16話 決闘②
ちなみに、こうして会話している間もジェイクによる魔法の攻撃は続いている。
「な、なんだよ! なんなんだよぉ! なんで効かないんだあああああ!
しかしその炎の全ては空間固定で作った壁に防がれていた。
俺のもとには火の粉の一欠片さえ届いていない。
ジェイクはただ、効きもしない魔法をうち続けていただけだった。
「くそ、なんだか知らないけどさぁ! 正面からの攻撃が効かないなら、上からなら!」
と、俺の真上を見上げてジェイクは呪文を口にした。
「現れろ! 炎龍!」
そこに出現したのは、炎でできた巨大な龍だ。
何メートルもあるだろう巨体がとぐろを巻いて俺の上に存在している。
「すごいな。上級魔法はこんなのもできるのか」
先ほどまでの炎爆球よりもずっと強力な魔法だろう。
火力だってずっと上のはずだ。
人間どころか家一つ燃やし尽くすほどの火力がそこにはあるだろうな。
ジェイクを弱いとは思っていなかったが、ここまで強い魔法を使えるとは思っていなかった。
さすがにこれには驚いたよ。
「僕の最強魔法だ! これで消し炭になれ落ちこぼれがあああああ!」
炎龍は真下にいる俺に向かってつっこんでくる。
逃げることも防ぐことも、普通は難しいのだろう。
「でも俺なら防げる。空間固定」
頭上の空間を固定して、そこに大きな水平の壁を作った。
炎流は見えない壁につっこみ、壁の上だけに炎を撒きちらして、その姿を消した。
その勢いはすさまじいものだった。
だが、全てを空間固定で防いだ俺にはなんの傷もなかった。
「う、うそだろ。僕の炎龍が。最強魔法が……」
ジェイクは愕然として、その光景を見つめていた。
自身の最も強い攻撃が防がれたことが信じられないのだろう。
さぞや自信のある魔法だったそうだし、実際に高火力のすさまじい魔法だった。
ただ、空間魔法はその上をいったというだけだ。
「は、はは。どうやら防ぐことは得意らしいな。そうか、お前の魔法はそういうものか。なんでも防ぐ防御専用の魔法だ。そうだよな。じゃなきゃ僕の炎龍をふせぐことなんてできやしない!」
「なんか勘違いしているな、あいつ」
空間魔法が防御専用の魔法?
そんなちゃちなものであるはずないだろう?
「防御は得意なようだけどさあ! それしかできないんだったら意味ないよねえ! これは決闘だ。相手を倒さなきゃ、攻撃しなきゃ意味がないんだよ! 馬鹿が!」
「そうか。なら攻撃しよう」
「は?」
呆けた顔をして動きが止まるジェイク。
俺は頭の中に埋め込まれた知識の中で、空間魔法のうちからどれを使うのかを選択する。
魔法の発動のための呪文を口に出し、己の中の魔力を放出させる――。
「空間断裂」
その瞬間、世界が斬れた。
目の前に広がる闘技場が横に斬れる。
少し前まで闘技場だったものは切断面から上が横にずれて、地面へと崩れ落ちた。
空間断裂は、空間を斬る魔法。
空間を斬るものなので当然防ぐことはできず、あらゆるものを切り裂く。
まさに絶対なる刃だ。
ジェイクにそれをうてば死んでしまうので、脅しとしてその上を狙って撃った。
いやでもまさか、闘技場ごときれるなんて思ってなかった。
攻撃範囲が広すぎる。
「「「…………」」」
その場の全員が誰も何も言わなかった。
俺も、ジェイクも、立会人のメリックも、見物していた生徒たちも。
その威力の大きすぎる攻撃の衝撃に、だれも何も言うことが出来なくなっていた。
一拍のあと、ドサリという音がしてジェイクは倒れた。
「えと、まずい。当たってた?」
あんなのが当たってたら死んじゃうよ。
『違うみたい。あれ見て』
ジェイクのズボンの股間あたりが濡れて始め、液体がこぼれだしている。
失禁してしまったようである。
よかった。気絶しただけだ。
「メリック先生。勝負はつきましたよね?」
「え? えと、いや、だが……」
メリックはなぜか逡巡している。
いや、相手が気絶したならもう勝利でいいと思うけど、なにをまごついているんだ。
「お、おい。起きろジェイク! 何をしているのだ貴様は。このままでは計画が――」
「計画?」
「い、いや。なんでもない」
「…………」
さっきからおかしい。
不審な点あるな。
とはいえそれはおいといて、このままでは埒が明かない。
気絶させても勝利宣言を行わないなら、降参させるために起きるのを待つか、殺すしかなくなるんだけどな。
今から起きるのを待つのは面倒だし、殺すのも得策ではない。
さすがに学園で人死にを出すことが問題だと思う程度の倫理観はある。
なら、ちょっとずるいけど脅す方向で行くか。
「メリック先生。決闘を続けても良いんですか? これと同じ威力を俺はあと百回以上出せますけど」
「ひ、ひゃく!?」
「ええ。撃ちまくります。観客席の生徒は逃げればいいですが、その間、メリック先生は闘技場で俺とジェイクの決闘の立会をしなければいけません。俺はまだ魔法の扱いが下手なので、あらぬ方向にとんでしまうかもしれませんね」
「き、きさま。きょ、教師を脅すつもりか……!?」
「早く勝敗をつけてしまえばその必要もなくなるんですけどね」
悠長に目覚めるのを待ってやるほど俺もお人好しじゃないんだ。
さっさと終わらせて、残りの時間を魔法の訓練にあてたい。
「ふ、ふざけるな。立会人を脅すようなやからは敗北だ。敗北」
あ、そうくるのね。
なら勝敗がつく前にこっちも魔法を放つか。
「空間断れ――」
「わ、わかった。勝利を認める! 勝者、アルバート・レイクラフト!」
俺の脅しが功を奏したようだ。
立会人のメリックが俺の勝利を宣言し、決闘は終了した。
「「「…………」」」
空間断裂の威力と、今のメリックとのやり取りを見ていた生徒たちはドン引きしていて、俺の勝利に歓声をあげることはなかった。
む。決闘が終わったら観客はみんな決闘を称えて歓声をあげるというのがマナーなのに。
いやでも、今の光景を見てたらさすがに何も言う気力はないか。
『わーい! 勝ったー! やっぱりマスターはすごーい!』
その場ではフィオーネだけが、無邪気に俺の勝利を祝ってくれていた。




