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5話 帰還②



 ベヒーモスに殴られて満身創痍の俺がどうやってダンジョンの下層から帰って来たのか。

 その方法は簡単で、空間魔法をつかったのだ。


 空間魔法の一つに空間転移というものがある。

 過去に行った場所、あるいは目で見える範囲の場所に行けるというものだ。


 それを使ってダンジョンの入り口まで帰ってきて、俺はそこをエリザに発見された。


 ダンジョンから帰って来た俺は、ひとまずその場にいた治癒系の魔法を使える生徒の治療を受けた。


 魔法を使った治療によってかなり痛みは和らいだ。

 体にある痣や擦り傷もなくなっているし、足の痛みもない。


 その生徒が契約しているのは中級精霊だ。

 「中級じゃ骨折は治せないから念のため帰ったら医務室に行け」と言われた。


 痛む箇所もないから大丈夫だと思うのだが……いや一応行っておくか。

 気づいてないだけで折れてる可能性もあるし。


 治療の最中はずっとローランドとエリザが付き添ってくれていた。

 ローランドとエリザは心配してくれていたらしい。

 特にエリザなんかは自分も下層へ行こうとしていたのだとか。


「悪いな。心配させちゃって」


「別にかまわねえよ」


「無事に帰ってきてくれたから許す!」


「ありがとう」


「しっかしお前よく帰ってこれたな。下層に行ったって聞いたけどほんとか?」

 

「ああ。本当だよ」


 そこで俺はジェイクのことを見る。

 俺と目が合ったジェイクはビビッて体をビクリと震わせる。


「な、なんだよ! 何見てんだよ」


「いや別に」


「別に、じゃねえよ。何だお前、下層から帰って来た程度でなに勝ち誇ってるんだ!」


「勝ち誇ってねえよ」


「は! 偉そうに! そもそも精霊と契約していないお前なんかがダンジョンに行くこと自体がおかしいんだよ。ただでさえ足手まといのくせに、一人はぐれて下層に落ちてさ。お前がいなくなったせいで皆がどれだけ迷惑したことかわかってんのかなあ? 謝って欲しい位だよ、ほんと」


「なによ。アルのこと見捨てようとしておいて偉そうに。あんたはアルのことを探しもせずにダンジョンの上層にいただけじゃない」


「そこの落ちこぼれが下層に落ちたことを報告してやったろ? それで十分じゃないか」


「すぐに報告もしないでのんきにダンジョン探索してたのはどこのどいつよ……!」


「やめてくれ。エリザ。もういいよ」


 怒り始めたエリザを止める。


「は、はは。そうだ。それでいいんだよ。随分身分をわきまえているじゃないか」


「勘違いするなよ、ジェイク。俺はお前を許したわけじゃない」


「ゆ、許す? なんのことだか――」


「さっきからずいぶん慌ててるな、ジェイク。もしかしてお前が俺の背中を押して下層に落としたことがバレるのが怖いのか?」



「な、なななな――」



「え? 下層に落とした?」


 エリザは俺の言葉に驚いて口をポカンと開ける。


「おい嘘だろ。いくらこいつでもさすがにそれはしないだろ」


 ローランドも、にわかには信じがたいらしく聞き返していた。


「な、なに言ってんだよ! そんなわけないだろ! 僕がお前を下層に落とした? 言いがかりはやめろ。証拠はあるのかよ! あるはずないよなあ!」


「なら学園長に確かめてみるか? あの人は相手が真実を言っているかわかる『判定』の魔法を使えるはずだ」


「は、はあ? 学園長がお前なんかのために魔法を使うわけないだろ? ば、ばかなこと言うなよ」


「試してみなきゃわからないだろ。学園に戻ったら俺の方から頼んでやるよ」


「止めろ!」


 ジェイクは思わず叫んで俺を止めようとするが、それは悪手だ。

 もうそれ、自分がやりましたって言ってるようなもんだからな?


