8話 学園の教師たち
体が完全に回復した俺は医務室を出て、職員室へと向かった。
そして下層で起こった出来事を話し、そこで神級精霊と契約したことを告げる。
「それじゃあその精霊を見せてくれ」
学園長がいなかったから、教頭が音頭を取る。
その場には職員室にいた教師が集まってきている。
幻の神級精霊が見られるということで、興味がわいたということだ。
「ふん。どうせこいつの嘘に決まっている。おおかた幻影の魔法でも使って、そこらの下級精霊を大袈裟にみせているだけだ」
メリックはまだそんなことを言っていた。
その精霊の判定をいまからするのだから、待てばいいのに。
「出てきてくれ、フィオーネ」
『は~い』
フィオーネが俺たちの前に姿を現す。
「「「おお……」」」
その姿に、学園の教師陣から感嘆のため息が漏れた。
「人型か。初めて見たぞそんな精霊」
「フィオーネちゃんっていうの? 綺麗な顔ね……」
「さっき返事をしていたよな。言葉を喋れるのか?」
「どれだけ話せる? 返事をするだけ? 普通に会話はできるか?」
「神級かはともかくとして、とても面白い精霊だな。興味深い」
「くっ……! 先生方。何を感心しているのですか。こいつの幻影かもしれないことをお忘れなく!」
メリックがそう皆に言うが。
「いえ。先ほどから幻影魔法かどうか確認をしていますが、その類の魔法は発動していませんね」
眼鏡をかけた教師がそう言った。
「私はこの眼鏡で魔法の発動を感知することができるのでね。疑う気持ちもわかりますが、彼の精霊の姿は本物ですよ」
「くそ……! ならば次は級の判定だ。どれだけ図体が人に似て、言葉らしきものを話せたとして、それで中級程度の精霊ならば何の意味もない! こいつは1年かけてやっと中級と契約しただけのカスだ」
「彼は2年生でしょう。中級精霊と契約しているのは別に普通では?」
眼鏡の教師がそう指摘する。
そう。眼鏡の教師の言う通り、2年生ならば中級と契約しているのはおかしなことではない。
エリザやローランドだって中級と契約している。
なんなら2年生で下級精霊としか契約していない生徒も普通にいる。
そして彼らが劣っているかと言えば決してそうでもない。
生徒が中級精霊と契約を行えるのは2年生の中頃が大抵だ。
今の時点で中級精霊と契約しているなら早い方ですらある。
「それに、生徒に対してカス呼ばわりもいただけませんね」
「そんな御託はどうでもいい。教頭。早く奴の精霊の級の判定をして下さい」
「君の言葉使いには後で注意するとして。フィオーネさんの級を見てみようか。ランク・ジャッジメント」
教頭が呪文を唱えると、色めき立っていた教師陣が静まり返って教頭の方を注視する。
みんなも判定の結果が気になるようだ。
教頭は目を大きく見開き、一度目をごしごしと擦り、さらにもう一度目を見開いた。
そして、ポツリと呟く。
「し、信じられない。ほんとに神級だ……」
「「「おおーーー!」」」
その言葉で、先ほど以上の歓声が職員室に響いた。
「本当に神級か!」
「4体目の神級が現れるとはね。生きている間に見れてよかった」
「人型なのも神級だからかな? 関係ない?」
「魔法はどういうのを使うの?」
「空間魔法とさっき言っていたでしょう。どういうものか私もよくわかりませんがね」
わいわいと盛り上がる教師たち。
『みんな楽しそうだね。どうして?』
「フィオーネが神級だってわかったからだよ。神級は特別だから、みんな関心があるんだ」
『私がすごいから皆が私のこと好きってこと?』
「そういうことだね」
『へえー。そっか。でも私はマスターだけに好かれていればそれでいいよ。マスターは私のこと好き?』
「好きだよ」
『えへへ! 嬉しい! 私もマスターのこと好きー!』
フィオーネは俺の首に手を回して後ろから抱きすくめる。
体にフィオーネの柔らかい感触が当たっている。
俺も男だ。それを嬉しいと感じてしまうのはおかしなことではないはず。うん。
「流暢に喋っていますね。やはり知能は高いようです」
「人間でいえば10代くらいの知能は持っていますね。言動は少し幼いところはありますが」
「ていうか君たち仲いいね」
『仲いい? でしょー♪』
フィオーネはとっても嬉しそうだ。
その感情豊かな様子も教師たちにとっては興味深いようで、目を輝かせてこちらに質問してくる。
そんななかで、馴染めない男が一人いた。
「こ、こんな、ありえない。何かの間違いだ。こんな落ちこぼれなんかに! 神級の精霊なんて!」
メリックだ。
彼はフィオーネが神級という事実を認められないようだった。
というか、俺が神級精霊と契約できたことが認められないようだ。
「メリック先生。先ほども言いましたが、生徒に対してその言葉は不適切ですよ」
先ほど幻覚魔法が使われていないと指摘した、眼鏡の教師が注意する。
「それに彼はすでに精霊と契約した身です。それも神級の。それを落ちこぼれというのなら、私たち――いえ、この世に生きる全魔法使いが落ちこぼれということになりますね。どうやら貴方の優劣の判定は我々には少し厳しいようだ」
「――――」
彼の言葉にメリックは何も言うことができなくなった。
ぐうの音も出ないというのはこのことだな。
「ぐっ……。覚えてろ、貴様ら。後悔するからな!」
そう言って、彼は職員室を出ていった。
メリックにはこれまで「落ちこぼれ」「カス」など嫌味を言われたことも何度かあるし、俺が下層に落ちても見捨てようとした前科がある。
そんなメリックの鼻を明かすことができてちょっと気分がよかった。
「レイクラフト君。君とフィオーネさんに質問したいことがあるのだが――」
そしてその後、俺は教師たちから日が沈むまで質問攻めにあったのだった。