27話 エリザと二人きり
食事の後はローランドの買い物をすることにした。
「で、ローランドは何を頼んだの?」
「ええと」
確か来る前にメモを貰っていた。
それを見てみると、そこには「俺の魂が震えるもの」とだけ書かれていた。
「あいつ、私に協力する気ないでしょ!?」
「え? どうしたんだ? エリザ」
「なんでもない。なんでもないけど、ちょっとムカついただけ」
ふー、ふー、とエリザは怒鳴った時の勢いのままに深く息をする。
「私はローランド君とはあまり深い付き合いではないから、何が彼の要望に沿うものかはよくわからないけど、二人はわかる?」
「あいつとは一年の付き合いだけど、こんなメモを残す人間の考えなんてわかるわけない」
「魂が震えるものか……」
顎に手を当てて考える。
魂が震えるっていうのはよくわからんけど、要はあいつの好きなものを買っていけばいいんだよな?
ローランドが好きなもの。
つまり酒か?
「お酒でも買いに行く?」
思いついたものを二人に提案してみる。
「でもそれなんかつまんなくない?」
エリザはそれは不満の様だった。
「面白いかどうかの問題か?」
「ふざけた依頼をする人には、ふざけた解答を用意するものだよ。というかローランドもこれ完全にネタに走ってるから、安パイじゃなくてちょっと面白いもの用意した方があいつも喜ぶんじゃない?」
「面白いものって?」
クーデリアがエリザに向かって尋ねる。
「例えばほら、酒じゃなくて鮭を買っていくとか? 魚の方の」
「ダジャレじゃん」
「う。とっさに面白いものなんて思い浮かばなかったの!」
「無理に言わなくてもいいのに」
「だって、その、クーデリアさんが期待した目で見ていたから」
「ごめんなさい。プレッシャーだった?」
「い、いいのいいの。私が勝手に滑っただけだし」
「まあでもさ。面白いものにしたって魂が震えるものにしたって、今すぐには思いつかないよな」
どこに行くか悩むところだ。
「ならさ、中央にある大きな店に行かない? あそこはなんでもそろってるし、そこでなんかよさげなものを見ていこうよ」
エリザの言葉に俺もクーデリアも賛成したので、中央に行くことになった。
そして目当ての店に着いた後、手分けして探すことになった。
「しかし、あいつの好みね」
酒が好きなのはしっているから、ワイングラスでも買っていくか?
いや、あいつはそういう上品な飲み方はしないな。
どちらかと言うとジョッキをもってがぶがぶと飲んでいくタイプだ。
だったらジョッキでも買うか?
特に面白いものでもないが、あいつは喜びはするだろう。
エリザはなにか面白いものを買いたがっていたようだが、そういう風に物を決めるとなかなか決まらないんだよな。
「どう? 決まった?」
一人で考え込んでいると、エリザがすぐ横にいて話しかけてきた。
「ジョッキにしようかなと」
「あはは。やっぱお酒関連だ。ま、ローランドと言ったら酒だしね」
「土魔法のことも思い出してあげてくれ。今頃頑張っているだろうから」
「いやーそれはどうかな。美人の先輩に鼻でも伸ばしてるんじゃないかな」
「美人の先輩? あいつが言っていた先輩って女の人?」
「あーいや。そうかもしれないってだけ。可能性の話だよ。うん。そういうことにしといてあげよう」
「なんかよくわからないけど……」
「それよりさ、ジョッキ買うんでしょ? 見に行く?」
「エリザはなんか考えてる?」
「言い出しといてなんだけど、何も思いつかなかったの。だからアルと同じものを見ようかなって」
二人でジョッキが売っている場所に行く。
そこには土魔法で作られたジョッキが何個も飾られてあった。
こういったものは土魔法で簡単に作ることができるため、店にはたくさん売っているのだ。
特に魔法学園の近くにあるここらへんでは、土魔法の練習としてつくったものを店に売る学園生もいる。
そういったものを展示して、売っているところも少なくない。
この店もその少なくない売っているところだった。
陶器やガラスでできた形も色も美しいものもあれば、不格好で色も茶色なだけのものもある。
後者は学園生のものだろう。
こんなものが売れるのかという心配は無用だ。
学園生の作った、それも粗雑なものは恰好は悪いがそれでも安い。
世の中には飲めればそれでいいと考える者もいて、そういった人は不格好でもとにかく安ければそれでいいのだ。
ローランドもその類であったなと思う。
「なんか、ちょっと思い出すよね」
「何を?」
「ほら、一年生の時のローランドの誕生日のこと。あのときもあいつのプレゼントを買うために、こうやって二人で一緒に見て回ったよね」
「そういえばそうだな。あの時は何を買ったっけ?」
「ちょっと高いお酒買ったよ。でもあいつビールみたいにがぶ飲みするからなんかもったいないなあって思った」
「あいつらしいなあ」
ローランドはだいたいなんでも景気よく飲んでしまう。
ボトルでも渡そうものなら翌日の朝には空になっているのが常だ。
一緒に飲んでいる分には気持ちいいけど、酒を送る側としては物足りないと感じてしまう。
「アルはあのときとは変わったよね。精霊と契約できて、魔法が使えるようになった。ダンジョンの下層から帰ってきたり、決闘で勝ったりさ」
「ああ。フィオーネのおかげだな」
「アルがすごいって話をしてるの」
そういって、エリザは左手てぎゅっと俺の右手を掴む。
「そういえば、クーデリアさんと幼馴染だったよね。なんで言ってくれなかったの?」
「別に言うことでもないと思ってさ」
「でもアルとクーデリアさん、一年の間はほとんど親交なかったじゃん。それが急に、こんなに仲良くっ……」
「親交ないわけじゃないよ。ちょいちょい話してたんだけど」
「私そういうのぜんぜん知らない」
「二人がいない時に話してたんだよ」
「か、隠れて会ってたってこと……?」
「そういう意味じゃないよ。雑用とかで一人の時に、たまたま出くわしたら話してたってだけ」
「付き合ってはないんだよね?」
「前もきかれたけどそういうわけじゃないって。ただの幼馴染だよ」
「じゃあさ、女の子と付き合う予定ってある? 付き合いたいって思う?」
「うーん。今は魔法のことで精一杯だしな。当分の間はフィオーネとか空間魔法でかかりきりになるだろうからそういう余裕もないと思う。それに」
「それに?」
「いまみたいに、エリザとかクーデリアと一緒に遊べる機会が少なくなるのも嫌だからな」
「それって私とは恋人にはならないってこと? そんなに魅力ないってこと?」
「そういう意味じゃなくて、友達と遊ぶ機会が少なくなるのが嫌ってことだよ。ていうか、えと、手を……」
さきほどからエリザはずっと俺の手を握っている。
正直、気恥ずかしい。
「ご、ごめん。なんか握っちゃってた」
エリザはパッと手を離し、
「じゃあ私、別の見に行くから。変なこと言ってごめんね。じゃね!」
急いで店内をかけてどこかへ行った。




