結局その村行ったけど誰も居なかったんだけどな。で、そっからなんかロバールが目に見えてアンリ王子に固執するようになったんだよ。」
アンリとウィリアムに、自分がリベラックから来たという話しをしたのは、もう随分昔の話だ。
アンリは覚えていてくれていて、村に寄るのを止めてくれたのだろう。
それがロバールの執着に火を付けたのだとしたら・・・。
「獅子心王はアンリ王子の弟だよな。・・・弟の前で言いにくいけど。アンリ王子、綺麗じゃん? で、みんなそういう目で見てて。突っ込みたいのに、ロバールが駄目っていうから我慢してたのに、その頃あたりから、ロバールが目に見えて独り占めし始めたんだよ。 移動中は手足縛って、顔も隠して自分の馬に乗せて、野営でも独り占めして、オレ達には指一本触れさせないんだ。」
吐き気がする。
手足をもがれるという話はポールから聞いてはいたが、もがれはしないが尊厳が踏み潰されている事実は何一つ変わらないじゃないか。
ごめんなさい。胸糞で終わってしまいました。
濁したからバレてないかな?
なろう15Rなので濁しました。
戦場って倫理観だったり、尊厳だったりそんなものが失われるんだとは想像しているんだけど。
どうしてそんな事が起こるのでしょうねぇ。かなしいです。
戦場じゃなくても、起こり得る事ですかねぇ。恐ろしいです。
あとがき追加、タイトル一部分削除(2025.12.12)




