河童{2}
チキン南蛮の専門店は駐車場の台数が少ない。由利はすぐ近くの有料駐車場に停めた。こうした方が行列を気にせずにゆっくり食事ができる。
宗久は初めて食べる南蛮酢だけのチキン南蛮に驚いている様子だ。あまり大きくない店内はゆっくりとおしゃべりをするのには向いていない。由利と宗久は食べ終えると勘定を済ませすぐに店を出て近くのファミリーレストランに移動した。
食事は既に済ませているので、二人はドリンクバーとケーキのセットを注文した。
「チキン南蛮の進化ってラーメンの進化とよく似てるな。」
宗久は突然ラーメンとチキン南蛮を比較した。
「何その比較、即席ラーメン思い出したりしてないよね。チキンとラーメンだから。」
由利は宗久に突っ込んでみた。
「甘酢のチキン南蛮とタルタルのチキン南蛮はもう別物だな。醤油ラーメンと豚骨ラーメンぐらい違う。」
宗久の言葉を聞いた由利は〈こいつ社交辞令じゃなくて、頭ん中にあることそのまま喋ってんだ。〉と嬉しい反面、それ以上にムカついた。
「〈チキン南蛮も美味しいけど久々に由利と食べたらもう最高。〉とか言わない訳。」
由利は宗久を睨んで笑いながら言う。宗久は由利には必要以上に気を使わない。同時にそれは由利にとっても気が楽になる。
「うまかったよ。」
「そんだけ。」
宗久が短く言うので由利も同様に答える。
由利は宗久と付き合い始めてあまりにも冷静なのに驚いた。知人で人生の先輩でもある藤川弥生に相談すると、
「ストレス解消になるように言いたいことを全部言ってみたら。感情をその都度ぶっつけてみたらいいじゃない。それで会うなら最高よ。」
由利は弥生が興梠修一郎のことを言っているのだと即座に理解した。修一郎と弥生のドタバタが由利は羨ましい。そんな光景を思い出しながら窓の外に視線を向けていると、
「思い出に耽っているの。」
と宗久の声がした。