21話 クーデリアと模擬戦①
「君は攻撃系の魔法を使うの禁止ね」
「はい」
「頼むから本当にやめてくれよ? もし当たったら怪我じゃすまないんだからね? もう俺の手には有り余るよ? しまいにゃ泣くよ? 大の男が。生徒の前で」
「しません。しませんから、軽率な行動してすみません」
泣きそうになっている教師からの言葉に返事をして、俺はローランドとエリザの元に戻る。
魔法の威力が大きすぎる俺は授業中の模擬戦にて他人を攻撃してはいけないと制約をつけられた。
「びっくりしたー。急に大きな音出すんだもん。なにかと思ったよ」
「ごめんエリザ。ひとこと言ってからにするべきだった」
人に向かって放ってはいなかったとはいえ、俺の魔法は周りに与える影響は大きい。
音も衝撃も風も普通とは比べ物にならないのだ。
軽々しく行動してしまったな。反省しよう。
魔法の実技で魔法を使ってはいけないわけではないし、物をこわしたわけでもないから教師からも説教はされなかった。
説教はされなかったが、あれはもはや嘆願に近かったとおもう。
「なあアル。さっきの魔法すごい音したよな。あの轟音って昨日も聞こえたんだけど、もしかしてあれもお前の魔法か?」
「うん。昨日ちょっとね」
「ちょっとって。何したんだよ」
「いやー大したことないよ。ほんのちょっと研究棟を壊してしまったくらいで」
「ちょっとで済む範囲かそれ?」
「仕方なかったってやつだ。それについては後で話すよ」
それを説明するにはまずメリックに呼ばれたところから話さなきゃいけなくなる。
別に長い話でもないが、授業終わってからでいいだろう。
ああ、そうそう。
メリックがどうなったかというと、彼は教師を解雇されたらしい。
まあ生徒に薬を盛った挙句に模擬戦で殺そうとしたんだから当然だよな。
余罪もあるかもしれないから後で俺に詳しく話を聞きたいと、今朝教頭が来て連絡してくれた。
学園長も既に帰ってきているらしいから、メリックの話に合わせてジェイクに下層に落とされた件についても話をしよう。
どうもダンジョンの下層に落ちてからというもの、メリックとジェイクの動きはおかしい。
ジェイクの方は俺に下層に落とされたことを口封じしたいだけだと納得できるけど、メリックがそれに合わせて動いている節を感じる。
もしかして二人は共謀していたんじゃないかと思っているが、考えすぎかね。
「後で話すのはいいにしても、今聞きたいのはあの轟音の魔法についてだぜ。結局あれは何なんだ? 俺、近くにいたのにまったく見えなかったけど」
「あれは空間射出って言って、固めた空間を放つ魔法だよ」
「音がしたのはなんで?」
「高速で空間を放つから衝撃で音が出るんだ。ほら、風魔法でもそういうことってあるだろ?」
「いやあるけどさ、規模が全然違うだろ。あそこまでの音じゃなかったが」
「まあそこは神級魔法だから」
「それで納得するしかないのか……」
そうとしか言えないのだから納得してもらうほかない。
「さっき先生となに話してたの? やっぱりさっき使った魔法のこと?」
エリザの質問に、うんと頷く。
「俺は授業で攻撃系の魔法を使っちゃいけないってさ」
「え? じゃあ他に使えるのって」
「空間固定と空間移動だけだな」
「それ模擬戦できるの? 無理そうじゃないかな」
「だよな。模擬戦といっても防いだり動いたりするだけじゃ倒せねーぜ?」
「別に倒す必要はないと思うけど。実戦じゃないし。防ぐだけでも実技の意味はあると思うよ」
敵の攻撃を防ぐというのも魔法を鍛える上で重要なことだ。
土魔法で作った盾の耐久性をあげるために魔法を工夫したりとか。
とはいえ、鍛えるといっても俺の空間固定はなんでも防げる壁である。
耐久力という面ではもうすでに最高値でありこれ以上鍛えようがない。
「アルバート。ちょっといい?」
話をしていると、クーデリアが俺たちの元へやって来た。
今回の授業は2クラス合同授業。
クーデリアのクラスと一緒に実技を行っている。
ちなみに、クーデリアのクラスの人たちは……。
「あの恐ろしい魔法をつかったアルバート・レイクラフトに話しかけに行くなんて」
「さすがはクーデリア様だ。勇気がある」
「ああ、その勇敢で誇り高いお姿! クーデリア様ファンクラブ156号として感服いたします」
俺たちを遠巻きにしながら尊敬のまなざしをクーデリアに向けていた。
危険な魔法を使う俺には近づきたくない。
そしてそんな危険な魔法を使うクーデリアはすごい。
そんな図式が出来上がっている。
まあそれは別にいいけど、聞こえてきたファンクラブ156号っていうのなんだ?
クーデリアにファンクラブできてんのか。
将来有望の神童とはいえ、一生徒なのに。
あと一生徒にしては数が多くないだろうか。少なくとも156人もいるって。
「どうかしたの? 私の後ろをじっと見て」
「いやなんでもないよ」
クーデリアのクラスメイトやファンクラブについてはどうでもいいので一旦置いておくとしよう。
「さっきはごめんね。いきなり大きな音をさせて驚かせちゃった」
「それはいい。ただ大きな音がしただけでしょ?」
「暴風も吹いてたけど」
「別に私たちが吹き飛んだわけじゃない。とにかく私はなんとも思っていないから」
「それは何よりだけど、じゃあ何の用事?」
「何の用事って。今は模擬戦の授業よ。やることは模擬戦でしょ?」
「マジかよ。あれを見て模擬戦を申し込むなんて。クーデリア様すごいな。ファンクラブ243号として鼻が高いぜ」
ローランド。お前もファンクラブだったのか。
そして多いなファンクラブ人数。
「模擬戦はいいけど、俺はさっき攻撃魔法を使わないように先生に言われたんだ。だから俺は防ぐが逃げるかだけになるけどいい?」
「かまわないわ。それにそっちの方が安心できる。さすがに私もあの攻撃に向かい合う勇気はないから」
というわけで、俺がクーデリアの攻撃を防ぐだけという形で模擬戦は始まった。
エリザとローランドはこのまま観戦するらしい。
二人そろっているなら二人で模擬戦でもした方が良いのではと思うのだが。
「いやもうこいつとは何度も模擬戦してるしなー。慣れた相手だし、手の内はわかってるし、いまさらやったところで意味があるとは思えん」
「それは同感ね。ローランドとやるよりもアルとクーデリアさんの戦いを見てた方が学びがあるわ」
とのことで少し離れたところで見ることにしていた。
エリザとローランドだけでなく、遠巻きに見ている生徒もちらほらいる。
近くで見ればいいと思うが、やはり空間魔法にビビっているのだろう。
害もないし、特に気にしないことにする。




