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13話 放課後



 放課後になり、俺は校内にある訓練場へと足を向けた。

 授業外に魔法の訓練をするにはそこしかない。


 フィオーネと契約して魔法を使うことができるようになったが、できるだけで使いこなしているとはいいがたい。


 契約したてで魔法を使ったことも2回しかないのだから当たり前だが。

 そんな簡単に使いこなすことができるのなら、魔法学園なんて必要ない。


 己の魔法の訓練することは魔法学園では必須のことだ。



「やあ。アルバート」


 訓練場に来た俺に話しかけてきたのは、ジェイクだった。


 今日も取り巻きを2人連れている。


「魔法の訓練かい? 精が出るね。無駄なのに」


「何の用事だ」


「おお怖い怖い。睨んできてさ。なんだい? 精霊と契約したとたんに調子に乗ったかい? 落ちこぼれの癖に生意気じゃないか」


「ジェイク。一応言っておくが、俺は昨日お前にされたことは忘れていないぞ」



 こいつに下層に落とされたせいで俺はあやうく死にかけた。


 確かに下層に落ちたおかげでフィオーネと出って彼女と契約できた。

 フィオーネと契約をして、空間魔法を習得できたおかげで助かった。


 結果的に見れば俺は得をしたというわけだが。


 だがしかし、それとこいつがしたことは話が別だ。


 ジェイクのした悪事を許すことはしない。

 学園長が不在だからこいつはまだ裁かれていないだけだ。 


「ああ。そのことか。まあそれはどうでもいいさ。というか、君も助かったんだろ? じゃあいいじゃないか。いちいち細かいことを気にするなよ。落ちこぼれのうえ器まで小さいのか?」


「いいわけないだろ。なんだ? 喧嘩を売りに来たのかよ」


「あながち間違っちゃいない。だが、その前にすこし用事があってね」



 そして、ジェイクは俺の斜め後ろを見て言う。


「君の精霊さ。いまここにいるんだろう。出てきなよ」



「…………」



 フィオーネを呼んでいるらしいが、彼女は出てこなかった。



「おい! 聞こえているんだろ! 出てこい!」



 フィオーネを呼んだにも関わらず何も出てこないことに気分を害されたのか、ジェイクは大声で再度フィオーネを呼ぶ。


 

 しかし、何も起こらなかった。

 フィオーネは出てこない。


「おい! ふざけんな! お前! さっさと精霊を出せ! なに隠してんだよ!」


「別に隠してはいないが」


 なんでこんなにフィオーネを出してほしいのか。


 別に彼女を呼んでやる義理などないが、とりあえず彼女が出てこないことには話が進まないのでフィオーネに話しかける。


「あー。出てきてくれ。フィオーネ」


『はーい! なぁにマスター!』


 俺が呼ぶとすぐにフィオーネは現れた。


「すぐに出たね」


『だってマスターが呼んでるんだもん♪』


 フィオーネは嬉しそうににこやかに笑う。




「おいお前。僕が何度も呼んでやったのに無視しやがったな!」




『ねえマスター。これから魔法の訓練なんでしょ。私が応援する!』


「応援って。それはちょっと恥ずかしいよ」


『え~。じゃあ魔法を使う間はくっついてていい?』


「使いにくいから今くらいの距離がいいかな」


『やだやだくっつきた~い』


「昨日寮に帰ってからたくさんくっついたでしょ。なんなら今朝も」


 くっついた、というのは文字通りくっついただけだ。

 彼女はスキンシップが好きらしく、隙さえあれば俺の腕をとってほおずりしたり、後ろから抱きしめて俺の頭の上にあごをのせてくる。


 いかがわしいことは決してしていないからな!


