9 ねこ様達の各担当 2 ふく姫の担当はツンデレ
ふく姫は、お一人様生活を満喫している。
その生活は、まずニンゲンに保護されたときから始まる。
そして、そう。
ふく姫の担当は、ツンデレである。
「ねこがハナミズ流してるなんて、初めてみましたー」
がっくりと肩を落として、ニンゲンが先生にいうのを聞きながら。
――失礼ねっ、ニンゲン!わたくしのようなオトメにハナ○なんてっ!
ニンゲンに慌てて連れ込まれた動物病院。
そのころは痩せていてちいさかったふく姫は、ニンゲンにつかまえられてしまって。しかも、キャリーとかいうものに入れられると。
こうして、動物病院とかいう処に連れ込まれてしまったのである。
―――しかも、なにかいっていることが失礼だわ!
つーん、とふく姫が横を向いていると。
先生、とニンゲンがなにやら話している。
「では、暖かい部屋で、しばらくは一匹で、…―――」
「隔離した方がいいでしょうね」
なにをいっているのかしら?ニンゲン達は?とふく姫が考えているうちに。
家に戻ると。
暖房が無茶苦茶効いている部屋を与えられて。
「さみしいかもしれないけど、ごめん」
ニンゲンが何かいっているけど、別にわたしさみしくないわ。
そして、窓際にねこベッド!
このふかふかが好きなの!わたし!
「あたたかくしてね?」
いいながら、ニンゲンがブランケットをかけてくる。
――うーん、ぬくぬくね?
暖かくて、いいきもちだわー。
ちょっと、ねちゃおうかしら?
ニンゲンに警戒してはいるのだけれど。
そして。
ふく姫のお一人様快適生活ははじまったのである。―――
「ひとりって、かいてきー!」
窓の外をながめて、ぴょん、と飛び降りて。
――ここにはお水があるのよ!
おいしいお水は最近のお気に入りだ。
外にいるときには、水を探すのに苦労したから。
ごはんだって、滅多にちゃんとみつからなかった。
おかげで、自慢の毛皮はぼろぼろになっていたし。
寒くなってきて、風邪なんてひいてしまったのだ。
「ごはん、おいしー!!!」
お水のとなりにはごはんがおいてある。
しかも、おいしいのだ。
ふく姫がニンゲンがいてこわくて食べられないといけないと、いつでも好きに食べられるようにごはんが置いてあるのだが。
「このかりかりって、さいこうよね!おいしー!」
カリカリをじっくり味わってさくさく食べる。
基本、ふく姫は早食いである。
―――しかも、この部屋にはトイレもあるしっ!
きれいな砂の入ったきれいなトイレが、二つも置いてあったりするのだ。それも、少し隠れられる場所にあるのが最高である。
――外にいたときは、落ち着いてできなかったもんねー。
いまは、ゆったり、まったり。
好きなときに、ごはんをたべて。
すきなときに、お水をのんで。
部屋の中はふく姫のなわばりだから、ちゃんと四隅をにおいパトロールもする。
「うん、快適だわー!」
ニンゲンが、一匹ではかわいそうだと困っていたりとするのだが。
それはまったくの誤解。
お一人様生活を快適に過ごしているふく姫であった。
そして、朝晩。
ニンゲンがやってくる。
もちろん、新しいお水と、あたらしいごはんをもって、トイレのお世話をしにくるのだ。
――ニンゲンって、役には立っているわよね?
ニンゲンが扉の向こうに近付いてくる足音がすると、扉まで近付いてあげるのが日課だ。
「ふく姫、おはよう!」
ニンゲンが運んでくるごはんとお水はもちろん大切だけど、わたくし、ちゃんとあいさつすることにしているのよ!礼儀って大事ですものね!
「はい、ごはんとお水、―――?さきにもふもふ?」
そう、お水とごはん。
それもとっても大切だけど。
ころん、と横になってすこしあごをのばす。
「えーと、ふく姫?」
いいながら、ニンゲンがお水とごはんを取り替えて。
ふく姫のそばにきてひざをついて。
――そーよ!それそれっ、…!
ふく姫が目をとじてごろごろする。
ニンゲンに、額とあごのしたをかきかきさせるのが、ふく姫のあいさつがわりだ。
――ニンゲンに、わたくしの額とあごのしたをかきかきさせてあげるわっ。
目をとじて、ニンゲンのかきかきがきもちいいのでごろごろする。
何なら、まえあしがきもちよすぎて、エアふみふみをするように動いたりもするが。
気持ちいいのである。
――このニンゲンはマッサージがうまいわ!
ごろごろして、うーんと身体を伸ばして。
マッサージを堪能してから、ニンゲンがもってきたおやつを食べる。
そう、大抵、朝ニンゲンはおやつをもってくるのだ。
ごはん、とは別のとってもおいしいおやつ。
―――ニンゲンのもってくるおやつは最高よね!
マッサージのあと、ゆっくりおやつを食べていると。ニンゲンが後でトイレをきれいにしている。
それから、戸を閉めていくのをちらりと見送って。
―――べ、べつに、さみしくなんてないんですからねっ、…!
最近、ちょっとニンゲンにマッサージの時間を長くさせてあげたり。
ニンゲンがたまーに一緒にねるときに、そーっと背中を寄せてみたり。
そんなことは、そう。
別に、ニンゲンが好きとかそういうんじゃなくて!
たまーに、ニンゲンにつきあってあげているだけなんですからねっ。
そして、ひとついいたいわ!
最近、暖かくなったからっ、て。
ニンゲンが、部屋の扉をあけていったりするようになったから!
しま王子とか、ミケ女王とかが部屋に来て、いろいろ大変なのよ!
別にわたくし、一人でいいんですからねっ?
ニンゲンがどーしても一緒に寝たいとかいったりするなら、それは寝てあげないでもないけどっ。
ニンゲンを鳴いて呼ぶのは、別にさみしいからではないんですからね!
わかった?
わたくし、別に一人でさみしくなんてないし、そもそも、しま王子もミケ女王も敵なんですからねっ?
別に、最近、においをかいで挨拶したりとか、そういうのしてても挨拶は基本で礼儀でしょっ?
礼儀だから、してるだけよっ。
だから、別にわたくしは一人でいいんですからね!
それに、だから、ニンゲンが部屋にきたら、かならずころりんするのだって。
あ、あいさつよ!あいさつ!
ニンゲンでも、ねこでも礼儀なんだからねっ!
で、でも、ニンゲンのマッサージはもっとさせてあげてもいいわっ。
ブ、ブラシとかいうのも、かけさせてあげてもいいわよ?
ねこにはね、換毛期というものがあるのよ!
だから、…――――。
だ、だからっ、ね?!
べ、別に、ニンゲンなんて好きでもなんでもないんだからー!!!
ふく姫の担当は、ツンデレである。――――