23話 感想戦
「とりあえず何をやっていたか最初から教えてくれ」
というローランドの要望に応えて先ほどの模擬戦を説明した。
「直接人にかけることもできるのか。重力魔法ってすげえな」
「離れたところにいるから数倍の重力しかかけられないけどね。もっと近寄れば百倍の重力をかけることもできる」
それをすれば、人間など一瞬で肉塊になるだろうな。
「その重力魔法を空間固定でやり過ごしたあと、空間移動でクーデリアの元へ移動したってわけ」
「さっき使ったのは空間移動だったけど、もしかしてあの状況からでも空間断裂とかの攻撃系の魔法は発動できた?」
「できたよ」
空間断裂だけじゃない。
空間射出や他の空間魔法も発動できた。
そんなことをすればクーデリアが死ぬことになるから、使うことはなかったけど。
「つまり自分の身は守りながら敵に一方的に攻撃できるということね」
俺の回答を聞いてクーデリアは冷や汗を流す。
「おいおいマジの無敵じゃねえか。これじゃ俺の考えてた空間固定への対策も意味はなさそうだな」
「ローランドが何か考えてたの?」
エリザが意外そうに目を丸くする。
「おうともさ。俺の土魔法を使ってちょいとな」
「試してみる?」
授業の時間はまだある。
ローランドと模擬戦するくらいはなんてことはない。
「いやー今の話を聞く限り無理だな。効果ない」
「どんな対策を考えてたの」
「まずは俺が土魔法で攻撃する。もちろんお前は空間固定で壁を作るが、その壁は土で汚れて俺のことはみえなくなるわけだ。その隙に地面に潜って移動してお前の足元に行く。そしたら足元から壁のない無防備なお前を攻撃するんだ」
「地面を潜って移動するって。土魔法はそんなことまでできるんだ。文字通り泥臭い戦法だねぇ」
「おいおい、エリザ。これは土魔法の由緒正しき戦法だぞ。相手の視覚外に移動して安全に距離を詰めて近距離からの攻撃を可能とする。土魔法の歴史が変わったと言ってもいい戦い方だ。泥臭いなんて言っちゃ罰が当たるぜ。少なくとも炎魔法や氷魔法ではこんな戦い方はできないだろう」
「なにをー。氷魔法を舐めないでくれる? 地面に潜ることはできないけど、土魔法よりもっと便利で、すごい戦い方できるんだからね」
エリザは氷魔法の使い手である。
彼女の言う通り氷魔法はとても便利だ。
シンプルに氷で作ったものを飛ばすだけでも攻撃として有用だが、冷気を操れる特性上、氷魔法は相手の体を冷やして攻撃することができる。
冷気で食物の保存もできるということで、氷魔法は普段の生活でも重要だ。
「でもローランドさ、その由緒正しき戦い方がなんで通じないと思うの?」
「アル。答えてやれ」
エリザの質問をローランドは俺にふって来た。
「まあ、足と土の間の空間を固定して壁を作ればいいだけだからね。なんなら地面自体を固定すればそれで終わりだし」
「あ、そっか」
地面に潜って下から攻撃しているならば、下に壁を張ればいい。
「でもそれ、さっきのアルの戦いをみなくても気づけたような……」
「二つ同時に壁を作れるなんて知らなかったんだよ。一つだけだと思ってた」
「あ、それはそうだよね。無敵の盾を何枚も出せるなんて、ずるいな空間魔法」
「二人も似たようなことはできないの?」
土魔法も氷魔法も造形タイプの魔法だ。
壁を作ることはできると思うし、二枚三枚と作ることは可能なのでは?
「俺の土魔法で壁を作ろうとするとかなりの体積が必要になるんだよな。そんなに大きい壁なんていくつも作れない。っていうか一つも作れない。作れるとしたら腰の高さぐらいまでかな」
「私は氷の壁は作れるけど、一面だけ。二面以上にしようとしたら壁じゃなくて薄い膜になる。ちょっと叩いたくらいで割れるくらい薄いやつ」
「複数の壁を作るのって、そんなに難しいのか」
「そうだよ。必要な魔力量は単純に倍になるし、それだけじゃなくてコントロールがすっごく難しいの。右手と左手で違う字を書いて文章を作る感じかな」
「それは難しそうだな」
そんな高度なことをしていた自覚はないんだが。
「そういえば、アルは魔力のコントロールをどうやってしているんだ?」
「どうやってと言われてもな。なんとなくしているとしか言えない」
とりあえず魔力を貯めて放つ!
空間魔法を使っている時はそんな感じだ。
一応、メリックに向けて空間射出をするときは手加減したよ?
あれが手加減になったのかはわからないけどさ。
「アルバートの魔法で被害が大きいのって、コントロールができてないからおおざっぱに魔力を放つことしかできないからじゃない?」
「うっ……。そうかも」
クーデリアの指摘に、俺は何も返すことができない。
「ならこの授業中に魔力のコントロールをすればいいんじゃない? 私たちも協力するしさ!」
「おお、いいな。コツとか色々教えてやるよ」
「私も協力する。魔力のコントロールには自信がある」
「みんなありがとう!」
エリザ、ローランド、クーデリアの三人に教えられながら魔力のコントロールを始める。
さすがに攻撃魔法でそれをやるのは被害が出る可能性があるから使うのはもっぱら空間固定だ。
狙った場所に、狙った大きさの空間を固定するが、これが結構難しい。
どうしても狙いよりも大きく固定してしまう。
「一日で全てが上手くなるわけじゃない。時間はかかるかもしれないけど、アルバートが魔法を上手く使えるようになるまでずっと一緒にいるから。がんばろう?」
「クーデリア……」
「はいはい! アル、私も一緒にいて魔法が上手くなるように協力するよ。だから二人だけの空気になるのちょっとやめよっか? そういうのは私にだけやってほしい」
「あ、ああ。エリザもありがとう。エリザみたいないい友達がいてくれて嬉しいよ」
「友達……。まあ、嫌じゃないけど、今はそれでいいけど……」
エリザがうつむいてぶつぶつ小声でなにごとかを呟く。
「空間固定が終わったら、次は他の空間魔法で魔力のコントロールを試したいな。空間断裂や空間射出以外にも、空間捻転とか空間爆破とか」
「恐ろしい単語が聞こえたんだけどよ。特に最後」
「空間爆破のこと?」
「えっと……それってどんな魔法? 安全な魔法じゃないことはわかるけど」
「一定の空間をまるごと爆破させて中のものを粉々にする魔法だよ」
「アルバートは何と戦うつもりなの?」
クーデリアが額を抑えながら嘆息する。
「魔力をコントロールすれば被害を少なく抑えられると思うんだよね。だから練習したいんだけど」
「そのコントロールまでの間にどれだけ被害が出ることやら」
やはり当分の間は空間固定のみでコントロールの修練をするということがその場の総意となった。
ちなみに、その当分というのがどのくらいの期間なのかは三人は口をにごしていた。