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4話 帰還




「すぐに救助しに行くべきです!」


「なにを言っているんだ。そんな下らないことで私の手を煩わせないで欲しいね」


「くだらないこと!? 生徒が一人行方不明になっているんですよ!」


「その生徒は例の無能の落ちこぼれだろう? そんな奴の行方など、くだらないことだよ」


「し、しんでいるかもしれないんですよ!」


「だからどうした? 落ちこぼれの生死など、私にとってはどうでもいいことだ」



 場所はダンジョンの前。

 そこには魔法学園の生徒と、引率の教師がいた。


 魔法学園の2年生には4つのクラスがあり、その内の1つが今日ダンジョンに潜るという実技の授業を行っている。


 教師に食ってかかっているのはエリザ・リーリスという女生徒であり、アルバート・レイクラフトの友人であった。


 授業の内容はいたってシンプル。

 ダンジョンに潜って何体かの魔物を討伐するという授業だ。

 倒す魔物の種類も指定されていないしため弱い魔物を狩ってもいい。

 特に難しい課題じゃない。


 それにダンジョンに潜る時は2人~4人のチームでいくのが学園のルールであり、複数人で潜れば安全に達成できる簡単な実技の授業であった。

 エリザたちは授業で何度もこのダンジョンに潜っているが、大抵の者は無傷で授業を終えるし、無傷でない者でもかすり傷を超える傷を負った者はいない。


 とはいえ、それは上層にいるならばの話だ。


 このダンジョンの上層の魔物は大した強さじゃない。

 出てくるのはゴブリンやグレイ・ウルフなどの弱い魔物がほとんどで、たまに出てくる少し強い魔物だって中級精霊と契約している者ならば簡単に倒すことができる程度の存在だ。


 だが、下層からは話が違う。

 エリザはそこに行っていないので注意として聞いた程度だが、下層の魔物は上層とはくらべものにならないほどの強さを持っているらしい。

 オークやオーガなどの魔物ならばまだいい方で、ミノタウロスやアラクネといった歴戦の猛者でも手こずるような強力な魔物もいるし、果てにはベヒーモスといった会えばまず生き残れないとされている凶悪な魔物まではびこっているという噂だ。


 昔、自分の実力を過信した魔法学園の生徒の何人かが勝手に下層へ潜って全滅したという記録まで残っている。

 助けに向かった教師がみつけたのはぐちゃぐちゃになった死体だけだった。

 そして教師も魔物に襲われ、半死半生でようやく帰ってきたのだとか。

 その教師にしたって、特級精霊と契約していたかなりの強者だったはずなのに。


 それが理由でこのダンジョンでは下層に行くことは禁じられているし、またできないように出入口は魔法で封じられているはずなのだ。


 それなのに、とエリザは歯噛みする。


「どうしてアルが下層に行けるのよ! そしてそれを置いてきた!? ふざけるのも大概にして!」


 アルというのはアルバートの愛称だ。

 親しい友人はそう呼んでいる。


 エリザに詰め寄られたジェイクとその取り巻き達はにやにやと笑いを崩さない。


「そんなこと言われてもねぇ。あいつが勝手に足を踏み外して下層へ行ったんだ。それに置いてきたと言われるのは心外だなぁ。僕らはきちんと下層へ降りてはいけないってルールを守っているんだから」


「そうそう。それにこうしてきちんと助けを呼びに来てやっているし」


「まあ、先生は助ける気はないようだけど」


「だとしても、一人くらいはその場に残っていてもよかったんじゃないの!?」


「はっ、どうして僕らがあんな奴のために残らなくちゃいけないんだ」


「俺達も課題をこなさなくちゃいけないからな」


「課題――?」


 その言葉に、嫌な予感がしたエリザは3人を再度問い詰める。


「ねえ貴方たち、アルとはぐれたのはいつ!?」


「さあ。授業開始して少し経ってからはぐれたね」


「始まって一時間くらい後かな」


「一時間……!?」


 その言葉にエリザは愕然とした。


 授業が始まったのは朝の早い時間帯だ。

 そして今は夕方である。


 彼らの言うことが本当なら、アルバートがジェイクたちと離れてからもう6時間以上は経っていることになる。


(魔法の使えないアルが、下層なんかに6時間もいて無事なわけない!)


