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10話 打ち上げ②



 打ち上げが開始して一時間が経過していた。


 そこまでくるともうみんなお腹も膨れていて、後は酒と会話だけが続いている状況だ。



「俺はさぁ、思ってたんだよ! お前はいつか大物になるってな!」



 ローランドは酔いも回り、上機嫌で俺の肩に腕を回していた。

 手にはジョッキをもって、景気よくグビグビと飲んでいる。


 もうけっこうな量を飲んでいるはずだが、よくまだ飲めるな。



「やっぱすげえよアルはさ! あはははは!」


「大物になったわけじゃないよ」



 俺はローランドほど酒が飲めるわけでもない俺は、大して酔っていなかった。


 こうして彼の軽口を否定できるくらいには理性的だ。



「いーーや! 大物だな! エリザもそう思うよな!」


「もっちろんよ! あったりまえよ! アルは私の誇りよーーー!」



「「いえーい」」



 パン、と音を立てて二人はハイタッチを交わした。


「この酔っ払いどもめ……」


 この二人が酒を飲むと、こうしてお互いに泥酔するから俺が強く酔えないのだ。

 誰かが介抱しないといけないからな。


 まあ俺自身、こうして派手に酔っぱらうのが好きでもないからいいんだけど。


『あはははは! つかまえてごらーん!』


「待て待てー」


 酔ったエリザとフィオーネが追いかけっこをしている。


 泥酔のエリザはともかく、酒が飲めないフィオーネは酔っていはいないはずだが。

 この酒が飲めないというのは下戸という意味ではない。精霊は食べ物も飲み物も接種しないのだ。

 食べさせようとしてもそっぽを向くだけで、何も食べないし何も飲まない。


 理由は不明。

 消化器官がないから物理的に食べられないのか、食べられるけど必要ないから食べないだけなのか。

 



『みんなようきだね! たのしいなー!』


 ま、そんなことは置いといて、フィオーネはたぶん彼女は素であれなのだろうな。



「なんだよ、おい。今日の主役がつまんなそうな顔してんなぁ!」


「これでもけっこう楽しんでるよ。二人の酔ってる姿とか面白いし」


「面白いならよかったぜ! あ、そういや何の話してたっけ?」


「大物になるとかそんな話」


「そうそう、そうだ。お前が大物だってことさ」


「だからそんなんじゃないって」


 謙遜してるわけじゃない。

 実際に俺はそう思っている。


 神級精霊と契約したのはすごいことだとは思うが、それはフィオーネがすごいということだ。

 俺自身はまだ精霊と契約しただけの、まだ魔法使いの卵だと言っていい。

 


「そうか? 神級精霊と契約できたことだけでも偉業だと思うがな」


「それはそうだけどさ」


「だろ? 世界で四人目の神級魔法使いだぜ。しかも、百年ぶりの快挙だ」


「それも今日何回も聞いたよ」


 おもにこの打ち上げ中に。 

 ローランドとエリザからそれはもう何回も。


「そういや、なんでいままで契約できなかったんだろうな」


「それは神級精霊が見つからなかったからじゃない? 発券された神級精霊自体がフィオーネで四体目らしいよ」


「あ、そっちじゃない。なんで神級精霊の契約者がでなかったってことじゃなくて、なんでアルがいままで契約できなかったのかって話だよ」


「なんでって。それは俺が聞きたいよ」


 これまで精霊と契約できなくて、俺がどれだけ悔しい思いをしてきたことか。



「下級や中級と契約できなかったのに、神級とは契約できるってのもおかしいよな。度数の低い酒は飲めないけどウォッカは飲めるみたいなもんだぜ」


「酒飲みの例えだな」


「もしくはクラスの女子からすら見向きもされないのに、いきなり美人で巨乳で金持ちの貴族のお嬢様から告白されるみたいなもんだな」


「思春期の例えだな」


「俺も巨乳の女から告白されて付き合いたいなあ!」


「別に俺は恋人ができたわけじゃなけどね」


 

 最後はともかく、途中まではローランドが言いたいことはわかる。 

 それは俺も感じてたことだ。


 なぜ下級精霊とすら1年間も契約できなかったような奴が、神級精霊とは契約できたのか?


 普通、精霊は格が低いほど契約の難易度は低く、逆に格が高いほど契約難易度は高い。

 下級、中級の精霊と契約できても上級精霊とは契約できなかった者なんてごまんといる。


 しかし、逆はない。

 上級や特級の精霊と契約できるのに下級精霊と契約できなかったなんて例はきいたことなかった。


 精霊が何を基準に契約を了承しているのかはわからないが、なにかしらの基準があり、それに則ってやっていることは明らかだ。


 だから、俺が神級精霊であるフィオーネと契約できたことはおかしいのだ。



『なんの話?』


 俺とローランドの話に、フィオーネが割り込む。


 エリザとの追いかけっこはもう終わったのだろうか。

 というか飽きたのだろうか。


 エリザは椅子の上でまた酒を飲み直していて、フィオーネは俺達の方に来ていた。


「どうしてアルがいままで精霊と契約できなかったのかって話」


『それならわかるよ。マスターがすごいからみんな契約してこなかったの』


「なにそれ?」


 俺がすごいから契約できなかった?

