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19話 特別課題②


「は?」


 メリックは自身の魔法が防がれたという事実に驚いているが、俺自身も驚いている。

 薬の影響で魔法が発動できないのでは?



「外れた? そんなまさか……。ならばもう一度だ。『テンペスト・カッター』」



 メリックは再び攻撃を放つも、それも固定された空間の壁に防がれて無意味に終わった。


 二度も攻撃を防がれた。

 その事実にメリックはさすがにその可能性に思い当たる。


 俺が魔法を使えるという可能性に。



「これはまさかジェイクの炎を防いだ魔法? いやまて、そもそも貴様はなぜ魔法を使える? もしかしてあの職員め、しくじったか?」


 『鑑定』とメリックは唱える。

 それは、相手の状態を把握する魔法だ。


 メリックは俺の状態を確かめ、そしていぶかし気に眉を顰める。


「確かに薬を飲んでいる。魔力を練られないようになっているはずだ。ならばなぜこいつは魔法を使えるのだ」



『当たり前よ。私のマスターをそこら辺の魔法使いと一緒にしないで?』


 声と共にフィオーネがその姿を現した。

 

「き、貴様は神級精霊……!」


 いきなりの出現に、メリックはたじろぐ。


「な、なんなのだ。貴様が何かをしたのか!?」


『何もしてない。貴方のくだらない策が失敗したのは、私がなにかしたからじゃない。マスターが特別だから』


「なんだと!? こいつの何が特別だというんだ! たまたま神級精霊と契約できただけのクズのこいつが――」


『なにもわからない人間がマスターを馬鹿にするなんてこっけいね? マスターは普通の人よりもずっと多くの魔力を持っているの』


 フィオーネの言葉は昨日言っていたことを指しているのだろう。


 確か、普通の魔法使いがコップとかバケツくらいの魔力量だとしたら、俺は海くらいの魔力量を持っていると言ってた。


 海とは。

 規模が大きすぎて想像もつかないレベルの話だ。


「でもそれでなんで魔力を練られなくする薬に打ち勝てるんだ」


『魔力の量が多すぎるから必要な薬の量が足りないってだけ。どんな薬をどれくらいマスターに飲ませたのかしらないけど、それって普通の魔法使いが影響を受ける程度の量でしょ? 少なすぎる』


 

「量の問題だったのか……」



 まあ、言われてみれば納得だ。

 

 フィオーネが言った比喩を基に考えると、俺の魔力は普通の人の何千倍、何万倍の規模だ。

 確かに普通の人と同じ薬を飲んで同じ効果が出るとは思わない。


 ネズミ用に用意した量の薬をゾウが飲んでも効果がないようなものだ。

 大きさが違いすぎるがゆえに、必要な摂取量が全く異なる。

 ゾウからすれば少なすぎるために何も感じることはない。


 そして俺と普通の人の魔力量の差は、ネズミとゾウの体格差よりもずっとかけ離れている。


『マスターの魔力を練られないようにするためには、マスターの体重よりもずっと多くの薬を与えないとダメ。そんなに飲ませることはできないけどね』


 当たり前だが、体重より多くの量の液体を人は飲むことなんてできない。

 つまり、メリックの用意した薬とやらを用いて俺の魔法を封じることはできないのだ。


『わかった? あなたの策は最初から失敗していたの』



 フィオーネのその言葉にメリックは愕然としていた。


「な、そんな馬鹿な……。私の完璧な計画が!」


「その完璧な計画がいま崩壊したわけだが。ていうか、じゃああの胸の違和感は何?」


『へんなもの飲んだからなんか違和感あったんじゃない?』


「どうなの?」


「俺が知るか! そんなこと!」


 メリックに尋ねると、メリックは悔し気に顔を歪ませる。


「それについては後であの医務室の治癒師にきいてみるか」


 詳細の不明な薬を飲んだのだ。

 魔力に影響がなくても体に不調がでるかもしれない。

 後で治癒師に体を見てもらうことは必要だろう。


「それはそれとして、じゃあ続きをやるか」


 俺は手をメリックに向けて広げる。

 そして、魔法を放つべく魔力を貯め始めた。


「お、おい待て。何をしている。貴様……!」


「いや先生。だってまだ課題は終わってないよね? 模擬戦の途中なんだから、勝負がつくまでやらないと」


「勝負だと!? ふざけるな、貴様の魔法などくらったあかつきには――」


 メリックがその先の末路を想像して顔を青くして身を震わせる。


「安心してください。空間断裂は出しませんよ。俺も人殺しになるつもりはありませんので」


 あれは威力も攻撃範囲も大きすぎる。

 放てば確実にメリックを殺してしまうだろう。

 

 向こうが俺を殺そうとしてきたのだから殺されても文句は言えない、と言うことはできるかもしれないが、さすがに殺人の罪悪感まで背負いたくない。


 それにこんな奴でも教師だ。

 それを殺してしまったとあってはさすがに問題になる。


 だから俺が放つのは、空間断裂よりは威力も範囲も低い魔法だ。


 空間射出ならばまだ威力は低いから死にはしないはずだ。


 いやまて。

 確かあの魔法はベヒーモスを殺して、しかも壁に穴まであけていたような。

 

 まあ、外せば問題ないか。

 空間射出の衝撃なら、直撃しなくてもそれなりにダメージは受けそうだし。


「この一発で許してあげます」


「ま、まて、わかった。わかったからちょっと待て! 課題はごうか――」




「空間射出」




 なにか言っていたような気がするが、待つ気はない。

 俺はメリックの体から少し離れたとこに向かって空間射出の魔法を放つ。



 どごおおおおおん、という轟音が響いて、空間射出が当たったメリックの研究室の壁が吹き飛んだ。

 その余波で研究室内の机や椅子も吹き飛び、そしてついでにメリック自身の体も吹き飛び、建物内から放り投げられた。



「やっぱ威力大きいなあ……」



 研究室の壁は壊れ、研究室の中も嵐が来たかのようにぐちゃぐちゃになっている。物は壊れるか外にはじき出されていた。


 研究室の外は平気だろうか。

 一応この研究室は5階にあるし、俺が放った先の壁は外に面しているから直線上に人はいない。


 5階から放り投げられたメリックは大丈夫か?

 まあ彼も魔法使いだからこの程度では死なないだろう。

 たぶんね。



「いまの衝撃はなんだ!」



 そして、ここまで激しい行為をしてその行動が他の人にばれないはずもなく。

 研究室内に教師や生徒が集まって来た。



「やべ」


 このあとのことまで考えてなかった。

 昨日に続いて、今日も学園の建築物を破壊してしまった。

 しかも今日は校舎を壊したのだ。


 おとがめなしなんてありえないよな……。



「すみません。俺がやりました」



 ここは素直に謝ることにしよう。


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