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河童  作者: 黒井 羊
1/2

河童〔1〕

 10年以上前に書いた作品なのですがディスクやメモリースティックを紛失してしまいました。そこで記憶を掘り起こしながら再度書いています。

 ただ、パソコンを修理に出した際に店舗スタッフがコピーしている可能性もあるので、もしかしたら関係者の間に原文が出回っているかもしれません。

 尚、本編に登場する小動物の行動描写は必ずし動物学上で正しいとは言い切れません。ご了承ください。

 日向灘に沿って南北に伸びる国道10号線を車が一台台北上している。運転席にいるのは吉野由利、助手席には由利の婚約者の梨田宗久が乗っている。

 今日は天気がいい。宮崎の青い空と海を宗久に楽しんで貰おうと由利は運転を買って出た。

 右側の視界が開ける度に、

「宮崎名物だよ。」

と由利は言うのだが宗久はうわの空だ。右を向いた宗久が見ているのは由利の横顔と胸の膨らみだ。風景より自分を見ている宗久に悪い気はしない由利なのだが、

「何処見てるの。」

とついつい言ってしまう。宗久は宮崎に来て旅の恥はかき捨てモードになっている。

「腹減った、お昼は鶏南蛮(とりなんばん)冷飯(ひやめし)だろ。早く食いてー。」

 東京での宗久と今の宗久が余りに違い過ぎて由利は可笑しくて仕方ない。

「あのね、宗久(だいちゃん)。鶏南蛮じゃなくてチキン南蛮。冷飯じゃなくて冷汁。それから冷汁はお店にないよ。お婆ちゃんが作るの。」

 由利は宗久の言葉を訂正した。そして由利が宗久を大ちゃんと呼ぶのは那須資隆(なすのすけたか)の十八男那須大八郎宗久と同じ名前だからだ。

 那須大八郎宗久とは宮崎の椎葉村に伝わる『鶴富伝説』の主人公だ。


 由利は二回目のデートで宗久に

「大ちゃんって呼んでいい。」

と尋ねた。宗久は

「どうして。」

キョトンとしていた。由利が宗久に鶴富伝説の話をすると、

「それじゃあ俺、由利を鶴ちゃんて呼ぶな。」

と言う。

「それは嫌。」

 由利は即答した。すると宗久が一瞬で(しな)れた。由利は

「ゴメン、大ちゃん。私は由利って呼び捨てがいいな。」

と目一杯の笑顔を作り宗久の耳元で囁いた。すると宗久は

「分かった、由利。」

とたちまち元気を取り戻した。

 由利は宗久に対して一つだけ気になる事がある。宗久がジグソーパズルなら主要な箇所が一ピース(ワンピース)だけ抜けているように見える。宗久にも辛い出来事あったり苦い思い出があるのだろうと考えた。でもそれが恋愛に関するなら自分は力不足ではと悩んだ。そんな時に梨田宗久と那須大八郎宗久が繋がり、宗久を〈大ちゃん〉と呼ぶと気が楽になった。それは今も同じだ。


 由利と宗久があれこれ喋っているうちにチキン南蛮の有名店に到着した。

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