「ジェイク……。本当にそんなことをしたの? 最低だとはおもってたけどここまでだなんて」


「お前それ、普通に犯罪だからな? となれば一緒にいた取り巻きのお前らも共犯か」


 犯罪という言葉。

 そして共犯という言葉に取り巻きの二人が恐怖で顔を青くする。


「い、いや違う俺たちは関係ない」

「そう。ジェイクのやつが勝手にしたんだ」


「ばっ、お前ら何を」


「いや見捨てた時点でお前ら一緒だろ」


 せめてその後に急いで教師のもとへ駈け込んで助けを呼んだり、あるいはその場に残って助けようとしていればその言い訳も成立したかもしれないが。


 しかし現実は俺を見捨てた上、エリザが言うにはその後には普通にダンジョン探索していたというのだ。

 これが共犯でなくてなんになる。


「あとダンジョンでお前らが去って行くときになんていったか俺は覚えているからな。そこで死んどけとか言ってたよな、お前ら」



 二人が俺に対して「ジェイクが勝手にやったことで自分たちは関係ない」と愚にもつかない言い訳を始め、それに対してジェイクが二人を罵り始める。

 

 いい加減話も通じないことだし、放っておいて学園に戻ろうかと思ったら。



「何を騒いでいるのだ。貴様ら」



 ダンジョンの授業の引率で来た教師、メリック・ネピアが俺達のところへ来た。



「貴様らの発する騒音で私を不快にさせるな」


「せ、先生! この落ちこぼれが!」


 ジェイクはバッと俺を指さす。


「この落ちこぼれが僕に対して言いがかりをつけてくるんです。下層に落とした、なんて」


「……ふむ」


 ジェイクの言葉を聞いたメリックは俺をジロリと睨みつける。


「なんだ。誰かと思えば魔法を使えない落ちこぼれか。そういえば貴様がいないと先ほどまでそこの小娘が騒いでいたな」


「それはお騒がせしてすみません。ダンジョンから帰ってきました」


「ふん。指定した時間までに帰ってくることもできないのかこの出来損ないが」


「ちょっと! そんな言い方――」


「いいって、エリザ」


 ここでメリック相手にまた口喧嘩したところで何も得られない。

 そもそもこの人のこういう口ぶりは今に始まったことじゃなかった。

 魔法が使えないからと、今まで嫌味を言われたことは数えきれないほどある。

 今更少し言われた程度では腹も立たない。


「貴様は下層にいたと聞いたがそれは本当か?」


「はい。本当です。下層からここまで帰ってきました」


「嘘をつくな愚か者が。魔法も使えない貴様がどうやって下層から帰ってこれるというのだ。おおかた少しばかり段差を下りたのを下層だなんだと騒いでいたところだろう?」


「いいえ。きちんと下層から帰ってきましたよ。それに、魔法を使えないというのは正確じゃありません」


「…………なに?」


「俺はもう魔法が使えます。ダンジョンの下層にいた精霊と契約して魔法を使えるようになったんです。ここまで、魔法を使って帰ってきました」


「ふっ。ふははははは! 嘘もここまでくると滑稽だな。下層に落ちたばかりか、そこで都合よく精霊を見つけ? そして契約をした? これまで一年間ずっと精霊と契約できなかった貴様が?」


「はい。これまで契約できませんでしたが、下層にいた精霊と契約することができました」


「ならば証拠を示してみよ! もしその言葉が真実であると証明できなければ、貴様を私が直々に処罰してやる。教師の前で嘘をつくとどういうことになるのか、その体にたっぷり刻み付けてやるぞ落ちこぼれ!」


「その落ちこぼれという言葉もこれで最後になりますよ」


 期待にお応えして、俺はフィオーネを呼び出すことにする。


「出てきてくれ」


『うん!』


 俺の言葉に反応してフィオーネは姿を現す。



 精霊は魔力でできた特殊な体を持っている。

 その体は霊体という姿を見えない状態になることができる。

 霊体化しているときは他者からは見えないし触られることもない。代わりに精霊も物をさわることはできない。

 しかし、常に一緒にいることは変わらない。


 人と契約している精霊は普段からそうしており、今この場にいる皆も契約精霊の姿を消しているだけでその場にいるのだ。


 姿を消すことは自由にできるならもちろん現すことも自由にできる。

 姿を現している状態を霊体化と対比して実体化と呼ぶ。


 フィオーネは全員の視線を受けながら、空中に姿を見せた。


 美しい顔立ちをしているが、体の端から少しだけ漏れ出る魔力の光が見える。

 それは彼女が精霊であることのなによりの証左だ。



「紹介するよ。俺の契約精霊のフィオーネだ」


『よろしくね』


 ニコリとほほ笑む彼女に、その場の全員があんぐりと口を開けて驚いていた。

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