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25話 街で買い物



 急にドタキャンしたローランドを置いて、俺達三人で街に行くことになった。


「さっきローランドとなに話してたの?」


「え? ええと、そう。ローランドが買ってきてほしいものを聞いてたの。あとで一緒に見に行こ!」


「そういうことか。しかしあいつも真面目になったな。尊敬する先輩のために休日に魔法の講習会に行くようになるなんて」


「……うん。そうだね」


 エリザはなぜかぎこちない笑顔で頷いていた。



「……ほんとは美人の先輩目的なんだけど、言わないでおこ」



「? 何か言った?」


 エリザが小声で何かつぶやいてたけど、上手く聞こえなかった。


「ううん、なんでもない。それよりさ、まずどこ行く?」


「二人が行きたいとこに行こうと思うけど。なにかリクエストある?」


「私は魔法に関するものが見たい」


 クーデリアの言葉に、いくつか店が思い当たる。


「ここらへんだと何個かあるよ。でもどういうものが見たいかによるな。魔術書とか、魔道具とか、アクセサリーとか、魔力を増やす食べ物とか、面白いものだと精霊に気に入られる香水もあるよ」


「詳しいのね……」


「魔法使いになるために必死にいろいろやりまくってたからね。身近に魔法に関する店があったら全部回ってたよ」


「精霊に気に入られる香水なんてあるんだ。どんな匂いなんだろ」


「匂いはいろいろあるけど、だいたいどれも普通の香水より薄い気がしたな。人間用じゃなくてあくまで精霊用なんだろう」


 エリザの疑問に対してそう答える。


「精霊って薄い匂いが好きなの?」


「薄い匂いというより、精霊が好きだという匂いの成分が人にとっては薄く感じるってことらしい」


 詳しい原理自体は俺も知らないけどな。

 そういうものなんだと納得することにした。


「効果はあるのかな? それつけていけば、精霊と契約できるようになったり?」


「それについては半々だって言ってたな。俺は効果なかった方だけど、効果があったって人も見た」


「私は精霊はカリオストロだけでいいから、そういった香水はつけなくてもいい」


 カリオストロとはクーデリアの契約している特級精霊の名前だ。

 銀色の毛並みを持つ狼の精霊である。


「上級以上の精霊と契約していても、下級とか中級と一緒に契約するのが普通らしいよ。クーデリアさんもそうしてみたら?」


「当分はカリオストロだけでいいわ」


「なら魔法関係の店はどこにいく?」


「魔導書が欲しいかな……」


「オッケー。なら魔導書専門の本屋に行こう。エリザはどこに行きたい?」


「私はアクセサリーショップに行きたいかなー。もしくは服とか」


「魔力増強のアクセサリーとか?」


「もう! そっちじゃないって! 私は普通のアクセサリーとか服がいいの!」


「え? でも、俺そういう普通の店はあんまり詳しくないんだ」


「なら私が案内するよ! 私に似合っているものを選んでね」


「それくらいお安い御用だよ。でもエリザは可愛いから、何でも似合うと思うけど」


「え……! ちょ、ちょっともう。可愛いって、なにを急に。もう、もう……!」


 エリザはポカポカと照れながら叩いてくる。


 そしてそれを見ていたクーデリアが、


「……私も、服がいい」


 と呟いた。


「え?」


 クーデリアがポツリと呟いた言葉に驚いて振り向く。


「わ、私も服のお店に行く。どれが、か、可愛いか、選んでほしい……」


「――! クーデリアさん。そう。そういう方向で行くんだ」


 クーデリアのその発言にエリザは衝撃を受けている。


「うん。私も……。私も、可愛いって思ってほしい」


「うう……。くそう、もうすでにめっちゃ可愛いんですけど。なにこれもうずるじゃん」


「でもクーデリア。いいの? さっき魔導書を見たいって言ってたけど」


「ま、魔導書は高いから。さすがに買ってもらうのは悪いと思ったの」


「別に構わないよ。遠慮する必要はないけど」


「いいの。魔導書は別にいい。自分で買うから。でも今度、一緒に店に行って、どれがいいのか教えてくれると嬉しい」


「ああ。それは構わないけど」


