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名参謀ロクフォール&異世界転生がネコ様達により、いつのまにかキャンセルされていた件  作者: 高領 つかさ (TSUKASA・T)
異世界転生がネコ様達により、いつのまにかキャンセルされていたようです?
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7 ねこ様会議とミケ女王様温熱療法


 ねこ様達は会議をしていた。

 実に上品にサークルを描くように等分に間をあけて座る。

 両脚をきれいに揃えて座り、皆を睥睨するように見るのはミケ女王。

 ふく姫は我関せずといった風に横座りをして知らぬ方を眺めている。

 しま王子は、のーんびり、伸びをしておおきくあくびをして。

「それで、ニンゲンになにをするの?」

大あくびをしてからきくしま王子にミケ女王がきっぱりという。

「温熱療法です」

「…?」

くびを傾げて、不思議そうにみるしま王子に。

「ニンゲンを、温めるのですよ」

「…――――???」

 そんなミケ女王としま王子を、ふく姫がちら、とみて視線を遠くにやる。



 ニンゲンの家にはネコ様が三匹おられる。

 皆、ニンゲンの世界では保護猫と呼ばれる。

 ニンゲンが必死になって痛みに耐えながらも生きてこられたのは、このネコ様達のお世話をせねばならぬという、根底に根付いた気迫のようなものがあった為なのかもしれない。―――下僕生活というのは、交通事故に帯状疱疹が重なる不幸が起きようとも、けしてその程度で負けるものではないのである。

 …何かが大きく間違っている気がとてもするとはしても。

そう、何はともあれ、ニンゲンにはお世話をしなくてはならない三匹の御ネコ様達がいた。

 三匹共に家に来た経緯は違うが、庭で怪我をしていたり、飼い主であったご高齢の方がコロナ下で戻って来られなくなり、家を失うなど。色々あって二匹がいた処に、昨年、ボロボロで大声をあげる三毛猫を迷いに迷ったが保護したことで、そのとき、ニンゲンの家には三匹のネコ様達がいた。ちなみに、ボロボロの仔を保護したころは本格的な冬になる前で、保護してネコが鼻水垂らしているのを初めてみたニンゲンが慌てて病院に連れて行き、お薬をもらい温かい部屋に保護してよかったと、ほっとしたこともあったりしたのだが。

 それはともかく。

 ニンゲンが下僕としてお世話をさせていただいているネコ達は三匹。

 そして、当然ながら、ネコ様達にも序列がある。

 一番エライのは、ミケさまである。

 昨年保護された新入りも三毛猫なので紛らわしいが、おそらく親戚だろうとはおもわれる。

 ミケさまは、女王様だ。

 この辺り一帯を制覇していた女王様であり、周囲を圧倒する美猫であった。

 色々な経緯があり、いまはこの家で一番偉い立場となっている。

 次に、王子。

 猫王子のかれは、ミケさまの息子である。

 気が良い。近所の小学生にでろーんと伸ばされてもちあげられても、抵抗せずにいてあげるくらいにはおとなしく、気が良いにゃんこだ。ちなみに、ミケさまには絶対に負ける。

 最後に、新入りのボロボロだった三毛猫。多分、まだ子ネコだったろう新入りは、片方の耳がカットされた桜猫だった。毛皮がぼろぼろで、ジャンプ力はあるのだが、まったくごはんをあげたり、世話をする人がいない状態であったようだ。

 あまりのぼろぼろさ加減に、庭に現れたときにニンゲンが迷いながらも保護し、お世話をさせていただいた結果、いまは毛皮もつやつやで、ふくふくとした――もしかしたら、もうミケさまより大きくなっている――にゃんこと化している。

 ちなみに、まだニンゲンはこわいのだが、ごはんをもっていくところん、と転がってまずなぜてもらおうとする。お気に入りは額とあごのしたをなぜてもらうことである。

 それはともかく。

 ニンゲンが交通時の痛みや帯状疱疹の攻撃に耐えられたのは、これらのネコ様達のお世話をしなくてはならないという下僕としての義務感からであろう。

 本当に。

 というわけで、ニンゲンは三匹のネコ様達のお世話をしている。

 自分の動きがおぼつかなくとも、ネコ様達のお水を替え、常に新鮮な水を用意し、ごはんを一日二回、新しくお出しして。お手洗いを綺麗に常に保ち、掃除をしてネコ様が寒くないようにお世話する。

 たとえ、痛む腕の方にフライングボディアタックをかまされようと、一緒にねよー?と、甘えたの王子が痛めたコルセットの上に乗ってこようとも。

(しかし、考えてみればこれで温めてもらい、傷の回復にはよかったのかもしれない)

 そして、激しい痛みのある帯状疱疹に襲撃されていようとも、頭が回らなくとも、ネコ様のご飯は差し上げねばならぬのである。何なら、カリカリだけでなくウェットも出さねばならないとか、色々ある。

 そうして、ふらふらになりながらもミケさま達のお世話を継続していたニンゲンに。ある日、朗報がもたらされたのであった。


 ミケさま温熱療法、である。―――



 ニンゲンは、何とかかんとか、急性の保存期を乗り切っていた。

 根性と、下僕としての使命のみがニンゲンを支えていたといえよう。

 安静にしながら、本当に寝たきりでは身体が弱ってしまう処を、無理をしないようにねこ様達のお世話をする為に身体を動かすことでカバー。

 痛みにくじけそうになる度に、下僕としての心得がニンゲンを救った。

 ―――ここで、倒れたりしたら、…ねこ様達のごはんがっ、…!!!

