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14話 決闘


 決闘。

 それは魔法使いの間ではたびたび起こるものだ。

 

 立合人の元で一対一の勝負が行われ、勝者は敗者に何でも言うことを聞かせることができる。


 魔法学園の生徒も決闘をすることは認められており、必ず教師が立ち会うことになっていた。


 俺はジェイクから申し込まれた決闘を受けることにした。


 立ち合いの教師は誰にするかと思ったが、すぐにメリックが来て立会人を行うと宣言していた。


 ジェイクが決闘をしかけてくるとすぐにメリックが来たことは偶然なのだろうか?

 作為的な何かを感じるが、メリックも決闘中に何かをしてくるわけがないはずだ。


 決闘の場所は訓練場から場所を映して闘技場で行われることになった。

 学園の生徒の決闘はそこで行われる。

 


「ははは。昨日の今日で随分とややこしいことになってんな」


 ローランドが苦笑している。


 決闘の話を聞いて、エリザとローランドは闘技場に来ていた。

 いまは控室で準備を整えているところだ。 


「ジェイクが決闘を吹っ掛けてきたんでしょ。あいつほんっとムカつく」


「うーん。訓練場で絡まれた時に怒らせたからなぁ。もしくはフィオーネを手に入れようとしているか」


「フィオーネちゃんを?」


 エリザが目を丸くする。


「どうしてそうなったの?」


 俺はさっきの訓練場でのことを二人に話す。

 ジェイクに絡まれたこと、そしてジェイクがフィオーネと契約したいと迫ったこと。

 俺もフィオーネもそれを断り、その過程でジェイクを怒らせたこと。


 それらを二人に説明した。


「ということで、あいつが決闘を申し込んできた」


「なにそれ。自分勝手で迷惑な話」


「フィオーネは百年ぶりに現れた神級精霊だからな。契約したいと思う奴はごまんといるし、無理矢理に奪いたいと思う人間も現れるか」


 ローランドはそう納得して頷く。


「そりゃ決闘で勝てば契約している精霊を奪うことはできるかもしれないけどさ。でもそれってマナー違反だよね。そういうのしちゃいけないってわかんないのかな」


 

 決闘の勝者は敗者になんでも命令できる。

 契約精霊を渡せと命令することはできるし、敗者はそれに従わないといけない。


 だが他人の契約精霊を欲しがり、それを無理やりに奪おうとする行為は重大なマナー違反だ。

 暗黙のルールであり、明文化されているものではないから処罰されることはない。だが、周囲からの心証は著しく悪くなる。


 そういう行為をした者は軽蔑されてその後苦労するものだ。

 他人の精霊と契約したいと勧誘することだけでも眉を顰める者も多い。


 訓練場でのジェイクの行いはマナーから逸脱した行為だ。



「つーかそれでフィオーネとアルの契約を解除させることはできるかもしれねえけどよ、だからといってあいつが契約できるとは限らねえよな」


 ローランドがひとりごちる。



 ローランドの言う通り、決闘に勝ったからと言ってフィオーネと契約できるとは限らない。


 精霊と魔法使いの契約は、両者の合意のもとで行われるものだ。

 魔法使いがどれだけ求めても、前の契約者がそれに合意したとしても、当の精霊が相手と契約を認めなければ契約などできはしない。


『わたし、あんなのと契約するつもりないよ。マスター一筋だもん』


「ありがとうフィオーネ。俺もフィオーネを誰にも渡すつもりはないよ」


『マスター!』


 嬉しそうな声をあげた後、ぎゅっと後ろからフィオーネが抱き着く。


「ちょ、ちょっと! そこ! 抱き着かない! 離れて!」


『私とマスターの問題だよ。あなたには関係ないも~ん。それとも、私とマスターの仲に嫉妬してる?』


「そ、そんなこと……。ないこともないっていうかなんというか」


 エリザの声が後半から小さくなりはっきりと聴き取れなくなる。


「どうした?」


「う、うう。うるさいな、もう。それよりこれから決闘だよ。緊張感というか、そういうのをもった方がいいってこと!」


「ごめんごめん。それもそうだね」


 言われてみればエリザの言う通り。


 緊張や不安でがちがちになるよりかはマシだが、緊張感のないまま決闘に挑んで油断して惨憺たる結果になることは避けたい。



「ジェイクの考えなんてわからないな。契約を断られた嫌がらせに決闘したってだけかもしれん。むしろその可能性が一番高い。つーかジェイクの思惑よりも、問題はアルの方だぜ。本当に大丈夫か? アルは昨日契約したばっかだろ。魔法を使うのは慣れてないんじゃないか。そもそも今日までの間に魔法は何回くらい使ったんだ」


「2回」


「2回!?」


「おーマジか。やばいな」


 エリザは愕然とし、ローランドは手を額にあてて上を見上げた。


「そんなにマズイかな?」


「マズイな。いいか? 魔法っていうのは使うほどに洗練されていくものだ。習得したばかりの魔法と日が浅い魔法じゃ威力も精度も雲泥の差だ。2回しか使っていないって、そりゃほぼ力を引き出せない可能性すらある」


「そうなんだ……」


「しかも相手はジェイクだからな。ムカつく奴だし嫌いだが、あいつは魔法の才能だけはある。今の2年で上級以上の精霊と契約してるのなんて、あいつを入れても5人しかいない。しかも上級精霊と契約してけっこうたっているからな。上級魔法の扱いも慣れてるだろう」


「でも心配する必要なくない? フィオーネちゃんは神級だよ? 神級の魔法ならジェイクの上級魔法なんて相手にならないでしょ」


「いや、でも。割と魔法の扱いの慣れって重要だから」


「ローランド! そんな戦う前から不安がらせるようなこと言っちゃダメだって」


「はは。心配してくれてありがとうエリザ。でも大丈夫だよ。ローランドもありがとう。相手が熟練だろうと関係ない。俺は俺のやるべきことをするだけだ」


「おいおい。なんか今日はいやにやる気だな」


「正直俺、いま割と怒ってるから」


 発した言葉には怒りの感情が乗り、少し声が低くなる。

 これまではできるだけ表面に出さないように意識していたが、実は腹が立って仕方ないのだ。


「まあ、昨日はダンジョンの下層に落とされた上、今日はこの決闘騒ぎだからな。キレるなと言っても無理な話か」


「それもあるけど、訓練場のことだ。あいつ、フィオーネをアバズレって言いやがった。それはさすがに許せないな」


 めらめらと怒りの火が燃え上がるのを感じる。


「お、おう。お前の怒ったところはじめて見るな」


「がんばってね、アル! その怒りを全部ジェイクにぶつけよう!」


「ああ。必ず勝つよ」


 控室を出て、俺は闘技場の方へと向かった。

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