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Act0  プロローグ 転生の記憶なんて邪魔だ!


 かなり昔にそいつに気がついていた。


 転生というヤツだ。

 いわゆる、異世界転生。

 そういうジャンルがあると友人に教えてもらったことがある。

 実は、この世界ではその異世界転生というヤツを経験してる人間は割と多いらしい。

 あ、転生ね?それなら、三軒隣に住んでる奴のいとこの友達がそうだってよ、くらいの距離感で割と良くあることのようだ。

 まあ、そもそも特に話題に登るようなことじゃないから、わざわざ話さなければお互いにその異世界転生とやらをした同士だと知らずにいたりすることもよくあるらしい。

 あるらしいんだよな、…。

 

 多分、おれもそれだ。

 確信が持てないのは、薄ぼんやりとした記憶が多少あるだけだからだ。

 そういうのもまあ、よくあるパターンらしい。


 おれがその記憶に気がついたのは十二才のときだ。

 戦場で伝令をしていて、逃げながら瓦礫に足をとられてすっころんで。

 気がついたら、うっすらとその記憶が違和感を運んできた。

 薄汚れた戦場の灰色の世界に、その記憶、は違和感を持っていた。

 いや、通常だろ、いつもだろ、とおもう自分に。

 こんな平和じゃない世界――平穏で、平凡で、…。

 但し、命を遣り取りする危険も、何も無い世界に生きてきた記憶が違和感を唱えていたんだ。

 何が起きたかと思ったね。

 戦場に居すぎて頭がおかしくなったかと思ったぜ。

 だから、その違和感があまりにおかしいから、友人に相談なんて似合わないことしたんだけどな、…。

 うん、その友人いわく、あこがれの異世界転生だそうだ、…。

 遠い目になるおれの気持ちもわかってくれるよな?

 そうだよ。

 頼りにしてっ、ていうか。

 当時、そんな話を持ち込むくらい信じてはいた友人がだ。

 突然、目を輝かせて。

「それって、あこがれの異世界転生だねっ!」

 とか、いわれてみろよ、…。

 こっちは違和感が仕事をして、いまいる世界の衛生基準やら、食べ物が少なくともここ最近は、乾いた、いや乾ききって干涸らびたボソボソのパン一切れしかないとか。そういったことに文句をつけてきて大変だったんだ。

 いや、文句をつけてくるっていうか、…。

 全然別の感覚が急に居座って比較をはじめちまうから、これまで違和感なく普通だと思って何とか生き延びてきたってのに、って奴だ。

 そんな平和がいいとか、もといた所ではもっと美味しいご飯があったとかいわれても困るだろ?

 銃弾に脅えてねむらなくてもいいなんて、そんな夜を過ごしてきたのが普通だったなんて感覚、邪魔にしかならない。

 そうなんだ。

 問題なのは、その感覚が誰か他の奴ってわけじゃなくて、おれだってことだ。

 いまのおれじゃない。

 おれじゃないけど、―――別の世界に、とんでもなく平和で、居眠りしながら歩いてても殺されない世界に生きていた感覚で動いちまう自分だ。…

 厄介すぎるだろ?

 そして、でも友人のやろうはいいやがった、…。

「ぼくは経験ないけど、結構いるみたいだよ?転生をした人って!」

 うれしそうにいいやがったなあ、…あいつ。

 しかも、だからいうにことかいて。

「あこがれの異世界転生だよねっ!」

 とか、いいやがって、…。

 何があこがれだ。

 こちとら、邪魔で困ってるんだよ。

 さらに、いいやがった。

「その前世の知識とかを使って、この世界で生きるのにとっても役に立ったりするんだって!」

 それはどこから得た知識だ。

 そのムダ知識。

 何も考えずにぼーっと歩いてたら、流れ弾に当たって死ぬ世界で、どーして平和にぼけっと歩いてる奴の感覚が入り込んできたら、――役に立つ処か、生き死にの問題になるだろうが!

 邪魔なんだよ!むしろ!

 生き延びるのに邪魔になる知識や感覚なんて、いるか!

「えー、でも、もったいない!絶対どこかで役に立つよ!」

 立つかばか、と吐き捨てて。

 残念そうにもっと前世とかの話を聞きたがるあいつの頭をかるくはたいてその場は別れた。

 まあでも、頭がおかしくなったわけじゃないのが解ったのはよかった。

 割とだから、よくあることで。

 前世があるとか。

 確かに案外いるらしいというのは、軍に入ってからも思ったことだが。

 各地に転戦すると、町や村で色んな人物に出逢うが。

 本当に色んな奴がいる。


 まあ、そして。

 いずれにしたって、おれの前世とやらの知識は、多分、その前世の知識でいうと平和ボケ?って奴かな、…。それのせいで邪魔になることくらいで、後は本当にぼんやりとした知識や感覚の違いだけだったから。

 それにしても、本当にあの「平和ボケ」した感覚がもう少し強かったりしたら、おれはあの頃命を落としてただろう。

 薄ぼんやりとした知識でよかったかもしれん。…


 まあ、そんなわけで、一応、おれにも前世の知識とやらと、そこからきてる無駄に面倒な感覚だけはある。

 そんな色々があるんだが、―――。

 おれは、考えてはいなかった。

 その前世とやらから、引きずってしまってる感覚が。

 ぼんやりとした知識が。

 おれにとって、とんでもない事態を運んで来ることがあるなんて。

 すっかり忘れていたんだ。

 忘れてるって云うかな。

 毎日生き延びるのに必死だったら、まず役に立たないことは忘れるだろ。

 ああいや、邪魔にはなりつづけてたな、…。

 

 ぼんやりとした感覚に無駄知識があるせいで、だ。


 毎日、生存に必死でないせいなんだろうか?