 

「すごいって、なにがすごいんだ?」


『魔力だよ』


「魔力……」


 魔力とは、魔法を使うためのエネルギーだ。

 そのエネルギー量が多ければ多くの魔法を使うことができる。

 あるいは強力な魔法を使うことができる。


 特級や上級といった精霊が与える魔法は使うために必要な魔力量が多い。

 だから多くの魔力をもっていなければ魔法を使えず、上級・特級の精霊と契約しても意味がないといわれている。


 とはいえ多くの魔力といっても、修練次第で到達可能な量ではあるがな。


 上級魔法ならば魔法使いならほとんどの人は使える程度の魔力を所持している。


 特級魔法は長い時間をかけて修練をするか、あるいは生まれついて魔力量の多い人間でなければ使えない。

 それでも努力で到達可能な地点であることは違いない。 


 神級ともなるとさすがにわからない。

 そもそも前例が少ないし、そのわずかな前例も百年以上前のものだから詳しい記録がないのだ。


「アルって魔力多かったっけ?」


「昨日まで魔法を使ったことないからわからん」


 魔力を測る方法は、魔法を使うことでしかわからない。

 大抵の魔法使いは下級魔法や中級魔法をどれだけ出せるかによって魔力量を計測している。


 魔力量を測る便利な装置はなかった。

 その装置を作る必要もなかったのだろう。


 魔法を放つという簡単な計測方法があるのだから。



 例えば、体力がどれだけあるのか理解するために何かしらの計測装置が必要だろうか。


 そんなものは必要ないだろう。

 体力なんて、何分走れるか、何分動けるかで簡単に計測できるのだから。

 それと似たようなものだ。



 そして俺は、そもそも精霊と契約できずに魔法を使えて来なかった。だから自分がどれだけ魔力をもっているのかなんて知らなかった。

 知る方法がなかった。


 仮に知っていたとしても、精霊と契約できないのだから特に意味はなかっただろうが。



「すごいのか?」


 ローランドがフィオーネに訊く。



『とってもすごいよ。私のマスターだもん』


「どのくらいすごいんだ? ていうか精霊ってそういうのわかんのか」


『他の精霊もわかるんじゃないの。びびびって感じるから』


「びびび? 精霊の感覚ってよくわかんねえな……」


『わたしは、人間がどうしてわかんないのかわかんない』



 種族の差を感じる言葉だなぁ。


 霊体であるが故の独自の感覚器官をもっているのだろうか?

 まあよくわかんないし、そこらへんは偉い人が調べればいいから今はかんがえるのやめよう。


「で、アルの魔力はどんだけすごいんだよ」


『もうめーっちゃすごい。このくらい』


 両手をバーンと大きく広げてアピールしているが、まったくわからない。


「それじゃわからん。なんかで例えてみてくれよ」


『うーんとね、君がコップ1杯』


 フィオーネがローランドを指さして言う。


『そっちの子がちょっとおおきいコップ1杯』


 次いでエリザの方を指さす。


『さっきアルがいた学園? ってとこにいた大人の人たちがバケツ1杯』


 学園にいた大人の人たち。

 教師たちのことだろう。


『それで、マスターが海』


「「…………」」


『海だよ。どう? マスターはすごいでしょ?』


 フィオーネはふふん、とどや顔をしている。


「海って、あの海か? 水がたくさんあって、ちょっとしょっぱい」


『その海だよー』


「え、まじで? 俺らがコップで、教師がバケツで、こいつが海!? スケールが違いすぎて意味わかんねえ!」


『すごいよね。さすがマスターだよね』


「おいおい格がちがうだろ……。いや大物になるとか言ったけど、そこまでとは思わなかったよ」


「でもじゃあ、なんでそんなに魔力を持っている俺は今まで契約できなかったんだ」


『マスターがすごすぎるから。マスターの魔力は多すぎて、他の格の低い精霊じゃとても契約できなかったの。私たちは、同格の相手じゃないと契約できないから』


「精霊の格っていうのは下級とか中級とかだよね。じゃあ人間の格っていうのは」


『魔力量のこと』


「だよなあ、おい!」


 フィオーネの言葉にローランドが首肯する。


『ここまでに色んな人を見たけど、みんな大した魔力じゃなかった。マスターだけが飛びぬけてすごかった。やっぱり私と釣り合うのはマスターだけ』


 フィオーネがピトリと俺にくっつくように体を寄せる。


『それに、マスターと釣り合うのは私だけ。運命の相手、だね』


「ちょっと! そこくっつきすぎ! いくら精霊でも節度をもって!」


 こちらを見ているエリザが大声で注意をし始めた。

 その様子にムッとフィオーネがむくれる。


『私とマスターの関係にほかの人が口をはさまないで』


「うっさい! 私はアルの友人として、節度ある関係を説いているだけよ!」


『精霊と契約者が仲良くして何が悪いの? きみだって精霊に近づくでしょ?』


「それは、そうだけど……。でもフィオーネちゃんはシャクティと違って人型だし、ていうかめっちゃ美人だし、それなのになんか幼い言動でギャップ萌えというか、実はライバルなんじゃとか感じるし。いや人と精霊がそういう関係になるなんて聞いたことないけど、でもなんか危ない気配感じるし……」


「ちなみに人と精霊が恋愛関係になった例はあるけどな」


 ローランドの発言に、エリザはぎょっとする。


「え? フィオーネちゃんは人型だからわかるけど、他の精霊は動物の形だよね? 恋愛?」


「恋愛ってのはいいすぎかもな。精霊側がそう感じてたのかはわからねえし。片思いかもな」


「だとしても動物だよね!?」


「業の深い話だぜ……」


 ローランドがうんうんと頷き、エリザはその衝撃的な話に悲鳴を上げていた。



『恋愛ってなに? 私とマスターみたいなこと?』


「そこらへんについてはまた今度教えてあげるね」



 あれ?

 さっきまで、魔法とか精霊とかについて重要な話をしていたと思ったんだけどなあ。


 なぜこうもわちゃわちゃした騒ぎになるのだろうか。


 まあ酒場ってそういうもんかと思って、俺はテーブルにあるコップを掴んで酒を飲みほした。



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