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15話 決闘①



 闘技場に出て、少し離れた距離にいるジェイクと向かい合せに立つ。


 ジェイクのいるところまで数メートルといったところか。

 昨日のベヒーモスよりかは近い距離だな。


 立会人であるメリックは壇上で二人を見下ろしていた。



「では互いに、決闘前の宣誓を行え」




「「我ら魔法使いなれば、持てる力を全て用い、己の誇りにかけて正々堂々と戦うことをここに誓う」」




「よろしい。では決闘開始だ。よき戦いを」



 メリックからの宣言で、決闘が始まった。



「闘技場で僕を無視したばかりか僕を愚弄する言葉まで吐くなんて。少しばかり格の高い精霊を手に入れてずいぶん調子に乗ってくれたじゃないか」


 ジェイクが手のひらをかざす。

 

 そこに魔力が集まってくるのがわかる。

 強力な魔法を放とうとしているようだ。


「教えてあげよう。魔法に重要なのは精霊の格じゃない。それを扱う者の技量だよ。精霊を手に入れたばかりで魔法の修練がおろそかな君が僕に勝てるわけないんだ」


 ジェイクが扱う魔法の種類はよく知っている。 

 上級の火炎魔法だ。


 その名からわかる通り炎を操る魔法であり、上級ともなれば人一人が余裕で炎に包まれるほどの大きい炎を出せる。

 そんなものが人に当たれば、まず生きてはいないだろう。


「アルバート・レイクラフト。君は運がいいよ。ほんとは苦しめていたぶりながら殺そうかと思ったけど、僕は優しいからね。一瞬で殺してやる。死ねぇ! 火炎爆球!」


 呪文を叫び、ジェイクは人一人ほどの大きさがある炎の球を放つ。



「はははははは! これで焼け死ね! 骨まで燃えろ! 原型すらも残すものか!  落ちこぼれのカスは燃えカスになるのがふさわしいさ!」



 聞くに堪えないジェイクの罵声。

 アイツの言葉は大抵がこちらへの罵倒か自慢なので、まともに聞く必要はない。


 だがしかし、彼の言葉の中には的を射ているものもあった。



「大事なのは、魔法を使う者の技量か」



 それに関しては、確かにと頷かざるを得ない。


 俺はフィオーネという神級精霊と契約し、空間魔法という強力な魔法を手に入れることができた。

 だが、俺自身はまだ未熟な魔法使いであることは変わってはいない。



「空間固定」



 目の前の空間ががっしりと固定される。


 空間魔法はその種類が豊富で、空間固定も魔法の一つ。 


 空間固定は好きな空間を固定する魔法である。

 その空間内にあるものは動けず、また外部からその空間に対して影響を及ぼすこともできない。


 人にそれを当てれば動くことはできなくなる。

 物にあてれば動かすことはできなくなる。


 では何もない空間にそれをすれば?

 その空間は何物にも阻害されず、破壊されず、動かず、絶対に壊れない透明な壁が出来上がる。


 ジェイクの放った火炎爆球は固定された空間にあたる。

 固定された空間は盾となり、爆炎から俺のことを守ってくれた。


 俺の体は無傷だ。


「正直、俺の魔法の腕は未熟なんだろうな」


 フィオーネと契約したのは昨日。

 使った魔法は今のをいれてもたった3回。

 

 未熟どころか素人同然といったところだ。

 上手く扱えているとはいいがたい。

 


「俺が強いというよりも空間魔法が強いんだ。だから、これは俺の実力ではなくこの魔法を授けてくれたフィオーネの実力だな」


 フィオーネに感謝しなければいけない。


『そんなに謙遜しないで。精霊の力は魔法使いの力なの。空間魔法がすごいっていうことは、マスターがすごいっていうこと』


 フィオーネは俺を、後ろから優しく抱きしめる。


 腕はクビに軽く回す。

 触れるか触れないかの弱い力で抱いてくる。


『この魔法はあなたの魔法。この力はあなたの力。あなたは誰よりも素晴らしい』


「そうかな?」


『そうだよ。神級精霊が認めた魔法使いだもん。誰よりもすごいの』


 彼女がそういうならば、あえて否定する必要はない。


「ふふっ」


 思わず自分の言動に自嘲して笑う。


 どうやら俺は、自分でも気づかない間に後ろ向きになっていたようだ。

 自身が落ちこぼれだと思い、自分に対して自信をなくしていた。


 同級生の誰もができることを一年もできず、見下され軽んじられてきた。

 それは俺の心から自信を奪っていたようだ。


 もはや自分は精霊と契約できない劣等生ではないというのに。


 俺は神級精霊の契約者。

 この学園、いやそれどころか世界中を見渡しても同じことをできた人はいない存在だ。



「少しは自尊心というものを取り戻してもいい頃合いかな」


『うんうん。そうだよ。マスターはもっと自信もって堂々としてればいいの。それにね、マスター。マスターは私と契約したからすごいんじゃないの。マスターがすごいから私が契約したの。その証拠が魔力だよ』

 

「魔力……」


 フィオーネの言葉を俺はかみしめるように呟く。


 フィオーネが言うには、俺の魔力は他人と比較してもけた外れに多いらしい。



『私の魔法はとっても多くの魔力を必要とするの。普通の魔法使いならたぶん一発も魔法を放つことはできないと思う。あのさっきの教師が3人いたって、マスターが使った空間固定すらできないと思うよ?』


「そんなにか?」


 メリック先生は教師としては手放しに尊敬できる人ではないが、魔法使いとしての実力は本物だ。

 特級精霊と契約している魔法使いであり、魔力量だって普通の魔法使いよりずっと多いだろう。


 それが3人いても空間固定すらできないって。


「それはずいぶん燃費がわるいな」


『でもその分強力だよ? あんな炎の球なんか、一万回撃ってもこの壁は壊れない』


 フィオーネが見つめるさきにある固定された空間の壁。

 空間を固定してできたものだ。

 

 外界からの影響は排除され、なにをしても壊れることも動くこともない。

 この魔法を使うのは初めてだから、検証をしたわけではないが。


『マスターなら空間魔法は何回できそう?』


「何回といわれても。よくわからないな」


 魔法使いは魔力が少なくなってきたら体に疲労感が出るらしい。

 半分使えば全力疾走したくらいには疲れるし、全部使えば指一本動かすほどの気力もなくなるくらい疲れる。


 いまの俺は、全力疾走どころか歩いた程度の疲労感もない。


「これなら何百回でもできそうだ」


『ほら。やっぱりマスターはすごいの。世界で一番の魔法使いだよ』


「世界で一番か。いいね、それ」


 そういう言葉は実は嫌いじゃない。


 まだ自分に自信が生まれたわけじゃないが。

 大切な自分の契約精霊を信じて、少しは前向きになってもいいのかもしれない。





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