 弱った生き物をみると、手を貸したくなった。

 悪いことに、これが自分以外の生き物全部にだよ、…。

 

 そもそも、その頃、おれは十二才だったんだぞ?

 軍の伝令小僧になって日銭ならぬ、乾パンの欠片をなんとか稼いで生き延びてたんだ。他の生き物なんて、たすけてられるかよ。

 けどな、…無視できないんだよな、なんでか、…。

 本来、他の生き物の面倒なんてみてられないんだよ。

 余裕なんて、ない。

 だのにな、…。

 始めは、弱った人間だった。

 そう、弱った他の生き物に人間が入るっておかしいだろ。

 でも、瓦礫の後で、足を挟まれて動けなくなってた老人をみたとき。

 平和ボケの感覚が強すぎて、手を貸しちまったんだ。

 瓦礫がおれに何とか除けられる大きさだったのもいけなかった。

 何とかじいさんを肩に担ぎ上げて、引きずってったよ。

 軍の野営地まで。

 …何でそんなことしたんだろうな。

 野営地でも、あきれられたよ。

 戦場が、一時停止みたいになってたのもよかったんだろう。

 流石に、銃弾が飛び交ってる中じゃそんなことはできない。

 じいさんがそれからどうしたのかは知らない。

 あるときは、足を挫いた犬だった。

 ぼろ布に包んで、抱えて戻った。

 また別のときは、伝令鳥が羽に怪我をして落ちてたのを、拾って食べるんじゃなくて怪我を手当てしてエサをやって、足に結ばれてた文の宛先が近くの野営地だったから、そこまで連れて行った。

 あのときだけは、報償でごはんが貰えたから良かったな。


 そんなことをしてたら。

 いつのまにか、正式に軍に入ってた。

 まあ、そんなことしてなくても軍に入るくらいしか道は無かっただろうけどな。

 そんなわけで、前世とかいうのは無駄知識だ。

 そもそも役に立ってないというか、邪魔にしかなってない気がする。


 いま、を生きて行くには本当に邪魔な知識だ。


 ぬくぬくと銃弾を気にせずに眠れるベッドがあるなんて記憶、邪魔にしかならないだろ。その感覚で寝ぼけて起きた日には、頭を銃弾に撃ち抜かれて死んでいてもおかしくない。

 本当にな、…邪魔なんだよ。

 それが。

 それでも抜けきらない邪魔な感覚が。


 随分とそんな記憶も遠くなって。


 軍の下っ端から入ったとはいえ、何とか隊長として一隊を率いるくらいにはなれたこの頃になって、なんて。

 

 なんか、そういや、あいつは異世界転生で知識むそーとかするのは、小さい頃からなんだよ!きみもまだ十二才だよね!とかいってやがったが。

 もう三十の方が近いぜ、…。

 いやまあ、そもそもこの年まで生きられただけでもありがたいけどな。

 若い頃にむそーとか。

 無責任なこといいやがって。

 まあ、あいつは町の子で、ひょろっとしたやつだったからな。

 本とか、よくわからん夢の世界で生きてる奴だった。

 いまはどーしてるんだか、…。

 とか、そんなことを。


 のんびり、考えてはいたんだが。

 いたんだけどな、…。

 おれに前世とやらの無駄知識で役に立つものなんてないし、むしろ、邪魔に思ってるっていうのに。


 だっていうのに、…な?


 軍本部に呼び出されるまで、おれは。

 街に戻ったからか、多少あいつのことは思い出しはしていたが。

 それでも、無駄な前世知識など、すっかり頭の中には無かったんだ。


 …なかったんだよな、―――。


 あのときのおれにいってやりたい。

 逃げろ。

 そこで引き返せ!

 そうしたら、あれと出逢ったりはしていなかったろう。

 しかも、前世知識とかいう薄ぼんやりとした記憶のせいで、なんてことが。

 

 とにかく、そこで逃げれば部隊に帰れる!


 命令書が来るまで、時間を稼げば戦況が変わって出陣が優先されたかもしれないだろう?そうしたら、あんな平和ボケした命令書なんてクズだ。

 …――そうだと願いたい。

 あのときのおれよ、引き返すんだ。…

 何事も無いいつもの銃弾が降る戦場に戻ろう。

 女はいないかもしれんが、少なくともあれはいない。


「きみに、参謀ロクフォール付の世話係を任せたいんだ」

 柔らかな微笑でひょろっとした奴が無害そうにいうのを。

 将軍の部屋できくことも無かっただろう。

 将軍の重厚で高そうな執務机を、―――。

 隣りにおかれた椅子に立って、無心に爪でばりばりしていた赤毛の大型猫に出逢うことも、無かったんだ。

「よお」

 一応、こちらに顔を向けてにゃんこがばりばりの手を止めていうのを。

 赤毛大型猫が、そもまま素知らぬ顔で将軍の執務机を爪でばりばりひっかくのを続けているのを。

 見事な筋が爪の痕として艶のある高そうな机の側面に刻まれていくのを呆然とみたりすることはなかったのだ。

 そんなことには、ならなかった。――――


 後悔は、後からするから後悔。

 後から悔いることを後悔という。

 人生を振り返り、このとき呼出しに引き返さなかったこと。

 そして、十二才。

 前世とかいう無駄知識を当時たった一人の友人に話してしまっていたことを。


 思い切り後悔しているかれなのだった。―――



 

 


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