 見事な下僕としての心得である。

 ―――ねこ様達の為に、たおれてられない、…。

 いや、既に充分倒れているのだが。死んでいないというだけで、かなりの時間を唯痛みを耐えながら横になって過ごしてる状態は、かなり倒れているというのに近いのではないだろうか。一応それでも、ねこ様のごはんの為に起き上がり、ねこ様達のトイレ掃除をして清潔を保ち、―――と、むくりとゾンビのようにして起き上がってはくるのだから、ずっと倒れているというわけではないのだろうが。


 そして、どうにかニンゲンはリハビリというものを始められるまでになった。

「よし、…!落ちた筋力を戻さないと、…!」

 約四週間、安静に過ごしたニンゲン。

 もちろん、筋力が落ちてしまっている。

「歩くぞ!」

 そして、やりすぎたニンゲンは。


 恐怖の魔王。

 「帯状疱疹」に襲われてしまったのであった。――――



 予兆はあった。

 …――なんだか、ピリピリとして、…いたい?

 体力が落ちている処に、張り切ってリハビリをやりすぎたニンゲン。

 


 そこへ。

 夕刻、焼け火箸で胸を突かれたかとおもう痛みが駆け抜けた。

「…―――――!!!」

 それは、帯状疱疹の襲来であった。

 神経が焼かれるんだから、それは痛いよね、とは後日お医者さんからきいた言葉である。―――――


 交通事故でやられた右腕が何とか使えるようになってきていて。

 まだ親指と人差し指、中指の三指がしびれていたりとするが、握力はほぼもどってきていたことを、大変幸運だったと思うニンゲンであった。

 帯状疱疹が襲来したのは、左上腕。

 左腕から胸と背中を、教科書通り。

 多分、T2領域くらいをきれいに攻撃してきたのが、身体が弱るのをまって襲来した帯状疱疹であった。

 


 「見本をみておきなさい」

 休日の為、すぐに医者に行けず。それでも何とか耐えて皮膚科へ行き、薬をもらってきて呑んだニンゲンが倒れるようにして横になっているのを柱の陰からみながら、ミケさまがいう。

 それを、遠目にみているふく姫と。

 くびをかしげて座ってみているしま王子。


 そして。


 そうして、ふらふらになりながらもミケさま達のお世話を継続していたニンゲンに。ある日、朗報がもたらされたのであった。

 ミケさま温熱療法、がついに発動されたのである。―――


 先に、先生が患部は温めた方がいいんですよ、と。何ならカイロとか貼ってとニンゲンはいわれていたのだが。

 リハビリでは直接そこに当ててもらうわけにはいかないため、ニンゲンはぼーっと、ネコ様にのっていただいたら温まっていいのでは、…――と、本当にぼーっと考えていたことを。

 かくして、奇跡は起きた。

「ミケさま、…――ありがとう、…―――」

 ニンゲンがぼけぼけという。

 何と、ニンゲンがねている処に、ミケさまがやってこられて。

 しかも、ニンゲンの上に乗ってこられたのである!

 それも、帯状疱疹で痛みが残りこまっていた左腕の上にである。

 (何よりも一番に、帯状疱疹が猫に感染しないことを確かめていたニンゲンはミケさまが来られてもあわてなかった。)

 しかも。

 ニンゲンの左脇の下にすっぽりとおさまって、ふみふみをはじめられるミケさま。

 ―――あ、温かい、…―――!

 ぬくぬくである。

 さらに、もふもふである。

 しかも、ごろごろをされておられる、…!

 猫のごろごろ音には、傷を治したりする効果があるといわれている。

 ニンゲンは痛み止めがきいてきた為もあって、なんとかミケさまがご希望なされる通り額の上をゆびでかく。

 ミケさまのお望みになられるままに、あごしたをかきかきさせていただき。耳のうしろ、額の上、と気持ちよさげに舌がぺろっと出ておしまいになっているミケさまのご満足なされるまで奉仕させていただく。

 さらに、そのままおやすみになられるミケさま。

 ―――温かい、…―――!これぞ温熱療法…!

 血流を増し、治癒を増幅する温熱療法。

 それを、配下のものである下僕に施してくださるとは、何と慈悲深い、…!




 ちなみに、ニンゲンは本来痛み止めが使えない。

 だが、帯状疱疹の痛みは尋常ではない為、何とか使用できるものを探して、薬は処方された。

 実は最初の皮膚科では処方できず、その薬を処方できる皮膚科にまでニンゲンは移動していた。

 皮膚科は、特殊な為にいわゆる門前薬局でも、普段処方されない薬は在庫していなかったり、取り寄せるにも時間がかかったりするものであるらしい。その薬も、できれば使用する期間をできるだけ短くすることが望ましい為、慎重に服用して様子をみていく必要があるのだが。



 ニンゲンが、ねむりながらかんがえている。

 

 ミケさま、ありがとう、…。


 ミケさま温熱療法が実施されての感想である。

 本当に、感謝しかない。


 

 ねているニンゲンの痛めた右腰の上に、しま王子はねそべっている。

 ニンゲンの上で、じっとしている。

 ふく姫は、ニンゲンの右足首のあたりに背を向けてくっついている。

 そして、ニンゲンの左脇にすっぽりおさまって、あごを腕に乗せてねむっておられるミケさま。

 ねこまみれになりながら、しあわせにねむっているニンゲンである。―――――


 

 

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