8 ねこ様達の各担当 1 しま王子はいやし担当
ねこ様達はまったりと平和に日々を過ごしているのだけれど。
一応、ニンゲンに対して、それぞれねこ様達には担当があるのである。
その担当というのは。
「ぼくはいやしたんとうなんだよ!」
そう、まずはしま王子。
いやし担当である。
ニンゲンに対して、傷があろうとフライング・ボディアタックをかまし、撫でてもらいたいときにはころりんと横になり。
ニンゲンの都合と時間をまったく考慮せず。
パソコンがあれば、キーボードに乗り。
タブレットを見ていれば画面の前に座り込み。
扉の外(もちろん、硝子で安全に囲われている)に出たければ、ニンゲンを誘導していつでもあけてもらい。
ねむくなれば、ニンゲンの上に乗り。
ニンゲンがノートパソコンの前で持ち帰り仕事をしていれば、確実にキーボードを襲って仕事を遅らせ。
ニンゲンが座っていれば、ひざに乗ってニンゲンが動くことができないようにする。
それが、いやし担当、しま王子の仕事である。
「ぼくって、いそがしいんだよ!」
しま王子はいやし担当として、常にニンゲンの動向に目を光らせ、ニンゲンがよこになれば腰の上に乗り、洗い物をしていれば背中からおやつをさいそくする。
そうして、常にニンゲンをみはっていそがしくしているのだ。
ときどき、何かと走り回っていたり。
いっぱい、いっぱいねていたり。
一生懸命、ふすまをひっかいていたり。
トイレで砂をかきかきしていたりもするが。
基本的に、しま王子はいやし担当としてがんばっているのだ。
そのしま王子の最近の特技は、ころりんおなかだしこうげき、である。
まず、順番として床にころりんところがる。
ニンゲンが歩いている先に転がるのがベストである。
次に、にょーんと横にのびる。
ここでまず、ニンゲンがひっかかり、屈み込んで毛を撫でてくる。
そうくればしめたものだ。
ころりーん、ところがって、額とかあごのしたとか、首のうしろとか。
かきかきしてほしいところを全部かかせると、ここで必殺技。
ころりん、くりん攻撃である。
いままで、左の方をかかせてあげていたとしたら、次は右側にくるりん、ところがるのだ。
ニンゲンは、これで右側もかきかきしなくてはいられなくなる。
何か時間がせまっていようと、ニンゲンの都合はすべてねこ様の彼方である。
ねこ様の魅惑の毛皮がニンゲンの前に立ちふさがる。
そう、ニンゲンは勝てないのだ。
下僕として、いくらでもねこ様の思い通りに、毛を撫でてかきかきしてしまう。
もふもふには勝てないのである。
そして、―――。
最終兵器、はらもふ。
「ぼく、ニンゲンにおなか撫でさせてもへいきだよー?」
ころりん、とさらにのびーっとなって。
魅惑のおなかをさらすのである。
これが、ねこ様の場合は基本NGだ。
大抵のねこ様達は、ころりんと転がられたあと、魅惑のもふもふおなかを無防備にさらされることがある。
あるが、しかし。
それをチャンスとは思ってはいけない。
よくしつけられた下僕であれば知っていることだが。
「ねこ様のころりんとさらしたお腹を撫でてはいけない」のである。
大事なことなので、ここは脳に叩き込んでおきたい。
もし、これを忘れて魅惑のおなかに手を伸ばしたときには。
シャッ!と、ねこ様の鋭い爪が襲ってくるであろう。
それが基本であり、ねこ様魅惑のもふもふおなかはさわってはいけないのだ。
だがしかし。
「いいよーん、どうぞー」
ぼく、いやしたんとうだもんね!と。
しま王子がくるりん、のびーっところがり。
無防備なおなかをころりんとさらす。
白くてもふもふなおなかが、…―――。
ニンゲンが、あごしたからかきかきして差し上げていて、つい、つい。
白い毛皮にもふもふなおなかを、―――つい、…――――!
「いいの?おなかさわっちゃうよ?」
のびーっとしたまま、寝転がって撫でられているままのしま王子に、ニンゲンが思わず問い掛ける。
それにも、毛皮を撫でさせて、のんびりしているしま王子である。
――ぼく、ニンゲンいやしたんとうだしー!
それに、ニンゲンのかきかき、きもちいいよね!と。
おそらく、段々と暑くなる季節。
ころりん、ところがって。
「うわ、いっぱい毛がとれる!」
ブラシ、ブラシ!とブラシを手に取り毛を梳き始めるニンゲンだが。
つまりは、換毛期。
ねこ様の毛がたくさん、たくさん、山ほどぬけかわるその季節。
――あついしー、ニンゲンがかきかきするときもちいいかもー!
ブラシで毛が抜けると、毛が梳かされて気持ちいいのだろう。
あついから。
そんなこんなで、しま王子は新しい必殺技をニンゲンにひろうしていたりするのだ。
ニンゲンの前で、ころりん。
からの、くるりん。
さらに、ねこ様のひらき、という名のおなかもふもふざんまいアタック!
「ニンゲン、ぼくがいやしてあげるんだもんねー!」
ころりん、と気持ちよく転がって今日もまた撫でられている。
そんなニンゲンいやし担当。
しま王子の一日である。―――――