 まあ彼女の大きな胸に、そそられる気持ちもなくはないが。 




「おい聞いているのかお前ら!」




『でもでも、ここに来てからずっとマスターが相手してくれなかった。わたし全然くっつけてない』


「それは授業があったから」


『でももう授業っていうのはないんでしょ。ならいいじゃない』


「これから魔法の訓練をするんだよ。終わったらたくさん遊ぶから我慢してくれ」


『え~つまんな~い』




「おい僕を無視して話してんじゃねええ!」




 ジェイクが怒鳴り、うるさい声が耳に響く。



「ああ。いたなそういや」


「いたなじゃねえ! ずっといるだろうが!」


「悪い悪い。で、いったいなんなんだよ。フィオーネと会って会話でもしたかったのか?」


 正直フィオーネの教育に悪いからあんまり話させたくないんだけど。



「黙れ落ちこぼれ。というかおいそこの精霊。僕が呼んでも出なかったのに、なんでこいつが呼んだらすぐに出てくるんだ。わざと無視しやがったな」


『わたしを呼んでいいのはマスターだけ。マスター以外の呼びかけに答える必要はないしそんな気もない』


「くそ。なんだこの生意気な奴は。精霊のくせに」


『あなたは精霊に対する敬意がないね。最低』


 フィオーネは冷ややかな目でジェイクを見る。


「く、まあいい。しつけは今後に取っておくとしよう。精霊、今日は君に用があるんだ」


『わたしはない』


 取り付く島もないというのはこのことで、フィオーネはジェイクに対してすぐに拒否を示した。


『ねぇ、マスター。早く魔法の訓練に行こう? 時間の無駄だよ』


「確かにそうだな」


 そもそもこいつに付き合う必要もない。

 時間の無駄というのは同意する。


「なあ、ジェイク。言いたいことがあるならさっさと言ってくれないか。正直、俺は別にお前と会話なんてしたくもないんだ」


「僕だってお前みたいなカスと話したくなんかないよ。話があるのはそこの精霊さ。おい精霊。こんな落ちこぼれとの契約なんて解除して、僕と契約しないか?」


「はあ? 何を言っているんだ」


「黙ってろよ落ちこぼれ。僕はそこの精霊に言っているんだ」



 こいつはいきなり何を言っているんだ。

 級に話しかけて来たかと思えば、人の精霊を横からかっさらおうだなんて。


 しかしジェイクの言葉に異論があるのは俺だけではなかった。


「お、おい。ジェイク。ちょっと話が違くないか? 例の計画はどうするんだよ」


「そうだよ。このままだとアイツの契約精霊がいなくなって魔法を使えなくなるじゃないか」


 取り巻きの二人がそう言ってジェイクの肩を掴む。

 話が見えないが、ジェイクがフィオーネを欲しがるのはどうやら想定外のことらしい。


「ああ。そのことか。もちろん僕は抜かりなく考えているよ。おい落ちこぼれ。そこの神級精霊を僕にくれたら、僕が契約している精霊のうち代わりのを一体くれてやるよ。中級精霊を一体やろう。お前にとっても悪い話じゃないだろう?」


「悪い話でしかないが? なんで神級精霊を失って中級精霊を得るのが悪い話じゃないと思うんだよ。格が合わないだろ」


「偶然神級精霊と契約をして舞い上がってるようだけど、君なんてすぐ愛想突かされて契約を解除されるさ。だからその前に僕がこの神級精霊と中級精霊を交換してあげるんだよ。落ちこぼれのカスには中級精霊は破格の待遇さ。これがいい話でなくてなんなのさ」


『わたしはマスターと契約を解除なんてしない』


「はは。それは君がこいつをよく知らないからさ。なあ、こいつがこの前までどんなあだ名で呼ばれていたと思う? 落ちこぼれだ。そんな奴と契約していれば君も苦労するよ。それよりさ、僕と契約しなよ。僕はこの年で上級精霊と契約した将来有望な魔法使いだ。こいつより僕と一緒にいた方が、君のためにもなる」


『いや! お断り!』


 ふん、とフィオーネがそっぽを向いた。


「僕と契約しなければ後悔するよ?」


『しない。あなたみたいな人は一番嫌い』


「なんだと……!」


『わたしと格がぜんぜんつりあってない。だから契約なんて考えられない。それに私は一途なの。マスターと離れて他の人と契約なんて絶対にしない。あとわたしの大好きなマスターを馬鹿にした人と契約なんて絶対に無理。ほんと嫌い。顔も嫌い』


「な、ななな……」


『わたしは神級だよ? あなたが上級精霊と契約したからってなんなの? 何の自慢になるの? わたしにとっては下級も上級も変わらない木っ端精霊なの。それと契約したのがそんなに自慢なら、そこらの木っ端精霊と契約していれば? わたしと契約するなんて高望みしないで。あと顔が嫌い』



 フィオーネがめちゃくちゃ悪口を言っている。

 この短い間で、ジェイクにかなり不満が溜まっているんだな。


 あと顔が嫌いって二回言ったな。

 どれだけ嫌いなんだろうか。


「なんだとこのクソ精霊が! 下手に出ていりゃいい気になりやがって! ああそうかい、僕だってお前みたいな口も性格も悪いアバズレなんて願い下げだよ!」


 フィオーネの言葉を聞いて、鼻息を荒くしながらジェイクはそう叫ぶ。

 

「くそ! くそ! たかが精霊の癖に! 僕を馬鹿にしやがって!」


『あとさっきから精霊って言ってくるのも嫌い。わたしはフィオーネって名前がちゃんとあるの。そういう失礼な呼び方はしないで』


「精霊に精霊って言って何が悪いんだよ、クソが!」


「ほんとに敬意も何もないな」


 仮にも自分から契約を申し出た相手だろう……?


 全ての精霊に敬意をもてとは言わないし、別に腹の中でどう思うとそいつの勝手だが。しかし自分がこれから契約しようとした相手に向かってその態度はどうだろうか。



「それにしてもフィオーネ」


『な、なに。マスター。えと、もしかして怒った……?』


 恐る恐ると、フィオーネは声を出す。

 言い過ぎたのかもしれないと思っているのだろう。


「怒ってないよ。むしろスッとした。フィオーネは最高の精霊だ」


『! 嬉しい!』


 ぎゅーっとフィオーネは後ろから俺を抱きしめる。


『えへへ! マスターも最高の契約者だよ!』


「じゃあ二人で最高の精霊と契約者だ」


『うん! ふふふふ!』



「この僕を無視して盛り上がってんじゃねええええええ!」



 ジェイクは懐から手袋を取り出した。


「くそ! 神級はもういい! そもそももとからこうする計画だったんだ! おい、落ちこぼれ!」


 ジェイクは取り出した手袋を投げ、それは俺の体に当たった後地面に落ちた。



「決闘だ!」




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