18話 特別課題①
決闘の翌日にも授業はある。
例えそれが祝勝会として飲み会で騒いだ翌日のことであっても、授業はあるのだ。
ローランドは昨日も潰れるまで酒を飲んでいた。
二日連続で潰れるまで酒を飲んだローランド。
彼は二日連続で学園に来ることはできなかった。
今朝は学校に来ていない。
遅刻か休みか。
成長していたと本人は昨日言っていたのだが、どうやら気のせいだったらしい。
悲しいなぁ。
エリザもクーデリアもきちんと朝登校できていたこともあり、余計にローランドの自己管理の甘さが目立つ。
またジェイクも学校を休んでいた。
クラスメイトにきいてみたら、ローランドが昨日言っていた通り、治療院に入院することになったらしい。
ジェイクの取り巻きも学校に来ていない。
ジェイクの見舞いに行っているのか、それとも頼りのジェイクを休んでいるから気まずくて学園に来れないのか。
●
授業が終わり放課後になった。
俺は放課後にメリックの研究室に呼ばれている。
「よく来たな。落ちこぼれ」
そして研究室にやって来た俺を出迎えたのは、メリックの罵倒だった。
「…………」
いきなりの言葉に呆れで声も出ない。
この人は常に俺のことを落ちこぼれと呼ぶ。
これまでは精霊と契約できず魔法を使えないからその言葉も受け入れざるを得なかったが、もう俺は精霊と契約した身だ。
落ちこぼれではない。
「メリック先生。俺はもうフィオーネと契約しています。落ちこぼれと呼ぶのはやめてください」
「ふん。学生の分際で教師の言葉に反論するとはな。精霊を手に入れた途端に調子に乗るとは。嘆かわしい。このような下劣な品性の持ち主が魔法学園にいるという事実だけで気が滅入る」
「そもそも教師が生徒に対して落ちこぼれと呼ぶことが問題だと思いますけど」
「ほう、問題とは。随分生意気な口を利くようになったな。教師として、生徒のその態度は改めさせる必要がある。貴様には特別課題をこなしてもらおう」
メリックが手を振るうと、そこにあった机や椅子が研究室の脇へとずれる。
メリックの使う風の魔法によるものだ。
「場所はここでやってもらう」
「構いませんが……机をずらしたっていうことは、筆記の課題ということではないですよね?」
「当り前だ。今からやるのは実技の課題だ」
実技とは、魔法の実技のことだろう。
研究室はそこそこ広いから、魔法を放っても問題ない。
だがそれは普通の魔法の話だ。
やたら威力の大きい空間魔法がこの研究室を壊してしまわないか不安である。
「貴様が少しばかり特殊な精霊と契約して、調子に乗っていることがわかった。しかし貴様がこれまでろくに魔法の実技の授業をこなせていなかったことは事実だ。ならば、課題をやってもらうことは別におかしなことではあるまい?」
それは確かにその通り。
俺は今まで実技の授業に参加できなかった。
参加した時も、エリザやローランドに頼り切り。
そのツケは払う必要があるだろう。
「課題とはなんですか?」
「私との模擬戦だよ。『ウインドカッター』」
ビュン、と風の刃が俺の元へ飛んでくる。
とっさにしゃがみ込み風の刃を避ける。
「いきなりなにを!」
「模擬戦と言ったろう。耳まで悪いのか落ちこぼれ」
「くそ! せめて合図をは必要でしょう!」
「ふん。貴様にはそんなものさえ過ぎたものだ」
言いながら、メリックが再び魔法を放とうとしていることがわかる。
さすがに、二度三度と飛んできた刃を避けることはできない。
俺は空間固定を使おうとして――。
「あれ?」
と、そのときに体に違和感を覚えた。
なんだ?
胸のあたりが何かがおかしい。
胸の中で何かがひっかかっているような気分になる。
「ふはは! ふはははは! ようやく気付いたようだなぁ、落ちこぼれ!」
俺が体の不調に顔をゆがめると、メリックが大笑いで話し始めた。
「なんだ? なにを知っている? いや、何かしたのか」
「当り前だ。貴様自身は落ちこぼれのカスではあるが、貴様の魔法は少しばかり厄介だ。そんな相手に、この私が真正面から挑むと思うか?」
得意気なその様子に、これがただの模擬戦や課題ではないとわかる。
いや、俺の首をウインドカッターで狙った時点でそれは明確だったろう。
「何をした……?」
メリックに何かをされた覚えはない。
この研究室にきてまだ数分も経っていないのだ。
何かできるはずがない。
「薬だよ。魔法使いを無力にさせる方法はたくさんあるが、これが一番やりやすい」
「薬!?」
「貴様に飲ませた薬は、魔力を練られなくするものだ。魔力を練られなければ魔法も使えん。無力だった数日前までの貴様に逆戻りだな? 気分はどうだ? ん?」
「いつ、俺にそんなものを……?」
メリックが俺に薬を飲ませることなんてできるはずがない。
そもそも何かしらの薬を飲んだ覚えはない。
食事にでも混ぜたのか?
いや、メリックが俺の食事に何かを混ぜる隙はなかったはずだ。
「貴様にそれを教える必要はない。さあ、さっさと死ね。『テンペスト・カッター』」
メリックの魔法が来る。
テンペスト・カッターは威力も速度も攻撃範囲もウインド・カッターを超えるものだ。
さっきのように避けることなんてできはしない。
万事休すか――?
『マスター』
その時、フィオーネの声が聞こえてきた。
『マスター。大丈夫だよ。あんな奴の言葉なんて無視して。私を信じて、呪文を唱えて』
「空間固定!」
フィオーネのその言葉が聞こえたとたんに、俺は呪文を唱えた。
体の違和感はまだ取れない。
薬の影響はうけたままだろう。
メリックの言葉通りなら、魔法は発動せずに俺の行為は無駄になる。
だが、そんなことはどうでもいい。
「契約精霊が信じてって言っているんだ。信じないわけないよな」
信じて魔法を放つ。
すると――空間魔法が、発動した。
空間固定でできた壁がメリックの魔法を防ぐ。
「は?」
魔法によって俺が切り刻まれていないという事実に、メリックは目を丸くして驚いていた。