「ああー! なら私も一緒に行こうかな! ええと、香水! 精霊に気に入られる香水を選んでほしいかな! それも今度二人で行こうね!」


「え? うん。いいよ」


「約束ね。よーしそれじゃあ今日はおしゃれの日だ!」


「でも俺、あんまりそういうセンスとかある方じゃないんだけど。本当にいいの?」


「いいの! アルが可愛いって思うのが重要なんだから」


「うん。アルバートに選んでほしい」


「それならいいけど」


 服は女子たちで買いに行くという印象があったけれど、やはりこういうのは男性側の意見も聞きたいということなんだろうか。

 それならば納得である。



『人間っておもしろいね。好きなら好きっていえばいいのにさー』


 フィオーネが実体化してニコニコと笑いながらそう言った。


「どういうこと?」


「ちょっとフィオーネちゃん。あんまり余計なこと言わないでほしいかなって思うな!」


『はーい』


 フィオーネはエリザの言葉に頷いた後に霊体化した。



 

 というわけで、エリザの先導のもと服屋に向かうことになった。

 

「ここは最近の流行りを取り揃えている学園女子御用達のおすすめの店なんだよ」 


「う……。初めて知った」


 クーデリアが小さくつぶやく。

 彼女もこういうオシャレには疎いらしい。


 そういえば子供の頃も魔法の勉強一筋で、年頃の女の子っぽいものに興味を持っていた様子はなかったな。


「私とクーデリアさんは着替えてくるから、アルは待っていて。」


「わかったよ」


「下着も売ってるからあんまりきょろきょろしちゃだめだよ? 変な人に思われるから」


「しないってば」


 二人はそれぞれ服を手に取って試着室へ向かう。



 ここは女性用の服を専門で売っている店だ。

 エリザの言葉の通り下着も売っている。


 男の俺が一人になるとさすがに居心地が悪いと感じる。気まずい。

 

 ここはフィオーネを呼んで話すことで少しは気を紛らわせるか?


「フィオーネ」


『はーい。なあにマスター』


「フィオーネって服は欲しい?」


『服? もう着てるけど」


 彼女は服らしきものを身に着けている。

 さすがに全裸ではない。


 それはフィオーネが俺の元に現れた時から常時身にまとっているものだ。

 彼女にとって体の一部みたいなものらしい。

 服なのに。


「他の服が欲しいと思う?」


『ほか?』


 こてんと首をかしげて疑問を露わにするフィオーネ。


「例えば、そこにあるような服とかを着たい?」


 言ってから気づいたが、精霊の彼女は普通の服を着れるのだろうか。

 いや着替えること自体はできるだろう。実体化している間は。

 霊体化すれば服だけが取り残されることになる。


 霊体化にも対応できる精霊専門の服は……あるわけないよな。

 魔法が発達した現代でも、霊体化は人間には再現できないものだと言われている。

 それに合わせて霊体化する服もできてないのだ。


 仮に精霊用の服があったとしても、人型のフィオーネ用の服はないに決まっているから、市販のものは買えないだろう。


『マスターはこれを私に着てほしいの? マスターがして欲しいことならなんでもするよ』


「俺が着てほしいって訳じゃないよ。フィオーネが欲しいかどうかってこと」


『ならいらなーい。私が欲しいのはマスターだけだもん』


 そう言ってフィオーネはギューッと背中から俺に抱き着いてくる。


『こうしてるのが一番幸せなの』


「嬉しいことを言ってくれるね」


『えへへー。うれしいんだ? マスターがうれしいなら私もうれしい』

 

 すりすりと背中から俺の首筋にすりすりと頭をこすりつけてくる。

 少しくすぐったいが悪い気はしない。


「あの、お客様。お連れ様に服をお探しでしょうか?」


 フィオーネに抱き着かれている俺に向かって、店員さんが話しかけてきた。


「あ、いえ。この子の服を探してるわけじゃなくて、別の友人が着替えているのでそれを待っているんです」


「そ、そうですか。では他のお客様もいらっしゃるので、その、店内であまり抱き着かれるのは」


「……すみません」


 どうやら人目をはばからずくっつきすぎていたらしい。



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