「ねえ、遅刻じゃないのに、なんで走ってるの?」
【おはなしにでてるひと】
瑞木 陽葵
「今日こそは先に待っててやる」って、ほんのすこしだけ早起きして、家を出た。
でも、いつもの角を曲がったら、そこにいたのは……いつも通りの蓮だった。
――ふたりで走る朝は、なんでもないはずなのに、特別になる。
荻野目 蓮
連休明けだからといって、特別なことはしない主義。
ただ、ちょっとだけ“早めに”来たのは、
「陽葵、がんばるタイプだからな」って、なんとなく読めてたから。
――先に待ってると、照れた顔で文句言うのが、なんだか楽しみだったりする。
【こんかいのおはなし】
朝の空気が、
ほんのすこしだけ軽く感じる気がした。
連休明け、
制服のリボンをきゅっと結んで、
「今日はちょっと、早めに行こ」って決めてた。
――いつも会うあの角で、
“わたしが先に待ってたら、ちょっと驚くかな”って。
でも。
その“角”を曲がった瞬間、
視界に入ってきたのは、制服姿でイヤホンを外した蓮だった。
「……え、いるの?」
「おはよ」
「いや、おはよじゃなくて!わたし、今日、早めに出たのに!」
「知ってた。連休明け、陽葵そういうとこある」
にやっと笑うその顔に、
なんかもう、悔しさより先に笑ってしまった。
「……はいはい。じゃあ、行きますか」
そう言って歩き出したはずなのに――
「ねえ、ちょっとだけ走らない?」
「え、遅刻じゃないけど?」
「わかってる。……でもなんか、走りたい」
蓮は一瞬、目を見開いたあと、
笑って肩をすくめた。
「じゃあ、いくよ」
「……よーい、ドン!」
ふたりの足音が、通学路をかけぬけていく。
すれ違う風が、スカートをふわりと揺らして、
呼吸が追いつかないくらい笑った。
「ちょ、待って、マジで運動してないのに!」
「ならペースおとしてあげましょうか、姫」
「うわー、そういうとこー!」
でも、
並んで走る足音が、なんか気持ちよくて。
笑いながら登校するって、
こんなに“しあわせなこと”だったっけって思った。
学校の校門が見えたとき、
蓮がふっと歩調をゆるめた。
「……なんか、すごい朝だったな」
「うん。……あしたも、ちょっとだけ早く来よっかな」
「え、それ俺また早く出るやつじゃん」
「じゃあ今度こそ、わたしが先に待ってるから」
ふたりの笑顔が、
朝の空気を、少しだけキラキラさせてた。
【あとがき】
“走る”って行為、ふたりが“隣にいる”ことを再確認する魔法ですよね。
遅刻じゃなくても、走りたくなる朝。
心のなかがちょっとだけ弾んでる証拠です。
陽葵の“負けず嫌いの優しさ”と、蓮の“わかってて待ってる余裕”――
それがまざる朝は、もうそれだけで祝日です。




