Act18 嵐神
豪奢な赤の巻毛を無造作に背に流して立つ赤い将校服の男を隣りにして。
副官ウィルは山腹の丘に登り森を眼下にみながら話掛けていた。
「あなたがねこだけじゃなくて、こうして人の格好になれるってこと、うちの大将は知ってるんですかい?」
「いや、おもしろいから教えてない」
「…――だと思いましたよ、…うちの大将はばかですからねえ」
「どうして、きみは驚かないんだ?」
軽く肩をすくめて副官ウィルが応える。
「赤毛ねこがあの名参謀ロクフォールだときかされた日には驚きましたがね?それ以上の驚きはありませんや」
「そうか、…後で、この姿であって驚かしてやろうとおもってるんだが、驚かないかな?」
首をかしげて、すこし困ったようにしていう相手に肩を竦める。
「…ああ、うちの大将でしたら驚くとおもいます。根が素直ですからね、大将は」
しみじみ、首を振りながらいう副官に、ちら、と豪奢な赤い巻毛でいまは人にみえるロクフォールが面白そうに視線を送る。
「そうか」
「楽しそうですねえ、…。ひとつきいていいですかい?この状況から、どうやって勝利をつかむおつもりなんですか?名参謀どのは」
その問いに、視線を森の入口へと戻して応える。
「そうだな。―――…勝利をするには、定義が必要なんだ」
「難しい話ですな?」
「確かにな。いずれにせよ、まずは―――…この仕掛けがうまく働いてくれることを祈るさ」
に、と笑んで野性味の勝つ美貌でいう名参謀ロクフォールに。
豪奢な赤毛を無造作に背に流す姿に、あきれながら肩を竦める。
「どう考えても、あんなものがきくとはおもえないんですけどねえ、…」
「だが、仕掛けてくれたんだろう?」
不敵な笑みを浮かべて問うロクフォールに副官ウィルが空を仰ぐ。
黒点が無数と思えるほどに、青空を覆い始めていた。
ワイバーンの群れだ。
朝を迎え、黄金竜が飛翔し森を目指してくるのがみえる。
この山腹で待つのは、空から襲うものにとり、目標がよく見える格好の餌食だろう。
――空から襲われるってのは、つらいですな。
黒点が迫るのをみながら、副官がおもう。これまで経験の無い戦いになるのは目に見えていた。
黄金の光を煌めかせ、ドラゴンが飛翔する姿。
黒翼のワイバーンの群れを従え、天の王、黄金竜は悠然と飛ぶ。
森の樹々さえ小さく山腹からはみえ、さらに入口などとてもみえない。
「ご無事でいてくれりゃあ、いいんですが」
副官ウィルはちいさくつぶやくと、赤毛の大型猫に戻った名参謀ロクフォールに促されて、丘を降りる為に歩き始めていた。
森の奥。
その頃、かれらが一晩を掛けて仕掛けた細工が森の隅々にまで行き渡ろうとしていた。
細かな泡をおもわせる白い球が、膨れて弾けて。
また、泡が生まれて、――――。
連鎖的に、玉突きをするようにして、泡が次々と生まれていく。