 魔法が使える者たちですら生き残ることは難しいのだ。

 使えないものは絶望的だ。


 エリザの顔が悲壮で青ざめていく。


「はは。まあまず生きてはいないだろうけど、そんな顔する必要はないよ。あんな奴が死んだところでどうってことないさ。魔法も使えないカスは、いずれこうなる運命だったんだ」


「いつまでもみっともなく学園にしがみつくからこうなるんだよ」

 

「さすがにダンジョンに行くのは調子に乗りすぎだよな。自業自得だっての」


「……この!」


 怒りで頭が沸騰しそうになったエリザはジェイクをぶん殴った。


「なにすんだよ、このアマ!」


「アルの悪口をやめろ! ふざけんな! 貴方たちのせいで――!」


「はぁ? 僕らのせい? 八つ当たりはやめてもらおうか。足を踏み外したのはアイツが間抜けだから、帰ってこれないのはアイツが弱いから。実力もないのにダンジョンに来る方が悪いんだよ」


「下層から返ってこれる生徒なんていないわよ!」


 らちが明かない。

 そう判断したエリザは、ダンジョンの方へと向かう。


「待ってて、アル。私が助けに行くから」


 そうだ。

 最初からそうすればよかったのだ。

 あんな奴らに構っているのはそれこそ時間の無駄だった。

 

 一分一秒を争う事態に、何をふざけていたのか。



 生存は絶望的。

 そう冷静に考える自分がいても、それでもエリザは諦めたくなかった。


「諦めない。諦めてたまるもんか……!」


 エリザとアルバートは長い付き合いというわけではない。

 一年生の頃に友人となってからの付き合いだ。


 だが、それでも彼が大切な友人であることには変わりない。

 命を懸けて助けに行く友人であることには変わりない。


 いつもは一緒にダンジョンに潜っていた。

 今日だって本当ならばいっしょに潜るはずだったのに、アルバートを助けようともしないあの役立たずの教師が彼とジェイクが一緒に潜るように言ってきたのだ。


 あんなこと、許すべきじゃなかった。

 無理を言っても私が一緒に行くべきだった、とエリザは考える。


「おい、エリザ待て」


「なに!? ローランドも私を邪魔する気!?」


 エリザを止めたのは彼女のクラスメイトのローランド。

 彼もアルバートの友人だった。


「邪魔はしねえよ。というかもう行く必要ない」


「必要ないってなに!? どういう意味!?」


 行く必要ない、なんて。

 助けに行くひつようがない、なんて。


 まるでもうアルが――。


「いや違うって。そうじゃない。絶対お前勘違いしてるだろ。必要ないって言ったのは、ほら、あれだよ」


 ローランドが指さした先はダンジョンの入り口のその先。

 ダンジョンの中だ。


 そこにいたのは。


「アル!」


 行方不明だったはずのアルバート・レイクラフトだった。



「おー。エリザとローランドか……」



 アルバートはボロボロで、その場に座り込んでいた。


「くそ。まずったな。入口じゃなくて入口の前に転移すべきだった」



「アル! アル!」


 エリザは彼の姿を見かけると、すぐに彼の元へと駆けだした。


「アル! よかった。よかったあああああ」


 エリザはアルバートを抱きしめ、涙ながらに彼の無事を喜んでいる。


 最悪の事態も覚悟していた。

 もう死んでいるかもしれないと、頭によぎった。


 でも生きていた。

 生きていてくれていた!


 それだけでエリザは嬉しかった。


「アル。よかった……! 私、貴方が死んじゃったんじゃないかって思って――」 


 喜びのあまり感極まってアルバートを強く抱きしめるエリザ。


「痛い痛いちょっとタンマ強く締めないでマジで」


 そして当のアルバートは感極まったエリザに強く抱きしめられたせいで、体の傷が痛み始めた。


「おいエリザ。気持ちはわかるが離した方がいいぞ。せっかく生きて帰ったアルが死ぬ」


 ローランドが見たところ、アルバートの怪我はかなりのものだ。

 とりあえず治癒系の魔法を使える生徒を呼ぶかとローランドはダンジョンの前にたむろしているクラスメイト達に声をかけた。







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